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追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
招かれざる騎士と贖罪の日々

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第3話 招かれざる使者

 その日の午後、私はヴォルフさんたちから貰った最高級のカカオ豆を使って、新作のチョコレートブラウニーを試作していた。

 キッチンに甘く濃厚な香りが満ち始めた、その時だった。


「――リリアちゃん、客だ」


 コテージの扉が勢いよく開き、エレノア様が不機嫌そうな顔でそう告げた。

 その吐き捨てるような言い方に、私はすぐに誰が来たのかを察してしまった。


(……王国の、人)


 私の心にさざ波が立つ。

 もう終わったはずの関係。私の中ではもう遠い過去の出来事になりつつあったのに。

 エレノア様に促され、私はリビングへと向かった。


 そこにいたのは、やはり見覚えのある人物だった。

 騎士の正装に身を包んだ、クラウス様。

 ひと月ぶりに見る彼は、以前よりも少しだけ精悍な顔つきになっているように見えた。


 彼は私の姿を認めるとその場で片膝をついた。

 その瞳には再会できたことへの喜びのような光が浮かんでいる。

 だが私の心は、その光景を冷めた目で見つめていた。


(……今さら、何の用かしら)


 私のそんな気持ちを知ってか知らずか。

 彼は懐から王家の紋章が入った封筒を取り出した。


「リリア様。本日はアステリア王国の全権大使として参りました。我が主、アルフォンス王子からの親書にございます」


 全権大使。

 ずいぶんと物々しい肩書だ。

 私は黙ってその親書を受け取ると、その場で封を開けた。

 中には長い長い謝罪の言葉と、そしてサンクチュアリとの正式な国交樹立を望むという内容が、回りくどい言い回しで綴られていた。


 ふぅ……と私の鼻から息が漏れる。

 今になって国交樹立ですって?

 散々私を偽物だと罵っておきながら。

 そのあまりの身勝手さに、怒りよりも先に呆れがこみ上げてきた。


 私は親書を音を立ててテーブルの上に置いた。


「……話はわかりました」


 私の声は自分でも驚くほど冷たく、平坦だった。


「その件は私の一存では決められません。エレノア様、フィオナ様と相談し、後日改めてお返事いたします」

「……承知いたしました」


 クラウス様は私のその事務的な態度に、少し戸惑ったような顔をしている。

 その顔を見て私の心は、ちくりと痛んだ。

 いけない。こんな風に冷たく接したいわけではないのに。


 その時だった。

 クラウス様のお腹から、ぐうと情けない音が部屋に響き渡った。

 ……しまった、という顔で顔を赤らめる彼。

 そのあまりにも人間らしい姿に、私の尖っていた心がほんの少しだけ丸くなる。


 私は、はぁと一つため息をついた。


「……とりあえずお座りください。お腹が空いているのでしょう」


 私はそう言うとキッチンから、先ほど焼きあがったばかりのブラウニーとハーブティーを運んできた。

 これは客人へのもてなし。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 そう自分に言い聞かせて。


 だが彼は私のそんなささやかな優しさを、勘違いしてしまったらしい。

 彼はブラウニーを一口食べた後、突然椅子から立ち上がると、私の前に再び膝をついたのだ。


「リリア様」

「……なんでしょうか」

「今回の件は王国の公式な使節として参りました。ですがそれとは別に……私個人の想いを聞いていただけますか」


 彼は私をまっすぐに見つめた。

 その瞳は真剣で、そしてどこか独りよがりな熱を帯びていた。


「リリア様の平穏は、私がこの剣でお守りします。今度こそ、必ず」


 その言葉を聞いた瞬間。

 私の心の中で何かが、ぷつりと切れる音がした。

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― 新着の感想 ―
国交って言ってもサンクチュアリ側にメリットないからなぁ。完全に王国側の都合でしかない。 主人公が安易に相手を迎合しないのはいいね
クラウスはストーカー気質からさらに勘違い男を発動。イケメンかもしれんがひたすら気持ち悪い!キモナイトだ!
ヴォルフのほうがマトモな対応しそう
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