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9/12

王都からの視察官

それはある晴れた午後のことだった。


「ふむ……ここが、噂の『辺境郵便所』か」


一人の男が、村に降り立った。

背筋の伸びたスーツ風の礼装、鋭い眼光、きっちり巻かれたネクタイ(のようなマフラー)


その名は――シリル・グランフォード。

王都行政局・郵政監査室のエリート官僚である。


「辺境で妙な郵便活動が盛んらしい……との報告があり、確認に参ったが」


彼が見たのは、元倉庫だったと思しき建物。

看板には「ソリオ村 郵便所」と、やたら可愛いフォントで書かれている。


入り口では、元盗賊のトゴロ隊長が荷物を担いで叫んでいた。


「おーい、恋文4通に果物便ひとつ、それと鍛冶屋に謎の包み届けてくれってよォ!」


「ハイハイ了解、特急配達で行くねー」


応じたのは、カズト。いつもの軽装、片手にマップ、足取りはゆるやか。


シリルはそっとため息をついた。


「……これは、王国郵政法における完全なる逸脱であるな」




「で、あんたが視察官?」


郵便所の奥、応接用に使っている丸テーブルにて、カズトは紅茶を出しながら言った。


「ええ。王都より派遣されました、シリル・グランフォードと申します」


彼はスッと礼をしつつ、手元の書類に目を落とす。


「こちら、村で独自に導入されている手紙の日の記録、そして、代筆サービスに空飛ぶ配達トカゲ……正直、どこから突っ込めばよいか迷いますね」


「突っ込まないで。村のみんな、わりと真面目に楽しんでやってるからさ」


「ですがこれは、郵政法第十四条の……」


「でもさ、手紙って気持ちを届けるものでしょ?」


カズトはゆったりとお茶を啜った。


「だったら、それぞれに合ったやり方があってもいいんじゃないかな。気持ちが届くなら、手段は一つじゃないよ」




その後も視察は続いた。


トゴロ隊長による筋肉仕分け講座(?)、

リゼによる「鍛冶屋でも封筒くらい作れる!」という実演、

ドラルドによる空から届く週刊ドラゴン通信の披露、

そして、トシおばあさんの名言が炸裂した。


「気持ちはな、封筒よりも強いもんじゃよ」


村人たちはみんな、どこか誇らしげだった。




数日後。王都に帰ったシリルは、報告書を提出していた。


「……というわけで、違反多数、手続き不足、非標準運用……」


上司が眉をひそめる。


「だが」


シリルは言った。


「あの村には、手紙の力が確かに生きておりました。

そこに在るのは制度ではなく、思いと信頼の連鎖です」


「……ふむ」


その報告書は回覧され、やがて王都の王女の目にも届いたという。

彼女がぽつりと呟いた。


「素敵な村ね。いつか、行ってみたいわ」




数日後のソリオ村。


トゴロ「カズトォォォ! 郵便局、新聞に載ってるぞぉぉぉ!」


カズト「え、マジで? ほのぼの通信とかじゃなくて?」


トゴロ「王都郵政ジャーナルの一面だァァァ!」


新聞の見出しにはこうあった。


『辺境の奇跡――人と心をつなぐ、ソリオ式郵便制度』


カズトは笑いながら、紅茶を啜った。


「まあ……別に変なことしてるつもりはないんだけどね」


リゼがそばでそっと言った。


「でも、なんか……あんたのやり方って、不思議と人を動かすよね」


その言葉に、少しだけ頬が熱くなるのを、カズトは感じた。


「ま、時間通りに届けば、だいたいのことはうまくいくからね」


空は青く、村は穏やか。

郵便所の鈴が、今日も優しく鳴り響いていた。




⚫︎ 郵便局日報(抜粋)


・王都視察、無事終了!(※いろいろあった)

・村の郵便制度、公式に「モデルケース」に!

・リゼがこっそり「カズトってすごいね」と言っていた(※トゴロ談)


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