(番外編)リゼ、郵便屋になる
ある日のソリオ村、晴天。
だが――事件は起きた。
「カズトさんが高熱でダウン!?」
郵便所に走り込んできたのは、見習いのトゴロだった。
荷物袋を床にドサッと落とし、青ざめた顔で叫ぶ。
「昨日の夜、ドラルド3世のとこ配達行って、そのまま火山の夜風でやられたらしいっす! すげー熱です! しかも今日、配達が山盛りっす!」
「な、なんですって……!」
その声に、リゼは立ち上がった。
「……仕方ないわね。今日は、あたしが配達に行くわ!」
というわけで、
この日、村の郵便屋は「リゼ=フェルスタイン」に変わった。
赤いスカーフを首に巻き、帽子を斜めにかぶり、郵便袋を背負って――
「……な、なんか、これってデートのお迎えみたいじゃない!?」
玄関先で一瞬顔が赤くなるも、
すぐにバシンと気合を入れる。
「べ、別に好きでやるわけじゃないし! 仕事だし!」
そう叫んで、一歩踏み出した。
最初の配達先:トシおばあさん宅。
「おお、リゼちゃんかい。今日はカズトくん、お休みかいの?」
「え、ええ、代わりに配達してるの。はい、こちら、お孫さんからの手紙」
トシおばあさんは封筒を受け取り、にっこり微笑む。
「手紙ってのはね、気持ちが詰まっとるから、誰が届けてもいいってわけじゃない。でも、あんたなら安心じゃ。ちゃんと、心を運べそうじゃからの」
「……うん、ありがとう」
なんだか、背中がぽかぽかする気がした。
次の配達先:魔王ラミリス。
「おお、カズトではないのか? かわりに配達とは粋だな」
「こちら、新作の壺カタログです。ついでに、特売セールのお知らせも入ってました」
「ふむふむ……これは……萌え絵壺か。実に深いな!」
「(……どこがだよ……)」
山道、最後の配達先:ドラルド=ドラゴニクス三世。
「やあ、リゼ嬢。今日はカズト殿の代役かね?」
「ええ、彼が無理して熱出すから。もう、ほんとに……」
「君も彼を心配しているのだね。あの青年は、君にとって大切な存在なのだろう?」
「べ、別にそんな……! ただの、郵便仲間っていうか……その、えっと……っ!」
「ふふ、紅茶でもいかがかね?」
配達を終え、日が沈む頃。
リゼはカズトの家の前に立っていた。
「カズト、起きてる?」
「……あ、リゼ。配達、ありがとう。ごめん、任せきりで……」
「……いいのよ、たまには、あんたが寝込んでくれないと、こっちも気持ち整理できないし……」
「え?」
「な、なんでもないっ!」
彼女はカバンから、小さな手紙を取り出した。
「……これは、あたしから。届けに来たんだから、ちゃんと受け取ってよね」
カズトは、ゆっくり封を開けた。
「今日、あんたの代わりに配達して思った。
あんたって、すごいのね。
あたし、ちょっと、惚れ直したかも」
「……これ、読み間違いじゃないよね?」
「……バカ。読み間違えようがないでしょ」
カズトがぽかんとしてると、リゼは顔を真っ赤にしてこう言った。
「これで、配達完了よ! おやすみ!」
走って帰っていくリゼの背中に、カズトは笑いながら手を振った。
「おやすみ。ありがとう、リゼ配達員」
今日も、誰かの想いが届いた。
その日、リゼは初めて『郵便屋』の気持ちを少しだけ、知った気がした。




