第15話 ヴォルフの贈り物(ヴォルフ視点)
アステリア王国の王都は相変わらず人でごった返していた。
俺たち【鉄の爪】が、あの【嘆きの森】から帰還して、ひと月が経つ。
あの日以来、俺の頭の中はあの聖女様――リリア様のことでいっぱいだった。
あのシチューの味。
俺たちのような血と泥に汚れた人間にさえ向けられた、あの慈愛に満ちた眼差し。
忘れようとしても忘れられるものではなかった。
「……団長、本当に、よろしいのですか」
部下の一人が俺の隣で不安そうに尋ねる。
俺たちの目の前には裏社会の商人から、有り金をはたいて買い付けた上等な木箱が置かれていた。
「いいんだよ。これは俺たちの、けじめだ」
俺はそう言って、木箱の中身を改めて確認した。
南の大陸でしか採れないという最高級のカカオ豆。
砂漠の国で金と同じ重さで取引されるという、希少な香辛料のセット。
エルフの森で採れたという七色に輝くドライフルーツ。
どれも俺たちのようなガサツな傭兵には到底縁のない代物だ。
だがあの聖女様ならきっと、こいつらでまたとんでもなく美味いもんを作ってくれるに違いない。
そう思うと金を使ったことへの後悔など、微塵もなかった。
「よし、運ぶぞ」
俺は部下たちに命じ、その木箱を厳重に馬車へと運び込んだ。
向かう先はもちろん、北の【嘆きの森】だ。
◇ ◇ ◇
数日後。俺たちは再びあの森の入り口に立っていた。
以前感じた不気味な邪気は今ではそれほど恐ろしいものには感じられない。
一度地獄の底を見てきたのだ。この程度の魔物はもはや、ただの小動物にしか見えなかった。
俺たちは森の奥深く、あの結界の前まで慎重に進んでいった。
結界は以前と変わらず静かに、だが絶対的な力を持ってそこに存在している。
「いいかお前ら。決して結界に触るんじゃねえぞ。中のお方に気づかれる」
俺は部下たちに固く釘を刺した。
あの初代聖女エレノアとかいう化け物を、二度も怒らせるわけにはいかない。
俺は木箱を結界から少し離れた開けた場所に、そっと置いた。
そして懐から走り書きした一枚の羊皮紙を取り出す。
『リリア様へ。
先日のシチューは最高だった。腹も心も満たされた。
こいつは俺たちからのほんの気持ちだ。
これでまた美味いもん作って、あんたが笑っててくれると嬉しい。
【鉄の爪】団長 ヴォルフより』
柄にもない手紙。
俺はなんだか顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
だがこうでもしないと気持ちの整理がつかなかったのだ。
手紙を木箱の上に置くと、俺は部下たちに撤収の合図を送った。
直接渡すつもりはない。
あの聖女様ならきっとこの贈り物に気づいてくれるだろう。
それでいい。
俺たちはただの影の兵隊なのだから。
森を去り際に俺はもう一度だけ、結界の方向を振り返った。
ありがとう、聖女様。
あんたのおかげで俺たちはまた、明日を生きることができる。
俺は心の中でそう呟くと、今度こそきっぱりと踵を返した。
不思議と心は晴れやかだった。
さあ、次の仕事を探しに行くとしよう。
あの温かいシチューの味を胸に抱いて。
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