お嬢様の行方
「詳細は省くが、霞春麗が最後に会っていたのは、錦衣衛の文官だ。その場を目撃した者が言うには、二人は何事か揉めていて、最終的には霞春麗が錦衣衛に連れて行かれたと。錦衣衛に連れて行かれたならば、霞春麗は既に亡くなっている可能性が高い。そなたの役に立てなくて、残念だ」
感情が感じられない飛翔様の声。
錦衣衛って、犯罪者でもないお嬢様がなんで……。
理解できない。理解したくない!
「ふざけないでくださいッ!!」
そんな無感情に、お嬢様の死を語らないでっ!
頭に血が上り、執務机越しで飛翔様に掴みかかっていた。
「その手を離しなさい」
「いや、いい」
「ですが……」
「私が怒らせたのだから、このままでいい」
「……かしこまりました」
飛翔様と白武官が小声で話してる。だけど、そんなことはどうでもいい。
飛翔様の襟首を掴む手に、無意識に力が入る。
お嬢様……。春麗お嬢様! なんで錦衣衛にっ。日記の事件を調べてたからですか!? なぜ、そんなことをする必要があったのですか? 本当に、お嬢様は、亡くなられてッ?
視界に入ってくる机の木目が滲んだ。
「……亡骸……。お嬢様の亡骸はどこへ」
目尻から雫が溢れるのも構わず、飛翔様を見上げる。
「……錦衣衛が秘密裏に埋葬したはずだ。言いづらいことだが、遺体の損傷が激しかったのかもしれない」
幼子に言い聞かせるような声音で、残酷な現実を突きつけてくる飛翔様。
拷問のせいでっ。
体から力が抜ける。
視界がぐらつき、世界が暗転した。
◆◆◆
天翔貴は、倒れた明蘭を腕で支えた後、横抱きに抱え直した。
「霞春麗は、錦衣衛を動かす程の証拠を、探り出したみたいだな」
「水貴妃の濡れ衣を晴らせる程の証拠、ですね」
賢嵐が自身の左目の眼帯に手を触れる。
「口惜しいか?」
「それは……そうですね。生きているときに出会えていたら、強力な同志になったのではと思います」
「ああ。本当に、残念だ」
証拠さえあれば、水貴妃に濡れ衣を着せた犯人、当時の皇后であり、現皇太后であるお祖母様を、罰することができるんだが……。
「ところで、いつまで抱き抱えているおつもりですか?」
賢嵐に指摘され、翔貴は腕の中で気を失っている少女を見る。
見開いた目から、とめどなく流れていた涙。
いつだったか、同じようなことが、あった気がする。
母上の生家でのことだっただろうか。
龍舞祭での幼い舞手が、演舞前に緊張のせいか、こんなふうに泣いていた。
なぜ、今思い出したのか。この少女の泣き顔が、あの時の子に似てたからだろうか。
「宿舎まで」
「やめてください。騒ぎになります」
「冗談だ」
「冗談に聞こえませんよ……私が連れて行きます」
ため息をついた賢嵐が、翔貴の腕から明蘭を抱き取った。
「彼女に数日休暇を与えようと思う」
「それは……良いことですね」
「お前もそう思うか」
「はい。彼女には、気持ちを整理する時間が必要だと思いますから」
「では、このことを彼女と同部屋の者に伝えてくれ」
「かしこまりました」
賢嵐は翔貴に頭を下げた後、明蘭を抱えて部屋を出て行った。




