新サービス始めました
「――ということで、本日から新サービスを始めまーす!」
ソリオ村の郵便所前、カズトの声が朝日に響き渡る。
掲げた看板には、こう書かれていた。
⚫︎ 新サービス開始!
・特急配達(+スピード感!)
・代筆サービス(気持ちを言葉に)
・匿名配達(秘密も守るよ)
・郵便貯蔵(冷蔵も対応可)
「最近、依頼が増えてきたし……ちょっとずつ便利にしていこうかなって思ってさ」
「……って、おい、見て見てカズトさん! なんかもう行列できてますけど!?」
助手のトゴロが悲鳴のように叫ぶ。
村人たちがぞろぞろと集まり、口々に新サービスへのリクエストを叫んでいた。
「匿名で、あの人に“好き”って伝えたいんです!」
「壺、冷蔵で送ってください! ヒビ入ると困るんで!」
「代筆頼むわい。わし、字がミミズなんじゃ」
「村長からのラブレター代筆とか、責任重大なんですけどォ!?」
「な、なんで初日からこんなカオス!?」
カズトは額に汗を浮かべながらも、ひとつひとつ丁寧に応じていく。
「オーケー、匿名便。内容はこちらで確認するから、変なもの入れないでね?」
「壺は……うん、発泡緩衝材で包んで、あとは保冷魔法でどうにかしよう」
リゼも気づけば裏口から現れ、腕まくりをしてカウンターに入ってきた。
「ったく、見てられないから手伝うわよ。あたし、文字きれいだし代筆は任せなさい」
「お、リゼちゃん、救世主! マジ助かる!」
顔を赤くしながらもリゼは、無言で用紙を受け取る。
「べ、別にあんたのためじゃないからね!」のテンプレ発動。
だが問題は山積みだった。
特急便は「走って間に合わないから空飛べ」と言われ、
匿名便は「村人全員にバラまいて」という無茶ぶりが飛び交い、
冷蔵便は「アイス溶けてた」とクレームが入り、ついにカズトは郵便所の床に倒れ込む。
「だ、だめだ……こっちが壊れる……!」
おばあさんが、涼しい顔で言った。
「ほれ見たことか、無理は長続きせんのじゃよ。あんた、のんびりスローライフがしたいんじゃろ?」
「そ、それはそうなんですけど……」
「ほんなら、自分のペースで、あんたらしくやればええ」
その晩、村の広場で小さな集会が開かれた。
リゼが提案したのは、月に一度の「手紙の日」イベントだった。
「みんな、毎日お願いばっかりで、カズトが倒れかけてるの。
だからせめて、月に一度だけ手紙で想いを伝える日を作ろうよ」
村人たちは静かにうなずいた。
そして初めての「手紙の日」は、笑いあり涙ありの、穏やかな一日になった。
子どもが親に書いた「いつもありがとう」の手紙。
老夫婦が手をつないで交換した「また一緒にご飯食べようね」の手紙。
そして――
リゼから、カズトへの一通の手紙。
《お疲れさま。あんたが来てから、この村……なんかあったかくなった気がする。感謝とか、そういうの上手く言えないけど……これからも、届けてね》
手紙を読んだカズトは、笑って、ひとことだけつぶやいた。
「時間通りに届けば、だいたいのことは、うまくいくんだよ」
そして彼は、また郵便鞄を背負う。
明日も、誰かの気持ちを、そっと届けるために。