表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
招かれざる騎士と贖罪の日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/86

第5話 砕かれた剣(クラウス視点)

 重い沈黙が部屋を支配していた。

 私はリリア様の言葉を反芻する。

 加害者。その一言が私の騎士としての誇りを、矜持を、根底から覆した。

 そうだ。私は英雄でも救いの手でもない。

 ただの臆病な傍観者だった。


 彼女が私に背を向けキッチンへと戻っていく。

 その小さな背中は決して助けを求めてなどいなかった。

 そこにあるのは自分自身の力で立つ、確固たる意志。

 私が守るべきか弱い聖女など、もうどこにもいなかったのだ。


 私は自分がひどく滑稽な存在に思えた。

 この剣に国と民を守るという誓いを立てた。

 だが本当に守るべき一人の少女が、目の前で理不尽に傷つけられている時、私はこの剣を抜くことさえしなかった。

 そんな私に彼女を守る資格などあるはずがない。


 私の剣はとうの昔に錆びつき、砕け散っていたのだ。

 それに気づかず、今まで振り回していたに過ぎない。


「……小僧」


 不意に低い声が私の頭上から降ってきた。

 顔を上げると初代聖女エレノア様が腕を組み、私を値踏みするように見下ろしていた。


「いつまでそうしているつもりだ。みっともないぜ」

「……申し訳、ございません」


 私はかろうじてそう声を絞り出した。


「謝る相手が違うだろう」


 彼女のその言葉が私の胸に深く突き刺さる。

 そうだ。私が本当に謝罪すべき相手は、ただ一人しかいない。

 だが今の私にその資格があるだろうか。


 エレノア様はふんと鼻を鳴らした。


「まあ、いい。リリアちゃんをあそこまで怒らせちまったんだ。今日のところは交渉どころじゃないだろうからな」


 彼女は顎で客間の方をしゃくった。


「とりあえず今日はもう部屋に戻りな。そして自分の頭でよく考えな。あんたがこれからどうすべきなのかを」


 その言葉は突き放すようでいて、それでいてほんの少しだけ考える時間を与えてくれる温情のようにも感じられた。

 私は立ち上がった。

 足元がふらつく。

 エレノア様と、そして何も言わずにただ静かに私を見つめるフィオナ様に、深く一礼する。

 リリア様のいるキッチンの方へは、もう目を向けることはできなかった。


 ◇     ◇     ◇


 客間として与えられたコテージの一室。

 そのベッドに私は倒れ込むように身を投げ出した。

 騎士の鎧がやけに重く、そして煩わしい。

 私はそれを乱暴に脱ぎ捨てた。


 これからどうすべきか。

 王国の使者としてただ返事を待つのか。

 それともこのまま逃げるように帰るべきか。

 いや、違う。

 どちらも違う。


 私はリリア様に許されたいわけじゃない。

 ただ償いたいのだ。

 私が犯した罪を。

 騎士としてではなく、ただの一人の男として。


 答えはまだ見つからない。

 だが私はこのままでは終われない。

 終わらせてはいけないのだ。


 夜が更けていく。

 サンクチュアリの静かな夜。

 私の長く、そして苦しい贖罪の道が、この静寂の中から始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
クラウスはまだ自分に酔ってるような…。 許されようと思ってないとかどうでもいい。 私がリリアなら無言で箒でも構えて叩き出しますねえ。 せめて男としてじゃなくて1人の人間として一生リリアに会わず、冤罪で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