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第18話 子狐たちのパン食い競争

念願の週間ランキング5位(表紙入り)しました!

ありがとうございます!!


 フェンリルとのもふもふな昼下がりを過ごした、次の日のこと。

 私は朝からキッチンでパン作りに励んでいた。

 サンクチュアリで採れた栄養満点の小麦を使った、特製のパンだ。

 オーブンから取り出すと、こんがりとした焼き色と香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。


 出来上がったパンを窓際で冷ましていると。

 どこからともなく小さな気配が集まってくるのを感じた。

 私がそっと窓の外を覗くと、そこには案の定、小さな訪問者たちがいた。


 銀色のふわふわの毛皮を持つ子狐たちだ。

 おそらく全部で十匹くらいはいるだろうか。

 彼らはパンの匂いに誘われて、私のコテージの周りをそわそわとうろついている。

 そのくりくりとした黒い瞳は、窓際のパンに釘付けだ。


(ふふ、可愛い……)


 私は思わず笑みがこぼれた。

 彼らは普段は森の奥で暮らしているシャイな性格の聖獣だ。

 だが私の作るパンの匂いだけは、どうしても我慢できないらしい。


 ただあげるだけでは面白くない。

 私は少し悪戯心が湧いてきた。


 ◇     ◇     ◇


 私は庭先にある大きな木の枝に、麻紐を何本か結びつけた。

 そしてその紐の先に細長く切った、焼き立てのパンを一つずつ括り付けていく。


「さあ、どうぞ。欲しければ自分の力で取ってごらんなさい」


 私がそう言うと子狐たちは一瞬きょとんとした顔をした。

 だがすぐに私の意図を理解したらしい。


 一匹の子狐が助走をつけて、ぴょんとパンに向かってジャンプする。

 だがあとほんの少しのところで届かない。

「きゅぅん……」と悔しそうな声が聞こえてくるようだ。


 それを見て他の子狐たちも一斉にジャンプを始めた。

 小さな体で一生懸命宙を舞う姿は、なんとも微笑ましい。

 まるでふわふわの銀色の毛玉が、ぽんぽんと弾んでいるかのようだ。


 中には賢い子もいた。

 一匹が仲間を踏み台にして高くジャンプし、見事パンをゲットする。

 だがそのパンはすぐに下で待っていた仲間たちに奪い取られてしまった。

 あちこちで小さな、わちゃわちゃとした争奪戦が繰り広げられている。


「あらあら、まあ」


 いつの間にか私の隣に来ていたフィオナさんが、その光景を見て楽しそうにくすくすと笑っていた。


「リリアは面白いことを考えますね」

「ふふ、なんだか見ていて飽きないでしょう?」


 結局パンは全て子狐たちのお腹の中に収まった。

 満足した彼らは私とフィオナさんに向かってぺこりとお辞儀をするように頭を下げると、あっという間に森の中へと帰っていく。

 律儀な子たちだ。


「……平和ですね」


 フィオナさんがぽつりと呟いた。


「はい。本当に」


 私も心からそう思う。

 こんな何でもない穏やかな時間。

 子狐たちの愛らしいパン食い競争。

 これこそが私が守りたかった、かけがえのない日常の風景。


 私は空っぽになったパン籠を見つめながら、

(よし、明日はもっとたくさん焼いてあげよう)

 と心に決めた。

 この小さなもふもふの訪問者たちのために。

 サンクチュアリの平和な一日は、今日も優しく、そして賑やかに過ぎていく。

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