第10話【ハイオーガVS生活魔法】
そうしてダンジョンの中を進み続ける事数分。
俺とミコトは先程逃げて行った2人組の冒険者が相対し、恐れたなにかを正面に発見した。――って、
「あいつは……オーガ?」
しかし、すぐに俺はそう呟く。
そう、なんとダンジョン内に居たのは想像していた様なモンスターとは違う、危険度Cのオーガだったのだ。
普通これもこれでごく稀のケースを一発目に引くのは凄いと思うが――それでも拍子抜けした感覚に陥る。
たしかミコトも俺と同じく冒険者を始めてすぐにオーガを討伐したんだったよな。これならとりあえずは勝てそうか。
俺はそこで自分の胸を一旦心の中で撫で下ろし、こちらへ気付かれていないうちにどう倒すかをミコトと話す為に横を向く。
――が、そこで何故かミコトが正面のオーガに対して驚愕の表情をしている事に気付いた。
「おいミコト?あいつはオーガだ。確かにお姉さんが見せてくれた紙の情報通りなら変かもしれないがそれでも――」
「エリック、貴方分かってないの……!?あのモンスターはただのオーガなんかじゃない……!!」
「え?」
ただのオーガじゃないって、確かに肌の色は俺が前倒したオレンジ色ではなく紫だし、ツノも前よりも更に大きく鋭いし、骨格の大きさも――って、あれ……?
「ま、まさか、普通のオーガじゃないのか……?」
「肌の色も何もかも違うでしょう!?」
た、確かにそうだが……それはてっきり洞窟にいる個体と草原にいる個体の違いかと思ってたが……
「あれはどうみてもハイオーガ!!オーガの完全上位互換で危険度はBよ!?」
そこでミコトが言ったモンスターの名前を俺は聞いた事が無かった。
だが、どのみち危険度Bだと……!?そんなのが出現するなんて全く聞いてないぞ!?
「な、なんでそんなモンスターがこのダンジョンに居るんだよ!?」
「そんなの私が聞きたいくらいよ!!普通ハイオーガは標高の高い鉱山などに単体でいる様なモンスターで、まず人前に現れる事すら珍しいのになんでッ!!」
「うぉぉぉ……」
「「……ッ!?」」
するとそこで俺たちの存在に気が付いたハイオーガがゆっくりとこちらへ歩いてきた。
く、くそ……!!だが、先程言った様にこんなモンスターを野放しにしておくなんて出来ねぇ、!
とにかく、まずは剣を抜いて戦闘態勢を取る。
「ミコト、まずはあいつを魔法で怯ませて欲しい。それからならまだ生活魔法で――」
「ダメ、ハイオーガの分厚い皮膚はどんな環境でも対応が出来る程屈強な肉体を持っているの。炎じゃダメージを入れられないわ……!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「……ッ!?、」
するとそこで先程までも近付き、やっと俺たちをしっかりと視界に捉えたのかハイオーガは地鳴りのような叫び声を上げるとドスドスとこちらへ走ってきた。
とにかくまずは避けられるように――
「重量軽減ッ!!」
そこで俺は自身とミコトに物質を軽くする生活魔法を使う。
するとその直後、こちらへ走ってきていたハイオーガが両手を上にあげると俺たちに向けてそれを振り下ろした。
しかし、その一連の流れを見ており、更に重量軽減を身体に使用している俺とミコトは後ろにバックステップを取り避ける。
――が、なんとそのまま地面に振り落とされたハイオーガの両腕は予想以上の威力で石で出来た地面を簡単に凹ませたのだ。
「うぉぉぉぉ……」
地面に積み重なっていた砂埃を巻き上げながら、ハイオーガは態勢を立て直すと後ろへ下がった俺たちとの間合いを再び詰め始める。
「マジかよ、」
「とんでもない力ね……」
この力……オーガの全てを知っている訳じゃねぇが少なくとも俺が倒したオーガとは桁違いの力だぞ……?
