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追放された聖女は、森の奥で歴代最強の先代聖女たちに溺愛される ~お菓子作りしてたら王国が勝手に滅びかけてるけど、もう知りません~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
招かれざる騎士と贖罪の日々

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第2話 三度、森へ(クラウス視点)

ここまでクラウス視点。

次話からリリア視点にもどります。

 王国の正式な使者として、サンクチュアリへの道を再び進むことになった。

 前回とは何もかもが違っていた。

 一人夜陰に紛れて進んだあの時とは違い、今回は国王陛下の名の下、公式な使節団として堂々と北を目指す。

 物資も人員も十分に与えられた。

 だが私の心は、あの時よりもずっと重かった。


(……どんな顔をしてお会いすればいいのだろうか)


 馬に揺られながら私は何度も自問自答を繰り返す。

 リリア様は私を許してはくれないだろう。

 当然だ。私は彼女が最も苦しんでいた時に何もできずに、ただ傍観していた臆病者なのだから。

 それでも行かなければならない。

 これは王国の未来のため。そして私自身の罪を償うための旅なのだ。


 ◇     ◇     ◇


 嘆きの森の入り口に到着した。

 ここから先は使節団を待機させ、私一人で進むことになる。

 サンクチュアリの場所を知る者は私しかいない。そしてあの聖域に大勢で押し掛けることが、いかに愚かなことか身をもって知っている。


「私が戻るまでここで待機せよ。決して森に足を踏み入れるな」


 部下たちにそう厳命すると、私は一人森の中へと入っていった。

 相変わらず不気味な邪気に満ちた森。

 だが私の心にはもう以前のような恐怖はなかった。

 この森の先に何があるのかを知っているからだ。


 私は記憶を頼りに森の奥深くへと進んでいく。

 時折現れる魔物を剣で冷静にいなしながら。

 そして半日ほど歩き続けた頃だろうか。

 あの懐かしい甘い香りが鼻をかすめた。


(……間違いない。この先だ)


 私の足取りが自然と速くなる。

 木々が開け、目の前にあの不可視の結界が現れた。

 陽炎のように揺らめく聖なる壁。

 ここが現実と楽園の境界線。


 私は結界の前で立ち止まった。

 そして大きく息を吸い込む。

 前回のように大声を出すような無粋な真似はしない。

 ただ静かに待つ。

 こちらの存在に気づいてくれるのを。


 すると、まるで私の心を読んだかのように。

 結界の一部がするりと口を開けた。

 そしてその向こうから一人の女性が姿を現す。

 燃えるような真紅の髪。初代聖女エレノア様だった。


 彼女は私を見ると、心底うんざりしたような顔をした。


「……あんたか、小僧。また来たのか。懲りない奴だな」


 その声には鋭い敵意が宿っている。

 私は慌ててその場に膝をついた。


「お待ちください、エレノア様。本日は敵として来たのではありません。アステリア王国の正式な使者として参りました」

「使者だと?」


 エレノア様は訝しげに眉をひそめた。


「はい。我が主アルフォンス王子より、リリア様とサンクチュアリの皆様へ親書をお預かりしております」


 私は懐から王家の紋章が入った封筒を取り出し、彼女に恭しく差し出した。

 エレノア様はしばらく私と、その親書を交互に見比べていた。

 その瞳は私の心の奥底まで見透かしているかのようだ。

 やがて彼女はふうと一つ、大きなため息をついた。


「……仕方ねえな。話くらいは聞いてやる」


 彼女は親書を受け取ると私に顎をしゃくった。


「入れ。だが変な気を起こすなよ。その首、いつでも刎ねられるってこと忘れんな」

「……肝に銘じます」


 私は許しを得てゆっくりと結界の中へと足を踏み入れた。

 三度、この地へ。

 だが今回は今までで一番、心臓が大きく脈打っていた。

 これから私は彼女に会うのだ。

 私が裏切ってしまった、たった一人の聖女様に。

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― 新着の感想 ―
クラウスの思考がキモ過ぎてアカン。 こんなストーカー気質の奴とのロマンスはキツイわ………
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