5 66.檸檬はどうした⁉
「ねえ檸檬。あなたの名字は?」
両親を轢いた犯人との兼から三日後、私は伊予に呼ばれて屋上にいる。
ちなみに立ち入り禁止。
「……狐月ではなく、狐坂です」
「何で?」
「………うちの家系…父方の家系は当主以外は狐月と名乗ることが決められていて…それで……私らは狐月と名乗っていますが、狐坂です……」
ちょっと考えたら分かる事ではある。
父方の名字は狐坂。
母方の名字は堂前。
どこにも狐月という名字はない。
ちなみに伊予たちの名字、鈴木は伊予たちのお父さん、修一さんの名字。
「……なるほどね」
「まあ、圭は気が付いていたんじゃない? 考えれば分かる事だもん」
「嘘⁉ お兄ちゃん、気づいてたの⁉ 仲間はずれだ~‼」
「ごめんね?」
伊予とも話ができて、部屋に戻る。
そしてなんとな~くスマホを開いて、なんとな~く世の中のニュースを見ていたら、でかでかと書かれていたニュースに目を疑う。
そのニュースの内容は「Yuzu×アオ、3年ぶりの奇跡の生放送!」だった。
アオ、この人はこないだちょっかいかけてきたあのアオだ。
「ごめん‼ 夕飯には戻るから‼」
「檸檬さん⁉」
返ってきたばかりで玄関にいた一花に伝えて家を出る。
目的地は少し距離があるため、バス停に向かう。
あ゙――――――――もう‼
あの人の電話番号なんて知らない。知ってるわけない‼
知ってる人に電話するしかないか……。
「もしもし。檸檬です」
少し怒っていることを感じさせないために落ち着いて話す。
『…お前らから連絡なんて珍しいな。どうした?』
「まあ、あなたからもそうないけど…山崎さんの電話番号知ってる?」
『……お前、やっぱり山崎から聞かされてないな?』
あんたは知ってたんかい‼
「ええ、テレビのことでしょう?」
『山崎だな? 十分後に会えるぞ? アポ、取るか?』
貸しを作っちゃう……。
でも………。
「…………お願いします……」
『もしかして、小さいときに一緒に活動してたYuzuちゃん⁉』
通話の奥で聞こえる会話。
『…そうだよ。やっぱりYuzu、山崎さんから聞いてなかったみたい』
猫かぶり野郎め。
「その声は弥緑くん? アオ、面倒くさいやつだけど、よろしくね?」
『その通り! 弥緑だよ! って、その名の通り面倒くさいやつですよ~』
『オイ』
アオの怒りの声が聞こえる。
通話越しだから言える文句。
『にしても、二人とも通じ合ってるんだね~。さっきまでアオ「そろそろYuzuから通話がかかってくるんじゃないか?」って言ってたし!』
「そんな事言ってたの? エスパー?」
そんな感じでふざけていると、
ツーツーツーツー
と言って通話が切れる。
ま、ちょうどバスが来たからいいタイミングなんだな~……。
二人の会話聞いてたら怒りがちょっと収まった。
バスに乗り込むと、赤色のウイッグと帽子を深々と被る。
あまりすすめないけど、時間がないからここで赤色のカラコンを目に入れる。
三十分ほどバスに乗り、駅前についたので降りる。
「あ~あ~あ~あ~」
声を似せて中に入って行く。
改札を抜け、電車に乗る。
五駅乗ったら降りる。
地上は都会。
家も首都圏ではあるが、ビルが立ち並ぶ都会ほどじゃない。
高いとこならスカイツリーは見えるけどね。
「すみません。山崎さんと会う約束をしていた者ですが」
「了解しました」
ちゃんと伝わってるかな……。
四十五分ぐらいだから何もなければ受付に伝わっているはず。
ただ、山崎さんとアオが三十分以上離してるなら話は別。
「すみませんが、お約束されていませんね」
「そうですか……じゃあ、四年近くここで仕事をしている方はいらっしゃいますか?」
「四年……? 少々お待ちください」
すると奥から五十代後半ぐらいの男性が来た。 何回か見た顔だ。
「ハイハイ。どうしましたか?」
「突然のアポイントだったのでまだ伝わってなかったみたいなので顔パスが通じる方がいいかなと思って」
深くかぶっていた帽子を顔が見えるように少し取る。
「ん。久しぶりじゃないか。いいよ。通んな」
「え⁉ いいんですか⁉」
最初に対応してくれた女性が驚く。
「マネージャーに会いに行くのになぜ許可がいる?」
ナイスフォロー。 そう思って奥に進む。
建物の中に入れたとて、どこにいるか分からない。 山崎さん、どこにいる? って連絡しても既読にならないし。
「あッ! Learさん!」
良くしてもらった女優さん。
「あら! Yuzuちゃん。久しぶり!」
良かった覚えてくださってた。
「今、お時間ありますか?」
「五分ぐらいならあるわよ」
「よかった」
かなり人気の女優だから時間無いかもって思ってたけど、良かった~。
「その様子ならアオくんか山崎さんの居場所を求めてるわね?」
「よく分かりますね」
「顔に書いてあるわよ」
そんなにわかりやすかった?
