嫁バクさん
軽いテンポの着信音が鳴り、紡技糸はスマホをポケットから出した。「お電話ありがとうございます!こちら『マトイヌノ』でございます!」糸が軽やかな声で電話に対応する。
ここは糸が経営している手作り衣装のお店。その名も『マトイヌノ』裁縫がお得意の糸は、どんなに作るのが難しい衣装でも、一日以内で完成させる事が出来る。しかもたった一人で!そんな糸のお店に、その日も電話依頼が来た。
『申し上げます。申し上げます。私明日の夜、夢入り式を行う予定のバク、クレアと云うモノです。実は急ですが、夢入りドレスを制作していただきたいのでお願い出来ませんか?』「そうなのですね!お夢入り、おめでとうございます!安心しておまかせ下さいませ。クレア様のイメージ通りに、夢入りドレスをお作り致します。先ずはドレスのイメージをお電話越しに思い描いて下さいませ」『はい、あの……こんな感じです』電話を通じてクレアが描くドレスのイメージが、糸へと伝わる。女性らしく可愛らしいデザインが、描かれていた。「デザインが伝わりましたので、今からお作りさせて頂きます!出来上がり次第クレア様の夢にお届けに参ります!」『ありがとうございます。それでは、お願いします。失礼します』「失礼いたします」
相手が電話を切るのを確かめ、それから糸も電話を切る。さあ、作業開始だ。一度お店の外に準備中のプレートを架け、電話も留守番電話に設定しておいた。作業室に入ると裁縫箱を取りだし布の用意をしてイメージを動きに移す。道具は机に置いた状態で、糸は立ったままドレスを作る。理由は電話から伝わる依頼人の身長を糸自身の身長と比較し、布を寸断するため。(袖、裾、共にリボンでギャザー風に絞り、背中に羽根をイメージしたレースを飾り付ける……!)型紙なしで布を寸断すると、ギャザー風にする部分を山折、谷折にし一気に針を通す。(一刺し縫い!)一瞬にして袖と裾のギャザー縫いが終る。仕上げは背中部分の羽根を形取ったレースを縫う作業。クレアのイメージの羽根は妖精を思わせる形。背中に対になるよう羽根の形のレースを縫い、糸の付け具合を確かめる。(緩すぎず、きついすぎず……よし、完成!後はお届け)少し早い時間だが、糸は就寝についた。(開いて下さい。夢への扉)糸が夢で合い言葉を唱えると、夢にある扉が開いた。扉の向こうには夢入りするクレアが、笑みを浮かべて待っていた。(仕立て屋さん、お待ちしていました!)(クレア様の夢入りドレスをお届けにまいりました。こちらです)イメージ通りに仕上がった夢入りドレスを見て、クレアは幸せな表情を浮かべる。見ていると、糸も幸せになれる笑顔だ。(ありがとうございます!こんな幸せな夢入りドレスを着て、あの方の夢に入れるなんて本当に最高です)(喜んで頂き、私も最高です)糸が制作した夢入りドレスを着て、クレアはあの方の夢に歩いて行った。(お幸せに、夢世界一、幸せな嫁バクさん)バクは好きな相手の夢に入ると、来世では結ばれると云われている。




