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第6話:遊園地とデートとコスプレと

 六日後の土曜日、俺は朝も早くから最寄りの駅前にいた。ガラス張りに映る自分の姿を見て、少しだけ髪型を整えていく。


(服装は……別に問題ないよな)


 天下の王道、白シャツに黒のジャケット組み合わせだ。量産型服装と言われようとも、後ろ指さされることはないだろう。


「って、まあそんなに気合入れることはないんだけどな」


 この前の日曜日は確かにデートと言われた。だがこれはデートと言うよりも――――

「すみません。お待たせしてしまいました」

「いや、まだ一分ぐらいしか過ぎてって、うおっ⁉」


 未来の予期せぬ姿を見て思わずたじろいでしまう。まず目についたのは少し大きめのオリーブグリーンのライニングジャケットだ。さらにスポーティーにポニーテールでまとめている姿は、約束がなければランニングの途中と思っただろう。赤いライニングシューズも走りやすそうだ。


 そんな軽装に対してバッグを肩にかけ、さらにキャリーバッグを転がしている姿は、そのまま旅行に出られるほど荷物が多かった。俺は少し戸惑いながらも話を続ける。


「どうしたんだその荷物? 今日って遊園地に取材に行くんだよな??」

「はい、今の私にオリジナルのイラストは難しいので、とにかく資料を集めたいと思います。そのために準備できるものは全部用意してきました」

「それがこの荷物か……」


 きっと撮影器具でも持ってきたのだろう。彼女の真剣な眼差しを見て俺の心がギュッと引き締められる。


(俺も今日は遊園地をしっかり取材して、Elena/zero第一巻の完成度をさらに高めるんだ!)


 第一巻では小説のオリジナル主人公とエレナが遊園地に遊びに行くシーンがある。今日はそのための取材だ。浮ついた気持ちに活を入れると手を差し伸べる。


「荷物、どっちが重いんだ?」

「どちらかと言えば肩掛け鞄のほうですけど?」

「差支えなければ俺に持たせてくれないか」

「えっ、ですがこれは私が勝手に持ってきたものですし、古川さんのお手を煩わせることは……」

「俺が荷物を運びたいんだ。前園さんもこんなところで疲れ切ったら取材が出来ないだろう。俺に持たせてくれ」

「そ、それでは……はい、よろしくお願いします!」


 未来は肩掛け鞄を預かると瞬間ズシリとした重みが伝わってくる。もしかしたら中身は一眼レフか何かかもしれないと鞄を水平にしっかり保つ。そんな俺を見て未来は少しだけ顔をほころばせた。


「古川さん、今日はよろしくお願いします」

「ああ、俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

「ふふっ、頼りにしていますね」


 俺たちは互いに目を合わせると静かに闘志を燃やす。目的地は東部遊園地、俺たちは頷き合うと駅のホームへと向かった。


 東部遊園地は動物園と遊園地が併設しているテーマパークだ。子供の頃に何度か来て以来なので相当久しぶりだ。そんなことを思いながら俺はベンチでぼーっとアトラクションを見上げていた。


「待機列はなしか。やっぱりどこも大変なんだな」


 アトラクションに人は少なく、一グループのために動いているものもちらほら見える。だからこそこの場所が撮影に最適なのだろう。


「それにしても……前園さん時間かかってるな」


 入場すると俺からバッグを受け取り「準備があるから少し時間をいただきますね」とすぐにどこかに行ってしまった。


 未来が帰ってくるまで動くことも出来ず、こうしてぼーっと時が経つことを待つことしか出来なかった。


「いや、こういった時こそ周りを観察するべきじゃないのか!」


 せっかく遊園地まで来たのだ。この雰囲気を感じ取って小説に活かすべきだろう。三十になってからさぼり癖がついていけないと気合を入れ直す。俺は辺りを見渡した。


「ガラガラなアトラクションはElena/zero第一巻のロケーションにそっくりだな。二人の為だけに動くアトラクション、手を取りはしゃぐ子供たち。森林スペースを見ればエルフがいるのも――――エルフっ⁉」


 思わず大きな声をあげてしまう。周りに人がいなのは幸いだった。俺は口元を手で抑えながら再び森林スペースに目を向けた。


(あれって、今アニメでやってる直葬のアリーレンだよな。えっ、はっ、何でこんな田舎の遊園地にコスプレイヤーが??)


 コスプレイヤーの存在を視認すると周りの景色が一気に変わる。


(あれは薬師の犬犬だし呪式の六条もいる。うぉ、あのグループは皆テニキンか、凄い人数だな)


 改めて入り口に目を向けると『コスパーティー受付はこちら』と書かれた立て看板を確認できた。どうやら今日はコスプレイベントも行われているようだ。


(少子化で子供が減ってきた分、遊園地側も時代に合わせて変化してるんだな)


 よく見れば売店にもアニメコラボもちらほら見える。いったい自分は何をぼーっとしていたのだろうかと再び周りに目を向けた。


 色とりどりのレイヤーとそれを撮影するカメラマン達。さらに遠目からそれを見る子供たちもニチアサのライダーやプリキュアの姿に目を輝かせていた。


 真剣に、それでいて楽しそうな彼らの笑みを見て俺は自然と声を漏らす。


「………羨ましいな」


 ポロっと声が出た瞬間、心臓がギュッと鷲掴みされる。俺はいったい何を言っているのだろうか。ここにいる人たちは何日も前から準備をして、今日を楽しむためにこの場所にいるんだ。楽しくなければ嘘だろう。だが、ここ数年の俺はどうだったろうか。


(あっ、駄目だ。これネガる感じのやつだな)


「――――お待たせしました」


 タイミングよく未来の声が聞こえと嫌な思い出に無理やり蓋をする。


「いやそっちこそ準備お疲…………えっ?」


 その姿を見て今までの思考が一気に吹っ飛んでいく。だがそれは仕方がないだろう。俺の目の前にはずっと追い続けていた『彼女』がいるのだから。


 もちろんフィクションが現実に顕現したわけではない。だが彼女がリアル世界に存在することに驚きを隠せなかった。


「そ、その姿はもしかしなくても」

「…………はい、エレナ様のコスプレです」


 未来はプラチナブロンドの髪をなびかせてそう答えた。



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