皇女宮の新人武官
私は今、皇帝陛下の後宮にいる。詳しく言うと、皇帝陛下の子ども達、皇女様達が暮らす皇女宮で、新人武官として仕事をしています。
皇后陛下の娘と側妃達の娘は、一定の年齢に達すると、後宮の同じ区域に一人一宮を与えられ、結婚するまでその宮で生活するらしい。
私は皇帝の一の姫、つまり第一皇女殿下の側仕えの武官として、後宮に送り込まれた。
なぜこんな事になったのかと言うと、飛翔様の手伝いが、皇后陛下の周辺の出来事を探る事だったからである。
皇后陛下の側仕えになるには、私の経験が足りず、仕方なく皇后陛下の娘である、第一皇女殿下の場所に配属された訳だけど、飛翔様って何者……? 白家の側近がついてる官吏って相当官位が高いのでは?
眼帯の男は白賢嵐と言うらしく、私が大人しく皇太子宮で働いていたら、直属の上官になる予定の人物だったみたい。
……ん? ということは、飛翔様は皇太子宮で働いてる文官か、皇太子殿下のご友人……とか? 私、実は凄い人と知り合いになってる?
ちなみに、私が都にきた目的は洗いざらい吐かされた。
白武官がなんだか微妙な表情をしてたのが印象に残ってる。
飛翔様は私の話を聞いて、春麗お嬢様の行方を探してくれると約束してくれた。
私の方でも引き続き探そうと思ってる。お嬢様のことを任せきりにする訳にはいかないから。
◆◆◆
皇女殿下の部屋で警護をしていると
「貴女、明蘭と言ったかしら。事情はお兄様から聞いているわ。私の側近武官として後宮の色んな場所に連れ歩いてあげるから、頑張ってね」
第一皇女の蝶華様が、軽やかな動きで私に近寄り、宮女たちに聞こえないよう、小声で言葉をかけてくれた。
「もったいないお言葉、ありがとうございます。精一杯、務めさせていただきます」
蝶華様のお兄様ということは、翔貴皇太子殿下か。私が護衛するはずだった人。
皇后陛下の周辺を探りたいのは、皇太子殿下ということかな。
「さっそくだけど、お母様の宮に行ってみる? 緊張するなら別の場所でもいいけれど」
いきなり皇后陛下の場所に!? それは少し難易度が高くありませんか?
でも、飛翔様の手伝いを達成するには、いつかは行かないといけない場所だし……。
「先触れも出さずにお会いするのは、さすがに遠慮したいです。今日は皇后陛下付きの宮女たちに、会いに行きませんか?」
蝶華様は皇后陛下の娘だからいつ会いに行っても大丈夫なんだろうけど、私は無理でしょ。
「そう……? 分かったわ。それなら今から外出準備よ! 桃凛! お願い」
「はい蝶華様! 今すぐ準備いたします!」
蝶華様のすぐ傍で静かに控えていた宮女が、蝶華様の合図で突然、生き生きと動き始めた事に仰天する。
物静かな女性なのかと思ってた。
桃凛さんの素早い行動で、ものの数分もしないうちに外出支度が完了した蝶華様。
私は気づかないうちに桃凛さんに拍手を送っていた。
◆◆◆
ただ今私、皇后陛下付きの宮女たちにきゃあきゃあと揉みくちゃにされています。
なぜこうなった……?
「皇女様付きの武官様ですって?」
「今回の武科挙に受かられたのですか?」
「凛々しい方ですね!」
「同じ女性とは思えないくらい中性的で美しい方!」
「どことなく、白武官様に似てらっしゃらない?」
「言われてみれば! 目元とかそっくりね」
これじゃ、皇后陛下の情報を聞き出すどころか、私の情報が丸裸にされてしまいそう。
蝶華様は皇后陛下に会いに行ってしまったし、どうやってこの荒波から抜け出せばいいのか……。
「何の騒ぎです? 後宮の顔がみっともない。そなたらは皇后陛下付きの宮女という自覚がないのか?」
助かった……。誰だろう。
私を見てはしゃいでいる宮女たちより歳上に見える。
「宮女長様! 申し訳ありません」
「仕事に戻ります」
「明蘭様、またお会いしましょう」
「今度会う時は休憩時間にお話したいわ」
皇后陛下付きの宮女長が、騒ぎを聞きつけ宮から出てきたらしい。
宮女たちは私に別れの挨拶をした後、そそくさとそれぞれの仕事に戻ってしまう。
……結局何も聞き出せずに終わってしまった。助かったけど、飛翔様にはがっかりされてしまうかな……。
まだ初日だし、明日から本腰を入れて探ろう。
「貴女も、あまり後宮の風紀を乱さないよう、気をつけてくださいませ。今回は皇女殿下の顔を立てて見逃してさしあげます」
宮女長にチクリと言われてしまった……。
「次回から気をつけます。ありがとうございます」
外見で騒がれてしまうと、どうしようもないんだけどなぁ。次ここに来るときは変装でもしてくるべき?
男装は……ダメか。それなら、宮女服でどうだろう……。顔も化粧で変えて。なんだかいけそうな気がする!
◆◆◆
蝶華様が皇后宮から出てきた後、私は蝶華様と桃凛さんを皇女宮に送り、後宮から皇太子宮の武官控え室に帰ってきた。
そのまま白武官に今日の報告をして、やっと仕事から解放だ。
色々と疲れた……。情報は手に入らなかったし、私本当は皇太子宮付きなのに、皇太子殿下には会えてないし! 散々じゃない?
武官宿舎に戻ったら香玉に慰めてもらおう……。