第9話【いざダンジョンへ】
翌日。あの後そのままミコトの家で一晩を過ごした俺は2人でギルドへ向かった。
「――おはようございます。エリック様、ミコト様。本日はどの様な依頼をお探しでしょうか。」
ギルドに入り受け付けの列に並ぶ。そして俺たちの番か来るとお姉さんは言い慣れた口調でそう言った。
「いや、今日は依頼じゃないわ。ダンジョンに入りたいの。」
「ダンジョンですか。分かりました。どのダンジョンに入りますか?」
するとそこでお姉さんはカウンター下から1枚の紙を取り出すと俺たちの前に掲示する。そこには、
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【レガロ・ダンジョン】
危険度:E〜C
場所:レガロ鉱山
【ノルマン・ダンジョン】
危険度:C〜B
場所:ノルマン山
【ウーマタ・ダンジョン】
危険度:E〜D
場所:ウーマタ遺跡
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ふ〜ん、色々なダンジョンがあるんだな。それはよく分かるが――
「な、なぁミコト。ところでダンジョンってなんなんだ?」
俺はそこでずっと思っていた事を横のミコトに訊ねた。
「えっ?エリック、貴方ダンジョンの事も知らずに来たの?」
「いや、昨日聞いても『明日のお楽しみ』だと教えてくれなかったのはそっちじゃないのか?」
「げっ……」
「そうだった……」と言わんばかりの苦しい表情をするミコト。
「しょ、しょうがないわね。教えてあげるわ。」
そこで俺は簡単に「ダンジョン」について説明してもらった。
ダンジョンとは、主に「元々人間が何らかの形で使用されていた人工物にモンスターが住み着いた場所」らしい。
そしてダンジョンが通常の依頼と違う点は大きく2つ。
ひとつ目は「○○を討伐してくれ」と言った依頼が出ていない事。
そしてふたつ目はその時倒したモンスターによって貰える報酬が変わるという事だ。(と言ってもその時モンスターがダンジョンに居るかどうかも分からなければ、討伐に急を要する訳でも無い為報酬自体は少ないらしいが。)
だから言わばダンジョンは、「自分の今の力を試す場所」という事だな。
それを含めて目の前に出された紙を改めて見てみると、何となく意味が分かって来た。
1番上がダンジョンの名前で、真ん中がそのダンジョンに生息しているモンスターの主な危険度。一番下が場所という訳だよな。
「なるほど。大体は分かった。で、この3つの内からどれにするんだ?」
「う〜んそうね、正直私も実際にダンジョンに行くのは初めてだからよく分からないけれど――この「ウーマタ・ダンジョン」で良いんじゃないかしら。1番危険度も低いっぽいし。」
お……!てっきりミコトの事だから1番危険度の高い「ノルマン・ダンジョン」にしようと言い出さないか心配だったが、安心したぞ。
「……な、なによその目は。」
「いや、がむしゃらに危険度の高い場所につっこむ様なバカだと思ってたからな。安心したんだよ。」
「今、私の事バカにしたわよね?」
「……私は昨日の出来事みたいな事はもうごめんよ」腕を組み、真面目な声色でそういうミコト。
そう、だよな。きっとミコトは冒険者歴が浅いという事もあって今まで壁にぶつかってこなかったんだろう。
――だが、昨日のゴブリンキングで俺たちは現実を思い知った。危険度Aは早かったのだ。
だから、今回もちゃんと適正ランクにしたって訳だよな。
――こいつとの付き合いはまだ数日なのに、ものすごく成長を目の当たりにした感覚だぜ。
「俺もミコトと同意見だ。このダンジョンにしよう。お姉さん、これでも大丈夫か?」
俺とミコトの意見が一致したところでお姉さんにそう訊ねる。
「はい。大丈夫ですよ。このダンジョンは危険度も低めなので冒険者になったばかりの方々にも人気ですし。」
「お、じゃあ頼む。」
「注意事項としましてはこの紙には書いていませんが本当に極たまにではありますが、危険度Cのモンスターが出現するかもしれないという事と、人気ゆえにモンスターが討伐されてしまいなにも居ない可能性があるという事がありますが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫か?」
俺はミコトの方を向き、確認を取る。
「えぇ、大丈夫よ。なにもいなかったらそれはそれで別の依頼を探しましょう。」
「それもそうだな。――あぁ、大丈夫だ。」
「了解致しました。でしたら、この紙にエリック様とミコト様にサインを頂き次第、ダンジョン入場許可書を発行致しますね。」
そうして俺とミコトは出された紙にサインをし、ダンジョンに入る事を許可された証明書、「ダンジョン入場許可書」を発行してもらった。(ダンジョンはギルドの所有物である為、勝手に入ると罪に問われる場合があるのだそうだ。)
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それからウーマタ・ダンジョンの詳しい場所を教えてもらった俺とミコトは早速向かう事にした。
「――ここの道を、左に行けば良いんだな。」
「えぇ、そう言っていたわ。」
王都から出て数分後。俺が初めて受けたデゼル平原でのヒール草集めの際に使ったウーマタ森を切り開いた道をある程度来たところで俺は立ち止まり、そう呟く。
そこには先程お姉さんが言っていた通り、木々を切り分けた小さな道が左側に枝分かれしていた。
「じゃあ行きましょうか。現物は見た事が無いけれど、多分ひと目見れば分かるはずよ。」
そうしてその道を俺たちは長年手入れがされていないのか生い茂った草をかき分けながら進んで行った。
「――そういやミコト。」
「ん?どうかした?」
そうして数分間歩いたところで俺は不意にミコトへ声をかける。
「さっきひと目見れば分かるはずって言ってたが、ダンジョンってそんなに特徴的な形をしてるのか?俺はてっきりレガロ採掘跡地みたいな少し整備された穴なのかと思ってたが。」
「う〜ん、きっと他に書かれていたレガロ・ダンジョンやノルマン・ダンジョンだとそうなのだろうけど、」
ん?俺たちがこれから行くウーマタ・ダンジョンはなにか違うのか?
