再会と取り引き
牢屋の寝台で寝転び、不貞腐れていた私は、看守の慌て声で上体を起こした。
目を凝らして薄暗い牢屋の外を見る。
すると、こちらに向かってくる男性二人を、看守が必死に追いかけているのが見えた。
一人は私を牢屋に入れた眼帯の男。もう一人は、その男が従っている様子と、服装からして上級官吏だろう。
「ここの寝台は寝心地良かったのか?」
開口一番、嫌味かな? カビ臭いし、お世辞にも良いとは言えない。
鉄格子越しに話しかけられ、上級官吏を睨みつけそうになる。
罪を犯したのは私だ、速やかに解放されるには我慢一択。
「罰されても仕方がない罪を犯しました。ですが、どうか命だけは見逃していただきたいです」
処刑されたらお嬢様を探すどころか、霞家の皆と師父が悲しみに暮れてしまう。……師父の場合は冥府まで私を追っかけてきて張り倒してくるかも。やばい。
「自覚があるのはいいことだな。お前は白州からきたと聞いたが、目的は武官になることだけか? 誰かに指示されたからここにいるのであれば、正直に答えよ」
周囲が薄暗いせいで、上級官吏の煌びやかな服装しか見えない……。
口調から私を処刑する感じでは無いけど、正直に答えないとここから出してはくれなそう。
「……私自身の意志でここにきました」
目的はお嬢様を探すことだけど……。
科挙を受ける手もあったんだよね。私の頭がもう少し良かったら! 武官になる方が手っ取り早かっただけで。
「武官になることだけが目的では無いみたいだな」
「なぜ分かったのですか!?」
いや怖っ。私何も話してないんだけど。動揺が顔に出てた? 薄暗いのに見えるの……?
「目が泳いでいたからだが。本当の目的を話せば独房から解放してやるぞ」
嘘だ! 暗い中で他人の目の動きが、その位置から見えるわけない。
……お嬢様を探してる事情を話せば解放してくれるんだ……。あれ? 探すの協力してくれるかも?!
「話します!」
単純だと罵られても構わない。まずは牢屋から出ることの方が重要だから!
◆◆◆
手縄はつけられたまま、私は狭い牢屋から、明るい尋問部屋に移動させられた。
机を挟んで相向かいに座る。
「……ん? そなたは……」
「あなた! 森の中で襲われてた……」
椅子に座り顔を上げて、上級官吏を見た私は目を見開いた。
相手も眉を上げて驚きの表情。
「恩人じゃないか。……明蘭と言っていたな」
「飛翔さんでは? 皇宮の方だったんですね」
牢屋では暗くて顔が分からなかったけど、この顔は森で襲われてた男性だ。
あの後、無事かどうか心配だったけど、元気そうで良かった。
飛翔も私のことを覚えていたようで、これなら厳しい尋問を受けなくて済むかもとちょっと安心する。
私より官位高そうだから、飛翔様って呼んだ方がいいのかも。
眼帯の男が小首を傾げて、飛翔様に何か言っている。
「……飛翔……?」
「賢嵐」
「……かしこまりました」
私に聞こえない声で話した後、彼は飛翔様の背後に下がった。
せめて私にも聞こえるように会話してくれませんかね。
「あの時は助かった。ありがとう」
飛翔様は私に礼を言った。
尋問官が不審者に礼を言う構図が可笑しくて、笑いそうになるのを堪える。
「どうも」
口元に力を入れたせいで返答が無愛想になってしまった。
「命の恩人だから今回は見逃してあげよう。だが目的は話して貰うぞ。それから私の手伝いもして貰おう」
あ、それとこれとは別問題なんですね……。
やっぱり話さないと駄目なのかぁ。それに、飛翔様の手伝いも加わるのか。つらい。
「分かりました……」
私はガクリと肩を落とした。
春麗お嬢様……、厄介事を押し付けられそうです……。お嬢様からますます遠ざかって行くようで、悲しいですが待っていてください。必ずお嬢様を見つけ出してみせますから!