この状態でこいつと戦うのはマズイ、そこでそう悟った俺はハイオーガの方に手を向ける。そして、
「一旦大人しくしろ……!!重量増幅ッ!!」
自身とミコトに使った生活魔法とは反対の、対象の物質を重くする生活魔法を使った。
「うぉぉぉ……ッ」
すると途端にハイオーガの動きがゆっくりになり表情が歪む。そして次第に止まるとあまりの重さに前のめりになった。
(よし、これなら……!!)
「ミコト今だ……ッ!!あいつに攻撃を――って、!?」
「う、うぉぉぉ……ぉぉぉぉ!!!」
しかし、なんとハイオーガは身体の重さに前傾姿勢になっていたにも関わらず、無理やりそれを起こして1歩、また1歩とこちらへ距離を詰めてきたのだ。
ハイオーガが歩く度に地面が微かに振動する。
当たり前だ、こいつの体重は今何倍にも膨れ上がってるんだぞ……!?歩ける方がおかしいだろッ!!
――だが、まだだ……!!重量増幅で止まらないのなら別の生活魔法を重ねて使えば良い……!!
そうして俺は再びゆっくりと唸り声を上げながらこちらへ向かってくるハイオーガに手のひらを向けるとその足に狙いを定め、
「接着ッ!!」
ハイオーガの両手を地面の石と接着させた。
すると今度は重量増幅の時の様にゆっくりと動きが止まる訳では無く、ビタりと動きが止まった。
なんせこれは物と物を接着する生活魔法。俺が解かない限りは石と足が離れるなんて有り得ない……ッ!!
――だが、またもや俺は有り得ない光景を目にする事になる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「……ッ!?!?」」
なんと今度は足に接着されていた石の部分を力で引き抜くと、すぐに歩みを再開し始めたのだ。
うそ、だろ……!?そんな強引な力プレイが――
自分の信じていた生活魔法が無理やり力でねじ伏せられる。そんな衝撃的な光景に俺は呆然としてしまった。
「――て!」
「くそ、なんで、」
「―けて!」
「やっぱりまだまだ俺は――」
「エリックッ!!避けて!!」
するとそこでやっとミコトの叫びが俺の耳に入ってくる。
すぐに顔を上げ、正面を見るとなんと目の前で今にもハイオーガが振り上げた両手を俺目掛けて振り下ろさんとしているところだった。
まずい、今ハイオーガには重量増幅がかかっているから体重が何倍にも膨れ上がっている。だから簡単に言えばそれだけ拳にも体重が乗る為、攻撃力も膨れ上がる……!!
しかもこんな場面で気が付くなんて――避けれない……!!
俺は一瞬死を覚悟する。――が、
「たぁぁぁっ!!」
「……ッ!!」
そこで強引にミコトが俺の手を掴むと後ろに引っ張った。
ドスンッ!!!
それのすぐ後に目の前で爆発音にも思える様な轟音が響き、石が飛び散る。
「あ、危なかった、」
「なにぼーっとしてんのよ!!このバカッ!!」
間一髪で死ななかった。そう理解した瞬間にミコトから胸ぐらを捕まれそう叫ばれる。
「……ッ!!、すまん、!」
そうだよ、なんでもう勝てない様な雰囲気に自分でなってたんだよ。
生きている限りまだチャンスはあるじゃねぇか……!!
「しっかりしなさい!!貴方は私が見込んだ冒険者なんだから!!」
「あぁ……ッ!!」
俺はこころの中で自分に喝を入れると起き上がり、地面に落としていた剣を拾うとそれを構えた。
依然、ハイオーガの姿は巻き上がった石や砂塵で見えない。が、そこでミコトは片手を向こうへ向けると、
「くらいなさい!!火弾ッ!!」
火の玉をハイオーガに向けて放った。
すると火弾は砂塵を突き抜け、熱風と炎を吹きながら爆発する。
「うぉぉぉぉぉぉ……」
「……ッ!!、どんだけタフなのよ……!」
しかし、身体に付いたのはかすり傷程度で、今の一撃でハイオーガが弱った様にはとても見えなかった。
「くそ……やっぱり炎魔法じゃ厳しいわ……!!エリック、なにか良い魔法は無いの……ッ?」
そんなハイオーガを前にして、ミコトは俺の方を向きそう聞いてくる。
「正直、あるにはある。だがそれは俺たちにも被害が及ぶ可能性があるから出来るだけ使いたくは無かったがな。」
「あるのね……!!」
「あぁ……!」
ハイオーガめ、生活魔法を舐めるんじゃねぇよ……!!
