第10話 サンクチュアリの発展
私が来る日も来る日もジャム作りに勤しんでいるのを見て、エレノア様が呆れたように言った。
「リリアちゃん。そんなにジャムばかり作ってどうするんだ。冬の間、毎日パンにジャムを塗って暮らす気か?」
「え、ええ。保存食と言えばジャムかな、と……」
「はぁ……。あんたは本当にお菓子作りのことしか頭にないんだな」
彼女はやれやれと首を振ると、おもむろに立ち上がった。
「よし、あたしがもっとマシな食料庫を作ってやる。ついてきな」
「えっ?」
私は訳が分からないまま、彼女の後を追った。
◇ ◇ ◇
エレノア様が私を連れてきたのは、コテージの裏手にある小高い丘の中腹だった。
彼女はその岩肌がむき出しになった崖の前で仁王立ちになる。
「まあ、見てな」
彼女が片手をすっと崖に向かってかざした。
そして何事かぶつぶつと呟き始める。
それは古代語の魔法の詠唱だろうか。
すると崖の表面がまるで粘土のように、ぐにゃりと形を変え始めたのだ。
岩が自ら道を開けていく。
あっという間にそこには、人が楽々通れるほどの洞窟の入り口が出来上がっていた。
エレノア様はさらに洞窟の奥深くに向かって手をかざす。
「――【永久氷結】」
彼女のその一言で洞窟の奥から、キーンと冷たい空気が吹き出してきた。
中の気温が急速に下がっていくのが肌で分かる。
「これでよし。天然の氷室の完成だ」
エレノア様は満足げに頷いた。
「ここなら肉も魚も新鮮なまま、冬の間保存できる。ジャムなんぞよりよっぽど役に立つだろ」
「……すごいです」
私はもうその言葉しか出てこなかった。
魔法一つで巨大な冷蔵庫を作ってしまうとは。
初代聖女様の力は本当に規格外だ。
その数日後。
今度はフィオナさんが私の元へやってきた。
「リリア。私も良いものを思いつきました」
彼女が私を連れて行ってくれたのは日当たりの良い南向きの斜面だった。
そこには聖獣のサイクロプスたちが巨大な岩を運び込み、何かを作っている。
そして森からは蜘蛛の聖獣が、丈夫で光を通す特殊な糸を吐き出していた。
半日も経たないうちに。
そこには岩の土台に蜘蛛の糸の半透明な屋根を持つ、立派な建物が完成していた。
「これは……温室ですか?」
「ええ。これなら冬の間でも薬草や葉物野菜を育てることができます」
フィオナさんはにっこりと微笑んだ。
氷室と温室。
二人の最強の聖女様のおかげで、サンクチュアリの冬支度は完璧なものとなった。
私のささやかなジャム作りがきっかけで、この楽園の暮らしがまた一つ豊かになっていく。
その事実が私は何よりも嬉しかった。
目指しているのはハッピーエンドです。