「でも、ごめんなさい。居場所は分からないわ。でも、アオくんなら弥緑くんと一緒に居るのを四階で見たわよ」
「四階ですね。ありがとうございます」
四階。 そこそこ広いけど、誰かに聞けばいいか。
「身長伸びたわね。それに、大人っぽくなったわ。大きくなったわね。ってヤダ。近所のおばちゃんみたいな反応しちゃったわ」
「そんなふうに思っていただけていたなんて、光栄です。Learさんとのご縁に感謝しています」
「対応が大人すぎるわよ。もうちょっと子供は子供でいなさい!」
「レアルさ~ん! お時間で~す」
「あら。思ったより早かったわ。また会えたらいいわね。じゃあねYuzuちゃん。今行きま~す」
そう言って手を振って行ってしまった。
エレベーターに乗って四階についたところで目の前に弥緑くんがいる。
「あ。弥緑くん!」
「Yuzuちゃん! 初めまして!」
そうだ。
弥緑くんとは初めましてだ。
「いつも拝見させてもらってます」
軽く会釈する。
「こちらこそ! といっても、アオと活動しているところしか見てないけど…」
「十分です。活動してないですから」
「あ。アオと山崎さん? 二階にいるんじゃないかな? 電話の後、僕は着替えて、お話してたから分かんないけどそこだと思うよ?」
「ありがとう!」
私はもう一度エレベーターに乗り込む。
「明後日、僕らのライブがあるんだ。Yuzuちゃん来ない? チケットあげるよ!」
「う~ん、たぶんアオが嫌がるんじゃないかなっていうか、こないだライブやったばかりじゃない?」
「そうなんだよね~おんなじことをもっかいやるの」
大変だなぁ……。
「でも、アオの事は気にせず、お忍びでおいでよ! 僕らがやる前の音ちゃんのチケット手に入れたはいいけど、ちょうどみられないから、余っちゃってさ。残念なんだよね~」
音ちゃん…確か2次元寄りの2.5次元アイドル。
本人は2.3次元アイドルって言っている。
個人で活動するVTuber。
「じゃあ、行こうかな?」
「それに、今から三十分後ぐらいに僕らが生放送で出るから見てね!」
~翆雨ちゃんの、2.5次元アイドルって何? 講座~
2次元と3次元はご存じですか?
3次元とは、いわゆる「3D」のことで、縦・横・奥行きがある立体の世界です。
現実の空間、そして私たち人間もこの三次元に存在しています。
一方、2次元とは「2D」のことで、縦と横だけの平面世界。
奥行きがなく、イラストや漫画、アニメ・ゲームのキャラクターなどがこれにあたります。
では、「2.5次元アイドル」とは何でしょうか?
これは、動画や配信では2次元的なキャラクターとして活動しているものの、ライブなどでは実際の人間が登場するスタイルです。
そのため、2次元と3次元の中間的存在として「2.5次元」と呼ばれています。
さて、ここで登場する「音さん」は、少し特殊な存在です。
実際には「2.3次元アイドル」という言葉は公式には存在しません。
ですが、音さんはライブでも本人が登場せず、顔出しもしていません。
それでも、ライブの時、裏では本人が生歌を歌っているため、完全な2次元ではない。
そのため、本人が「2次元じゃない、2.3次元アイドルだ!」といい、ファンの間でもそう呼ばれているそうです。
翆「音ちゃんだ~!」
霧「音ちゃんだ~!」
小「……………………!」
翆「コラそこ! 一人何もしゃべらないのはなし!」
霧「さあ、音ちゃんは誰でしょうか!」
小「本人がもうすぐ登場するぞ」
翆「言うなよ! ま、檸檬がなぜこんなところにいるのか。もうすぐわかりますよッ!」
2025年12月5日
こちらの作品を書き直すことを決めました。
正直、ここまで読んでくださった方はいらっしゃるのでしょうかね?
前々から考えていたことではありますが、一年経たずに終わらせるのも嫌なので、一周年を気に新しく書き換えます。
五章を最後まで書けなかったことは残念ではありますが、新しく書き換えたいと思います。
中途半端で終わる作品ですが、新しく始まる彼女たちの一歩を見届けていただければ幸いです。
最後になりますが、彼女たちの物語がネットの世界に投げ込まれた日まであと十一日で一年です。
主人公檸檬、その従兄妹圭と伊予、蓮、辻村左紅。
他にもたくさんの私の中から生まれた子が動いて来ました。
最初に戻ることで種明かしまで来年再来年、その先になるかもしれないお話を楽しんでいただきたいです。
ありがとうございました。
翆雨ユイカ




