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10/12

雨の日の告白便

それは、配達には最悪の日だった。


朝から空は灰色に染まり、昼には本降り、午後には嵐。

稲妻が空を引き裂き、村の犬すら屋根裏に逃げ込むような暴風雨。


「……ま、配達は中止だね。さすがに」


ソリオ村郵便所の中。

カズトは窓の外を見ながら、今日の仕事を潔く諦めた。


そんなとき――。


ガチャ、と扉が開く音。


「お、おい、ちょっと! ドア閉めろ! 雨入ってくる!」


「ちょっとじゃないってば! 傘が飛ばされて……っ!」


入ってきたのは、ずぶ濡れのリゼだった。

髪も服もビショビショ、顔はわずかに赤い。


「はあ……まったく、何でこんな日に出てくるのさ」


「べ、別に……あんたに会いたくてとかじゃないから!」


「誰もそんなこと言ってないけど?」


「~~~ッ!」


カズトは苦笑しつつ、タオルとブランケットを差し出した。




郵便所の中は、ぽつんと静かだった。


外は嵐。

けれど中は、灯りと湯気と、ふたり分の距離。


薪ストーブの前、湯気を立てるマグカップ。

リゼは膝を抱え、毛布にくるまっていた。


「……ありがと」


「どしたの、今日は。何か届けたかったの?」


「ううん。……ただ、家にいたくなくて」


ぽつりと、リゼが呟く。


「恋文、出してみたけどさ。やっぱり、難しいや。あんたの仕事、すごいよ。気持ちを伝えるって、ほんとに」


「……まあ、ね」


カズトは紅茶を啜りながら、ゆっくり言った。


「俺はただ、届けたいものがある人を手伝ってるだけ。自分のは……まだ、うまく言葉にできないけど」


しばしの沈黙。

外では雷が鳴り、雨が屋根を打ちつけていた。


リゼが口を開く。


「ねぇ、カズト」


「ん?」


「この村……ずっと、いてくれる?」


一瞬、言葉が止まった。


ふざけるような調子ではなく、でも重すぎもしない、

まるで、雨音に紛れて聞かせたい気持ちみたいな、そんな問いだった。


カズトは笑った。


「もちろん。約束の時間がある限りね」


リゼが少しだけ笑った。

照れ隠しのように、マグカップを口元に隠す。


「……なんか、ずるい言い方」


「そっちこそ、急にそういうこと言うの、反則だよ」


「べ、別に、そんなんじゃっ……!」


二人の会話はかみ合わないまま、でも心は少しだけ近づいて、

外の嵐が通り過ぎる頃には、ふたりの間の沈黙も優しいものになっていた。




翌朝、雲は晴れ、青空が広がっていた。


トゴロ隊長が郵便所に駆け込んできた。


「カズトォ! リゼ! 無事か!?」


中では――


ふたりでストーブの前で居眠りしている姿。

マグカップを手に、毛布をシェアして、ゆったりと眠っていた。


「……なにこれ。青春かよ……」


トゴロはそっとドアを閉めた。




⚫︎郵便局日報(抜粋)


・嵐により配達中止。被害なし。

・リゼ、郵便所で一夜を過ごす。カズトと「大事な会話」(※詳細不明)

・村の老人連中、「ついに来たか」と大盛り上がり(※まだ来てない)


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