表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
聖女たちの越冬と、王国の新しい風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/86

第5話 雪祭りとお菓子作り

 降り続いた雪がようやく止んだ。

 サンクチュアリは深い静寂と真っ白な雪に覆われている。

 それはとても美しい光景だったけれど、毎日同じ景色ではさすがに少し退屈してくるのも事実だった。


「……なんだか静かすぎて、身体がなまりそうだわ」


 朝食の席で私がぽつりとそう漏らした時だった。

 エレノア様がにやりと悪戯っぽく笑った。


「よし、リリアちゃん。それならいっちょ派手に祭りでもやるか」

「えっ、お祭りですか?」


 その一言がきっかけだった。

 私たちの長くて静かだった冬ごもりに、新しい彩りを加える「雪祭り」が開催されることになったのだ。


 ◇     ◇     ◇


 祭りの準備はすぐに始まった。

 主役はもちろん、この降り積もった雪だ。


 エレノア様は魔法を使って中庭に巨大な雪の塊を作り出した。

 そして氷の彫刻刀を手にすると、あっという間にその塊を彫り上げていく。

 みるみるうちに姿を現したのは、巨大な聖狼フェンリルの雪像だった。

 その迫力と精巧さは王都のどんな芸術家の作品よりも素晴らしい。

 本物のフェンリルも自分の雪像を前に、どこか誇らしげな顔をしていた。


 フィオナさんは聖獣たちを集めて雪合戦を始めていた。

 ふわふわの子狐たちが丸めた雪玉を投げ合う。

 グリフォンの若鳥が空から雪を降らせる。

 その賑やかで楽しそうな光景に、私も自然と笑みがこぼれた。


 そして私の役目はもちろんお菓子作りだ。

 寒い雪の中で皆の体を温める特別なお菓子。

 私は体をぽかぽかと温める効果のあるショウガをたっぷり使った、特製のジンジャークッキーを焼いた。

 そして大鍋には甘くて熱いホットチョコレートをなみなみと用意する。


 祭りが最高潮に達した頃。

 私は皆に温かい飲み物とお菓子を振る舞って回った。


「うめえ! 冷えた体に染みるぜ!」

「まあ、美味しい。ショウガの辛さが良いですね」


 エレノア様もフィオナさんも、子供のようにはしゃいでクッキーを頬張っている。


 ふと視線を巡らせると。

 少し離れた場所でクラウス様が、その輪に加わるのをためらっているかのように立っていた。

 私はホットチョコレートをカップに二つ注ぐと、彼の元へと歩いていく。


「……どうぞ」


 私がカップを差し出すと彼は驚いたように私を見た。


「……よろしいのですか」

「はい。あなたもこの里の仲間なのですから」


 私は少し照れながらもはっきりとそう言った。

 私の言葉に彼は一瞬息を呑んだ。

 そして彼がここに来てから初めて見せるような、穏やかで心からの優しい笑顔を浮かべたのだ。


「……ありがとうございます、リリア様」


 彼は受け取ったホットチョコレートを一口飲む。

 その固まっていた心の氷が、ほんの少しだけ溶けていくようなそんな気がした。

 私も自分のカップを口に運ぶ。

 甘くて温かいチョコレートが私の心も優しく満たしていく。


 白銀の世界で開かれたささやかなお祭り。

 それは私たちの絆をまた一つ深く結びつけてくれた、忘れられない一日となった。

 サンクチュアリの冬は温かい笑顔と、チョコレートの甘い香りに包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