第3話 クラウスの手仕事
サンクチュアリに本格的な冬が到来した。
外は一面の雪景色。
畑仕事もできないこの季節、クラウス様は何をして過ごしているのだろうか。
私がそんなことを考えていた、ある日のことだった。
私のコテージの扉がコンコンと、控えめにノックされた。
開けてみるとそこにいたのはクラウス様だった。
その手には何やら木製の小さな棚を抱えている。
「……リリア様。その、これは……」
彼は少し気まずそうに視線を逸らしながら、その棚を私に差し出した。
「先日あなたが香辛料の瓶を整理するのに、困っているようにお見受けしたので……。勝手ながら作ってみました」
それは森の木材を綺麗に磨き上げて作られた、二段式のスパイスラックだった。
騎士のごつごつとした手からは想像もできないほど、丁寧で温かみのある作り。
大きさも私のキッチンの窓際に、ぴったりと収まるように計算されているようだった。
「……ありがとうございます」
私は素直な感謝の言葉と共にそれを受け取った。
彼の意外な特技。
そして私のことをちゃんと見ていてくれたという事実。
それがなんだかくすぐったかった。
◇ ◇ ◇
それからというもの。
クラウス様は冬の間の時間を使って、里の大工仕事のようなことを引き受けるようになった。
彼が黙々と何かを作っている姿は、すっかりサンクチュアリの冬の風物詩となる。
エレノア様の部屋には彼女の重たい鎧や武器を、びくともせずに支える頑丈な戸棚が作られた。
「ふん。なかなかやるじゃないか、あの小僧。見直したぞ」
エレノア様はぶっきらぼうにそう言いながらも、その口元は満足そうに緩んでいた。
フィオナさんの温室には薬草の小さな苗を並べるための、繊細な飾り棚がいくつも設置された。
「まあ、素敵。クラウスさんはとても器用な方なのですね」
フィオナさんも嬉しそうにその棚を眺めている。
彼は誰に頼まれたわけでもない。
ただ皆の暮らしを見て、そこに足りないものをそっと補うように物を作っていく。
その不器用で実直なやり方。
それこそが彼の贖罪の形なのだった。
彼は決して言葉で許しを乞うたりはしない。
ただ行動で示し続ける。
自分がこの里の一員として役に立ちたいのだ、と。
そのひたむきな姿に、私の心もエレノア様やフィオナさんと同じように少しずつ変化していくのを感じていた。
騎士の剣を置いた彼の手。
その手が生み出しているのは人を傷つけるものではない。
人の暮らしを豊かにする温かい家具たち。
私はキッチンに置かれたスパイスラックを指でそっと撫でてみた。
木の優しい温もりが、私の指先からじんわりと心に伝わってくるようだった。
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