「俺が指示を出したところでミコトはハイオーガに向けて思いっきり高くジャンプしてくれ。重量軽減が身体にかかっている今なら可能性なはずだ……!」
切羽詰まった状況の中、俺は早口でミコトにそう伝える。
「分かったわ……!!チャンスがあるなら私はエリックを信じる……!!」
「サンキュー……ッ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ……!!」
「……ッ!!」
そうしてゆっくりと間合いを詰めてくるハイオーガの方を俺は睨む。
全く、重量増幅がかけられているのに動けるなんて普通じゃねぇよホントに。お前とは出来ればもう二度と戦いたくは無い。
(一か八か、これで――終わりだ……ッ!!)
「ふんっ!!」
そこで俺はバッと自身の手のひらをハイオーガの頭上に向ける。そして、
「劣化ッ!!」
ハイオーガの頭上にある石へその物を劣化させる生活魔法――劣化を発動した。
この生活魔法は通常、建物の劣化や食べ物の腐食を元通りにする生活魔法、「若返り」の逆バージョンで、俺が生活魔法を練習して行く中、自身で生み出したオリジナルの物だ。
これがかかった物は若返りとは反対に、急速に劣化する……っ!!
バキ……バキバキ……
するとその途端、ハイオーガの頭上の石にヒビが入りだし、
「うぉぉぉぉぉぉ!?!?」
一気に崩れ落ちた。そして、当然下に居たハイオーガに全てが降り注がれる。
それには流石のハイオーガもバランスを崩し、前のめりになると膝を地面に着く形で倒れた。
よし……ッ!!予想通り……ッ!!
「今だミコトッ!!飛べッ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
そこで俺は言っていた通り指示を出す。
すると待っていましたと言わんばかりにミコトは前へ飛び出し、地面を力強く踏み込むと洞窟の天井スレスレまで飛び上がった。
そして、真下に居るハイオーガの頭を突き刺せる様に剣を持ち替えるとそれを振りかぶる。
通常のオーガならこれでもう勝ちが決まった様な物だが――相手は普通では無いハイオーガ。炎魔法も効かないくらいに皮膚も分厚いのだ。
もしかすると剣が弾かれてしまうかもしれない。
――それに、なによりもこいつは俺の生活魔法を力ずくで押し返した。
このままで終われない……!!生活魔法は、お前ごときに止められる様なものでは無い……ッ!!
だからそこでミコトにかかっていた重量軽減を外すと、代わりに――
「重量増幅ッ!!!」
重量増幅でミコトを何倍にも重くした。
途端に地面へと落ちるスピードが格段に早くなるミコト。
これなら――通常の攻撃より何倍もその一撃に体重が乗る……ッ!!これを出来るのが生活魔法だ……ッ!!
「行けッッッッッ!!!!貫けッッッッッッ!!!!」
「はぁぁぁぁッッ!!炎剣ッッッ!!!!」
そして最後にミコトも先程火弾を弾かれた事に対するリベンジか自身の持つ刃に炎を纏わせると――
「ぐぉぉぉぉぉぉぉッ!?!?」
そのまま倒れたハイオーガの脳天にそれは勢いよく突き刺さり、最後には刃に纏われていた炎が点爆を起こした事でハイオーガの頭は熱風と炎を吹きながら爆散したのだった。
最後までお読み頂き感謝です!!!
自分は皆様が楽しめる作品を書くのが永遠の目標ですので、お時間のある時で構いません!次話も読みに来てくださると嬉しいです!