第8話 冬支度と、季節のジャム作り
サンクチュアリの木々が赤や黄色に色づき始めた。
朝晩の空気がひんやりと肌を刺すようになる。
冬がもうすぐそこまで来ているのだ。
この楽園で初めて迎える冬。
エレノア様の話ではサンクチュアリの冬は、外の世界ほど厳しくはないらしい。
それでも食料の備蓄は必要不可欠だ。
「よし。じゃあ、まずはジャム作りから始めようかしら」
私はキッチンでエプロンの紐をきゅっと結び直した。
秋の間に皆で収穫したたくさんの果物。
森いちご、やまぶどう、それに黄金色の甘いリンゴ。
これらを砂糖で煮詰めて、長期保存の効くジャムにするのだ。
まずは瓶の煮沸消毒から。
大きな鍋にたっぷりの湯を沸かし、ガラス瓶を一つ一つ丁寧に入れていく。
清潔にしておかないと、せっかくのジャムがすぐに駄目になってしまうからだ。
地道で大切な作業。
次に果物の下処理。
森いちごはヘタを取り、やまぶどうは一粒ずつ房から外す。
リンゴは皮をむいて芯を取り、さいの目に刻んでいく。
これもまた根気のいる仕事だった。
◇ ◇ ◇
下処理を終えた大量の果物を、大きな銅鍋に移す。
そこにどさりと砂糖を加えた。
そして薪の火でコトコトと、ゆっくり煮詰めていく。
しばらくするとキッチン中に甘酸っぱい幸せな香りが満ち満ちてきた。
果物が熱でとろりと溶けていく。
焦がさないように大きな木べらで絶えずかき混ぜ続ける。
単純な作業だが、こういう丁寧な手仕事は私の心を落ち着かせてくれた。
王国のこと、クラウス様のこと。
私の心をざわめかせる色々なことから、しばし解放される時間。
私は無心で鍋をかき混ぜ続けた。
フィオナさんがキッチンの入り口からひょこりと顔を出す。
「まあリリア。とても良い香りですね」
「ふふ、もうすぐできますよ。味見、されますか?」
「ええ、ぜひ」
私は木べらの先に少しだけ煮詰まった森いちごのジャムをつけて、彼女の口元へ運んだ。
「……美味しい。甘酸っぱくて幸せな味です」
フィオナさんはまるで花の綻ぶように微笑んだ。
その笑顔を見て私も嬉しくなる。
そうだ。私の仕事はこれだ。
こうして美味しいものを作って、大切な人たちを笑顔にすること。
それだけでいい。
それだけが私の全て。
私はもう一度、鍋の中の真っ赤なジャムへと視線を落とした。
それはまるで輝くルビーのよう。
サンクチュアリの豊かな恵みがぎゅっと詰まった宝物だ。
冬支度の初日。
それは甘く、そしてとても穏やかな一日となった。
視界の隅で今日も誰かが黙々と薪を割っている。
その存在を私はもう、以前ほど気にはしなくなっていた。
表紙落ちしてしまいましたが頑張ります!
まずは目指せ10万文字!!
応援よろしくお願いします。




