第4話 加害者の自覚
皆様の感想などを参考に、今後の展開の練り直しとプロットの再構築をしていました。
(今日の投稿が遅れた言い訳)
あと話数表示を変更しました。
「リリア様の平穏は、私がこの剣でお守りします。今度こそ、必ず」
クラウス様の、そのあまりにも独りよがりな誓いの言葉。
それを聞いた瞬間、私の心の中で張り詰めていた糸がぷつりと音を立てて切れた。
キッチンから漂うチョコレートの甘い香りまでもが、彼の無神経さを際立たせるようで気分が悪くなる。
私はゆっくりと立ち上がった。
そして私の前に跪く彼を、静かに見下ろす。
その瞳にはまだ、純粋で、そして見当違いな使命感が宿っていた。
「……クラウス様」
私の唇から紡がれた言葉は、自分でも驚くほど冷ややかだった。
「あなたが今さら私の『騎士』であるかのように振る舞うのは、やめてください」
時が止まったかのようだった。
部屋の空気までもが凍り付く。
隣にいるエレノア様とフィオナさんも、黙って私たちのやり取りを見つめていた。
彼は私のその言葉の意味が理解できない、という顔をしていた。
「……なぜ、です、か」
かろうじて絞り出したその愚かな問い。
そのあまりの無自覚さに、私の心はさらに冷えていく。
私はふう、と一つ息を吐いた。
もういい。
この人にははっきりと言わなければ伝わらないのだろう。
たとえそれがどれほど残酷な真実であったとしても。
「ではお聞きします。あの断罪の日。私が偽りの罪で玉座の間に引きずり出されたあの日。あなたはどこで何をしていましたか」
私の問いかけに彼の瞳が大きく揺らいだ。
図星なのだろう。
私はそんな彼の心の動揺などお構いなしに言葉を続けた。
これは彼のためではない。
私のこの行き場のない怒りと悲しみを終わらせるための儀式なのだ。
「あなたは、そこにいましたよね」
私の静かな、だが確信に満ちた言葉に彼は息を呑んだ。
「あなたは私の無実を知っていたはず。私が国のために毎日祈りを捧げていたことを、誰よりも近くで見ていたはずですよね? ……それなのにあなたは何も言わなかった。何一つ行動しなかった。ただ黙って私が見捨てられるのを見ていただけ。……違いますか?」
ぐうの音も出ないという顔で彼は俯いた。
その沈黙が何よりの答えだった。
私は最後の一撃を加える。
「私を見捨てたのは王子やミレーナだけではありません。あの場にいて何もしなかったあなたも同じです。あなたは、大勢の『加害者』の中の一人。……その自覚が、おありですか?」
加害者。
その重い重い言葉が部屋に響き渡る。
彼の肩がびくりと大きく震えた。
彼は初めて、自分がどの立場にいる人間なのかを理解したのだろう。
私を可哀想な、守るべき聖女だと思っていたのだろうか。
とんでもない勘違いだ。
あなたも私をその場所に追い込んだ一人なのに。
もう彼にかける言葉はなかった。
私は彼に背を向けると、キッチンのオーブンに残っていたブラウニーを取り出した。
甘く濃厚なチョコレートの香り。
だが今の私の心は、その甘さとは正反対のほろ苦い冷たさで満たされていた。
この行き場のない感情をどうすればいいのだろうか。
私はただ黙って焼きあがった菓子を見つめていた。




