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蔵書閣にて

スヤスヤと寝息を立てている香玉の隣で、私は窓際の壁に寄りかかり、物思いにふける。


武殿試を受けた後、お嬢様が住んでいた、城下町の屋敷で見つけた紙を見つめながら。


『先帝陛下弑逆事件。(すい)一族の族滅。濡れ衣の可能性。私は深入りしすぎた。この事を誰かに伝えないと』


これは多分お嬢様の日記の一部だ。霞家のみんなは、私を含めてお嬢様の死を受け入れられず、城下町の屋敷はまだ整理していなかった。


お嬢様の気配が至る所に残る屋敷。整理ができないのは当たり前だ。整理をしてしまうと、お嬢様の死が現実味を帯びてしまうから……。


先帝陛下弑逆事件……。お嬢様はなぜこの事件を調べていたんだろう。飛龍国の人なら、文字が読めなくても知っている大事件。私が生まれた頃のこの事件。犯人は先帝陛下の側室、水貴妃だったらしい。皇帝を殺す大罪。当然一族郎党皆殺しになった。


立てた片膝を両腕で支え、膝に額を押し付けるように顔を伏せる。同時に(ほど)いていた髪がサラリと広がり、俯く顔を覆い隠した。


濡れ衣、か。お嬢様の考えは分からないけど、この事件を調べているうちに、お嬢様は水貴妃が濡れ衣を着せられたと思ったんだ。何かを見つけたのか、それとも直感(ちょっかん)か。


この事件を探れば、お嬢様の行方に辿りつけるのかな?


それならまずは、この事件の詳細を調べないと。じっとしている場合じゃない! 明日から皇太子宮で警護の仕事が始まる。そうなったらなかなか自由に動けない。重大事件だから、蔵書閣であれば記録が残ってるはず。


私は解いていた髪を纏め直し、香玉を起こさないように、そっと部屋から抜け出した。


◆◆◆


巡回している武官を掻い潜り、やっと辿りついた蔵書閣を前に私は途方に暮れていた。


蔵書閣の入口には見張りの武官。当たり前のことになぜ気づかなかったのか自分が憎い。


私はしばらく物陰でうろうろした後、パッと閃いたことを行動に移した。


「見張りご苦労。皇太子殿下のご用命で来たのだが、中に入っても問題ないな?」


そう、今の私は殿下の命令で蔵書閣に来た殿下の側近! 決して怪しい者ではない! だから早く中に入らせて。明日から皇太子宮で働くし、全くの嘘という訳でもないから!


「見ない顔ですね。(はく)武官様では無いのはなぜでしょうか? 失礼ですが身元を証明する(はい)をお見せいただけますか?」


訝しげに眉を寄せる見張りに、サッと懐から近衛府所属の牌を取り出し、目の前に突きつける。


じっとみられたら名前まで覚えられてしまいそうなので、素早く牌を懐に戻し口をひらく。


「……これでいいか? 皇太子殿下をお待たせしている。これ以上の詮索は無用だ」


「失礼いたしました……。中へどうぞ」


蔵書閣に入ってもしばらく見張りの視線を感じ、緊張で呼吸が乱れた。


書棚と書棚の間を通って奥まで歩き、やっと肩の力を抜く。


「歴史書か、事件書、はたまた別の書物なのかな……」


お嬢様がどの書物を調べていたのかが分かれば、手がかりも掴めるだろうけど。


「でも、書物を調べてたとは限らない……?!」


いや一旦、先帝陛下弑逆事件の全容を知る必要がある。だから私は事件書を調べてみるべきかな……。


だんだん混乱してきた。そもそも、お嬢様の行方を知ってる文官がいてもおかしくないんじゃない?


こんな地道に事件を一から調べても、お嬢様に辿りつけないのでは?


「あった。けど、破られてる……」


破られてる!? 蔵書閣の重要な書物なのに?!


これこそ事件なのでは。何者かが持ち去ったか処分したのか。私の行動は間違って無かったみたい。


だけど事件の全容が分からないと、この先何を調べればいいのか分からない……。


やっぱりお嬢様と交流があった人を探すしかなさそう。


「そこの者、動くな! 皇太子殿下の名を利用するとは不届き者め」


っ! 油断した! 誰だか知らないけど、牢屋に入れられるのだけは避けたい……。なるべくしおらしい態度でいこう!


ガックリと項垂れて、私は背後の人物の言葉を待つことにした。

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