城下町での遭遇
食事処の店が建ち並ぶ通り。
都の住民はもちろん、旅芸人や行商人、さまざまな人が思い思いの場所に向かって歩いている。
都に来た日も思ったけど、人が多すぎて目が回りそう。
なんか、騒がしい乱闘の幻聴まで聞こえてきた気がする。
「何の騒ぎかしら」
「香玉にも聞こえるの?」
「ええ。見に行ってみる?」
武官として、騒ぎを無視するのは、気が引ける。
香玉と顔を合わせて頷き合い、騒ぎの現場に向かうことにした。
◆◆◆
「騒ぎの原因が、同期だとは思わなかった」
乱闘騒ぎを武力で制圧した後、私と香玉は目の前にいる人物を連れて、現場を離れた。
「文句でもあんのかよ」
「助けてあげたのに、その態度は何?」
「いっ…てぇ! 頼んでねえ」
香玉の少し荒い手当を受けて、目の前の人物、柴蒼雲が、不貞腐れた態度で、そっぽを向く。
「結局、何が原因で乱闘に?」
「……別に。言う必要ねえだろ」
「あんたねぇ! 柴一族だからって、調子に乗りすぎなんじゃないかしら!」
「うるせえッ!」
甘味処の店の机を力任せに叩く蒼雲。店内が一気に静まり返り、彼は気まずげに俯いた。
「柴一族って、有名なの……?」
都の貴族については詳しくない。だけど、唖然とした表情の二人を見る限り、知ってないとおかしい位には、大きな貴族家みたい。
「俺が榜眼なのは、お前が脳筋だったせいか」
鼻で笑われ、口の端が引き攣る。
失礼な! 私は才媛であるお嬢様と、同じ教育を受けて育ったんだけど! その証拠に、国の成り立ちについては詳しいし、五大貴族についてだってそれなりに……。
「明蘭ちゃん。柴一族はね、今の皇太后陛下の外戚なのよ。そして、その当主は現副宰相なの。国政の中心一族と言っても過言では無いのよ」
憐れみの視線で見てくる香玉に、頬が熱くなる。
蒼雲の言う通り、私は馬鹿だった。絶対学んだはずなのに、なんで記憶に無いんだろう。皇太后陛下と副宰相が同じ一族なら、柴家は五大貴族家と同等か、それ以上に力を持った貴族家だ。
「俺は一人を除いて、一族が大ッ嫌いなんだ。柴一族を知らねえってだけで、お前に好感が持てるくらいにな」
皮肉げな笑いを浮かべて話す蒼雲に、どう返せばいいか分からず、私は曖昧に笑みを浮かべた。
「見上げた根性じゃない。喧嘩を売るだけの小物かと思ってたけど、見直したわ」
「炎家の姫君に評価いただけるとは、なんたる光栄だ? 跪いて頭でも垂れるべきか?」
「あんた、皮肉しか言えない訳? 褒めてるんだから、黙って受け取っときなさいよッ」
相性が悪いのかな。言い争いが、どんどん酷くなってる気がする。これ以上酷くなる前に、止めに入るべきかも。
「そろそろ宿舎に帰らない? 外も暗くなってきたし、門が閉まっても困るし」
恐る恐る二人に声をかけると、ピタリと言い争いが止まった。
「そうね。そろそろ戻りましょう」
「俺は今日、外泊許可を貰ってるんでね」
「ああそう。さようなら! せいぜい夜道に気をつけなさい。また喧嘩でもして捕吏に捕まったら、笑ってあげるわ」
「いちいちうるせえな! 分かったから、早く帰れよお姫様!」
どちらかと言うと、香玉の方が絡んでるみたい……どうしたんだろ。蒼雲のことが嫌いって感じでもなさそうだけど。
言い返そうと口を開く香玉を引きずって、甘味処の店を出る。
お腹空いた。せめて、団子だけでも食べれば良かったかも……。
それにしても、蒼雲は何で喧嘩してたんだろう。武殿試でのことを考えると、頭に血が上りやすそうではあるけど、理由もなく喧嘩するような性格では無さそうだしなぁ。
そう言えば私は馬鹿だった。考えても分からなそうな問題は、考えるのを止めよう。




