明日も、届けにいくよ
朝日がソリオ村を優しく照らしていた。
木々の間を抜ける光が、まだ少し眠たい村を起こしていく。
カズトは、いつものように郵便所の扉を開けた。
「さて、今日も配達だ」
それだけで、村が少し動き出す。
鶏が鳴き、パンの匂いが漂い、村人の声がちらほら聞こえてくる。
今日という日が始まったのだ。
「おはよう、兄貴! 今日の配達先、もう地図に印しておいたっす!」
元盗賊団リーダー・トゴロ、今では立派(?)な見習い配達人。
今日も全力で朝から騒がしい。
「ありがと。じゃ、分担しよう。山側は任せた」
「了解っす! 配達こそ、男のロマン!」
「それ、まだ言うんだ……」
郵便所には、新しい仲間も増えていた。
かつての盗賊団の数人が、「郵便って面白そう」と残り、雑務や仕分け、配達補佐を担当。
元倉庫だった建物も少し改装され、カウンターができ、掲示板には手紙イベントの案内が並ぶ。
「今月の『手紙の日』は、テーマが、ありがとうだってさ」
「あたし、おばあちゃんに書こうかな」
子どもたちが楽しげに話す声。
それを聞いて、カズトはほほ笑む。
――この村で、何かが少しずつ、確かに変わってきた。
ドラルド=ドラゴニクス三世からは、新たな定期配達依頼。
「この間の紅茶、実に良かった。次はバタークッキーの詰め合わせをお願いできるかな?」
それが、ドラゴンのセリフとは思えないほどの優雅さ。
「毎週この山登るの、さすがにキツいんだけど……」
そうぼやきつつも、カズトは結局、来週の配達予定にしっかり記入していた。
陶芸家として隠居中の元魔王・ラミリスからは、毎月のように新作の陶芸カタログが届く。
「そろそろ郵便所に『壺コーナー』を設けたまえ」
「断るよ」
そんなやりとりも、すっかり日常だ。
夕方。仕事を終えたカズトが郵便所に戻ると、ひとつ、封筒がポストに入っていた。
差出人は――リゼ。
「……また恋文の誤配?」
封を開けると、中にはシンプルな文字が並んでいた。
「ずっと、そばにいてくれたら、嬉しい」
それだけの、短い手紙。
でも、読み終えたあと、カズトはしばらくその場から動けなかった。
その夜。星空の下、リゼの家の前。
「……手紙、届いたよ」
「うん。遅配してない?」
「ばっちり。ちょっと照れくさかったけど」
リゼは目をそらして、小さく言った。
「ねぇ、カズト。これからも、毎日――ただいまって、言ってくれる?」
カズトは少し驚いたように目を見開き、
そして、照れくさそうに笑った。
「……うん。行ってきますの後には、ちゃんと、ただいまって言うよ」
「そ、そっか。なら、いい」
月明かりの下、ふたりの影が重なっていた。
次の日。
カズトはいつものように、カバンを背負い、帽子をかぶる。
「じゃ、行ってきます。約束の時間、守らないとね」
――今日も彼は手紙を届ける。
人と人を、村と世界を、
少しずつ、ゆっくりと、つないでいく。
スローライフで、ちょっと騒がしい、
けれど温かい毎日が、これからも続いていくのだ。
【おわりに】
郵便配達は、ただの仕事じゃない。
それは「想いを運ぶ」こと。
届けるたびに、何かが始まり、誰かとつながっていく。
――そしてその真ん中には、いつも、彼がいた。