「――ウーマタ・ダンジョンの場所は「ウーマタ遺跡」だと書かれていたじゃない?」
「あー確かそう書かれていた気がするな。」
「ウーマタ遺跡って言うのは昔この辺りに住んでいた「ウーマタ族」という民族が作った人工物だと本で読んだ事があるのよ。」
「へ〜、民族か。」
まぁ確かに、こんな森の中にポツリと建造物があったら分かるわな。
――と、するとそこで先頭を歩いていたミコトが前方を指さしこう言った。
「って、そんな事を話していたら見つけたわよ。きっとあれがウーマタ遺跡ね。」
「……ッ!!、あれか……!」
俺は直ぐにミコトの指さす方向に目線を向ける。
そこにはパッと見高さ3メートル、横幅が10メートル程の明らかに人の手で作られた平ペったい台形の形をした砂岩の人工物があった。
それから俺たちはウーマタ遺跡に近付く。
すると遠目からでは分からなかった模様が壁に刻まれている事が分かった。
「確かにこれは遺跡だな。」
「そうね。――――あ、あそこから中に入れそうよ。」
中って言っても正直そこまで大きくは無いから地下への道でも続いていない限りモンスターがいるとは思えんが、
俺たちはミコトの発見した入り口らしき穴へ近づいていく。
「やっぱり、地下に続いてるっぽいわよ。」
……地下だった。先は暗闇で見えず、石の階段が下へと続いている。
「雰囲気的にはレガロ採掘跡地の入り口に似てる感じだな。穴はちゃんと木で補強されてるし。」
「まぁそれはギルドの所有物で大々的にダンジョンとしているのだから補強したのはギルドの人間でしょう。」
「まぁそれもそうか。」
俺たちはギルドから出された依頼を達成する事が仕事。反対にギルドはそんな俺たちが少しでも依頼を受けやすくする事が仕事だ。
「じゃあ入りましょうか。」
「あぁ。」
こうして俺とミコトはウーマタ・ダンジョンへと入って行った。
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ウーマタ・ダンジョンに入ってからしばらく、俺たちは整備された細い石の階段を降りていくと、そこでひとつの大きな穴に出た。
周りも一気に広くなり、壁には消えない魔法がかけられているのか辺りを照らす松明もところどころに設置されている。
ギルドのお姉さんが最後に「松明は必要無い」と言っていたのはこれがあるからか。
――まぁ当たり前の話だよな、松明を手に持った状態じゃとても万全に戦う事なんて出来ない。(昨日散々実感した)
「ここを先に進むのね。」
「だろうな。」
よし、じゃあ進むとするか。
そうして俺とミコトは再び足を進め出す。――――が、少し歩いたところで向こうからなにかがこちらへ走って来ている事に気付いた。
それに対して俺とミコトは顔を見合わせると、一斉に剣を背中から抜き、構える。
「……ッ」
しかし、
「――けてくれ!!」
「――なの無理だ!!」
その声で向こうから走ってきている正体が人間である事に気付いた。
なんだ……?えらく慌てているみたいだが、
するとそこでやっと相手の姿が見える。どうやら男と男の2人組らしい。装備的には初心者という感じだ。
「助けてくれ!!」
「あんなモンスターが出現するなんて聞いてないぞ!?」
「ど、どうし――」
俺は数メートル前まで来たところで話しかけようとしてみる。
しかし、男たちは余程焦っていたのか俺たちを素通りしてそのまま逃げて行ってしまった。
「なんだったんだ?あんなモンスターって、」
まさか、極たまに出現すると言っていた危険度Cのモンスターが……?いや、でもだとしたら最後の注意事項を聞かなかったあいつらの責任だろ。
だが、そんな俺に対してミコトは一度抜いていた剣を背中にさすと、
「まさか、このダンジョンにも普通居ないはずのモンスターがいるんじゃないでしょうね……」
「……ッ!、でもお姉さんだって言ってただろ?出現するとしても極たまに危険度Cの――」
「それ、本当に言ってるの?私たちは昨日、ゴブリンが数匹しか居ないはずの洞窟で危険度Aのゴブリンキングを見た。ありえない事は無いわ。」
「まぁあの男たちがほんとにバカで話もろくに聞いていなかっただけなら自業自得でしょうけど。どの道ここまで来てモンスターを野放しに引き返すなんて私はしたくない。」
真剣な表情で俺を見つめるミコト。その目には昨日「冒険者を目指す様になったきっかけ」を話してくれた時と同じ炎が静かに燃えていた。
「――ミコトならそういうと思ってたぜ。」
「なに?もう私の事を知り尽くした気になってるのかしら?ふっ、甘いわよハヤト。」
「へいへい。じゃあ、進むか。」
「えぇ……っ!!」
こうして俺たちはこの先に居る「なにか」へ、向かって行った。
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