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第1話 偽りの断罪

感想、お待ちしております。

「――偽りの聖女リリア! その方、アステリア王国の聖女の名を騙り、国の至宝たる【太陽の宝珠】を穢した罪、万死に値する」


 玉座の前、硬く冷たい大理石の床に跪かされた私の頭上から、婚約者であるはずのアルフォンス王子の声が氷のように降り注ぐ。

 凛々しく、いつもは民を思いやる温かさに満ちているはずの声は、今は憎悪と侮蔑の色に染まっていた。


 顔を上げなくてもわかる。彼の隣にはきっと私の異母妹であるミレーナが、天使のような顔で涙を浮かべ、か弱く彼の腕に寄り添っているのだろう。

 ああ、またあの光景か。ここ最近、毎日見せつけられてきた光景だ。


「アルフォンス様、もうおやめください。これ以上は、お姉様があまりにもお可哀想ですわ……」


 鈴を転がすようなミレーナの声が絶妙なタイミングで響き渡る。

 ああ、やはり。

 彼女の言葉が火に油を注ぐにしかならないと知っての発言なのは間違いない。私の罪を際立たせ、彼女の慈悲深さをアピールするための完璧な台本通りのセリフなのだ。


 事の起こりは三日前。

 ミレーナの強い勧めで私は【太陽の宝珠】に聖力を注ぎ、国のさらなる繁栄を祈る大儀式を執り行った。私の力は、歴代の聖女様たちのように大地を癒やす光を放ったりはしない。ただ、ほんの少し植物が元気になったり空気が澄んだりするだけの、地味で微々たるもの。


「お姉様の素晴らしいお力を、皆に知っていただく良い機会ですわ」


 そう言って微笑む妹の笑顔に、私は愚かにもほんの少しだけ期待してしまった。

 結果はこの通り。

 儀式の最後に宝珠には大きな亀裂が走り、その場にいた誰もが私を責めた。「リリアの力が穢れていたからだ」と。


「黙れ、ミレーナ。そなたは優しすぎる。この女はその優しさにつけ込み、聖女という重責を疎かにしてきたのだ。もはや一片の情けも無用」


 アルフォンス王子はそう言ってミレーナを優しく抱きしめる。

 ああ、茶番。本当にくだらない茶番劇。


 私はゆっくりと顔を上げた。

 涙も浮かべず、ただ静かに目の前の二人を見つめる。その反応が意外だったのか、アルフォンス王子は一瞬眉をひそめた。


「……何か言い分はあるか、リリア」

「いいえ、何も。すべては王子と皆様のおっしゃる通りなのでしょう」


 反論したところで無駄なのだ。

 この場にいる誰もが私を断罪する結論をすでに出している。それに、もう疲れた。聖女の責務、王族との付き合い、貴族たちの陰口、そして何より家族からの裏切りに。


 私の諦めきった返答に、アルフォンス王子はさらに苛立ったように声を荒らげた。


「その態度、反省の色なしか。よいだろう、聖女リリア。その方から聖女の地位を剥奪し、アステリア王国より永久追放処分とする。二度とこの国の土を踏むことは許さん。即刻、魔物が跋扈する嘆きの森(なげきのもり)へ棄てよ」


 衛兵たちが私の両腕を掴んで乱暴に引きずり起こす。

 ああ、やっとだ。

 やっとこの息苦しい王宮から、この国から、解放される。

 私の心は不思議なくらい穏やかだった。

 むしろほんの少しだけ、歓喜に打ち震えていたかもしれない。


(永久追放? 嘆きの森? 願ったり叶ったりだわ)


 衛兵に引きずられながら、私は誰にも気づかれないよう密かに口の端を吊り上げた。

 ミレーナがアルフォンス王子の腕の中から、勝ち誇ったように私を見下しているのが視界の端に映る。


 さようなら、私の愛しい妹。

 さようなら、私の初恋だった王子様。


 どうぞ二人で仲良く、この国を治めていけばいい。

 私が背負わされていた重たい重たい役目を、これからはあなたたちが担う番なのだから。


 そう、この国の【聖女】という役目をね。


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― 新着の感想 ―
王族が盲目になったら国は終わりだよね
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