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女武官明蘭~龍の眠る国で~  作者: ヒトミ


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14/20

お嬢様の行方

「詳細は省くが、霞春麗が最後に会っていたのは、錦衣衛(きんいえい)の文官だ。その場を目撃した者が言うには、二人は何事か揉めていて、最終的には霞春麗が錦衣衛に連れて行かれたと。錦衣衛に連れて行かれたならば、霞春麗は既に亡くなっている可能性が高い。そなたの役に立てなくて、残念だ」


感情が感じられない飛翔様の声。


錦衣衛って、犯罪者でもないお嬢様がなんで……。


理解できない。理解したくない!


「ふざけないでくださいッ!!」


そんな無感情に、お嬢様の死を語らないでっ!


頭に血が(のぼ)り、執務机越しで飛翔様に掴みかかっていた。


「その手を離しなさい」

「いや、いい」

「ですが……」

「私が怒らせたのだから、このままでいい」

「……かしこまりました」


飛翔様と白武官が小声で話してる。だけど、そんなことはどうでもいい。


飛翔様の襟首を掴む手に、無意識に力が入る。


お嬢様……。春麗お嬢様! なんで錦衣衛にっ。日記の事件を調べてたからですか!? なぜ、そんなことをする必要があったのですか? 本当に、お嬢様は、亡くなられてッ?


視界に入ってくる机の木目が(にじ)んだ。


「……亡骸(なきがら)……。お嬢様の亡骸はどこへ」


目尻から雫が溢れるのも構わず、飛翔様を見上げる。


「……錦衣衛が秘密裏に埋葬したはずだ。言いづらいことだが、遺体の損傷が激しかったのかもしれない」


幼子(おさなご)に言い聞かせるような声音で、残酷な現実を突きつけてくる飛翔様。


拷問のせいでっ。


体から力が抜ける。


視界がぐらつき、世界が暗転した。


◆◆◆


天翔貴は、倒れた明蘭を腕で支えた後、横抱きに抱え直した。


「霞春麗は、錦衣衛を動かす程の証拠を、探り出したみたいだな」

「水貴妃の濡れ衣を晴らせる程の証拠、ですね」


賢嵐が自身の左目の眼帯に手を触れる。


「口惜しいか?」

「それは……そうですね。生きているときに出会えていたら、強力な同志になったのではと思います」

「ああ。本当に、残念だ」


証拠さえあれば、水貴妃に濡れ衣を着せた犯人、当時の皇后であり、現皇太后であるお祖母様を、罰することができるんだが……。


「ところで、いつまで抱き抱えているおつもりですか?」


賢嵐に指摘され、翔貴は腕の中で気を失っている少女を見る。


見開いた目から、とめどなく流れていた涙。


いつだったか、同じようなことが、あった気がする。


母上の生家でのことだっただろうか。


龍舞祭での幼い舞手(まいて)が、演舞前に緊張のせいか、こんなふうに泣いていた。


なぜ、今思い出したのか。この少女の泣き顔が、あの時の子に似てたからだろうか。


「宿舎まで」

「やめてください。騒ぎになります」

「冗談だ」

「冗談に聞こえませんよ……私が連れて行きます」


ため息をついた賢嵐が、翔貴の腕から明蘭を抱き取った。


「彼女に数日休暇を与えようと思う」

「それは……良いことですね」

「お前もそう思うか」

「はい。彼女には、気持ちを整理する時間が必要だと思いますから」

「では、このことを彼女と同部屋の者に伝えてくれ」

「かしこまりました」


賢嵐は翔貴に頭を下げた後、明蘭を抱えて部屋を出て行った。

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