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絶縁したはずの白ロリ美少女の元同級生に襲われたんだけど、いま草深い庭で迷い猫を探している最中なんですが!?(旧題【何かが、庭で。】)  作者: 今田ナイ
本編

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10.猫を追う⑤白雪姫の席巻

 

 

 雲間から、滲んだ半月が覗いていた。


 倒れた司の上に影を落とすのは、()()()()()を身にまとった雪子だった。

 白一色だったはずのサテンとレースのドレスは、胸元から滲み出す真っ赤な液体によって染め上げられていたのである。


 しかも、自分の頭もおかしくなり始めているのか、そんな雪子が綺麗だと思った。白雪姫と呼ぶには足りなかった頬の赤みが、自身の血でもって補われたのだ。


 呆けたように雪子を見ていたはずが、気付いた時には馬乗りされていた。


「……なっ?」


 しかも、自分の鍛えられた腹筋の上に乗った推定四十キロにも満たない雪子の身体が、どうしても撥ね退けられない。手も足も頭ですらも、ぴくりとも動かせない。かろうじて出るのは震える声、動かせるのは眼と汗を噴き出す汗腺だけだ。


 雪子は馬乗りになったまま、唯一の白さを残していたヘッドドレスのリボンを解く。黒炭のごとき黒髪がざざっと風に靡き、幅広のリボンを手慣れた様子で司の首に巻き付ける雪子の顔は、ある種の恍惚感に満ちていた。

 いやでも意図が、察せられた。


「――ねぇ、司ちゃん。私と距離を取ったのは、ほかの子達を傷付けたから?」

「……え、ソレ、どういう意味?……」


 初耳だった。突き落とされた被害者は、雪子の方だったはずだ。


「意外そうな顔をしているのね」


 雪子は邪気のない幼女のような笑みを浮かべ、


「でも、あなたの周りにいた子達が邪魔だったから、片っ端から排除してやったのよ。ええ、もちろんこそこそやったのだけど」


 自ら上履きに画鋲を仕込んで軽く怪我をしてみせた。

 自分で教科書やノートをハサミで切り刻んでベランダから放り出した。

 虐められていると間抜けな担任に泣き付き相手をいじめの主犯に仕立て上げ、わざと悪い噂を立てて心の病に追い込み、挙げ句転校を余儀なくさせた……等々。


 古典的手法から高度な情報操作まで、その他各種取り揃えとばかりに雪子が語ってみせる内容は、まさに仁義なき戦いであった。これがよくある感じのウェブ小説なら、高貴な悪役令嬢を追い込む邪悪な正ヒロインの姿そのままである。


「もちろん、ささやかな反撃もされたけどね。階段から突き落とされたり、とか」


 雪子はカラカラ笑いながら、あなたは女の子達の噂話に疎い――女子生徒達の情報網から外れている――から気付かなかったでしょうねと続けた。

 確かに、雪子の身辺を気にするようになったのは、雪子が階段から落ちて以降のことだ。同じクラスで起きていた出来事なのに、まったく気付けなかった。


「それなのに、司ちゃん急に具合が悪くなっちゃうんだもの、つまらないったら」


 雪子が来てからというもの、取り巻き達が瞬く間に減っていった。

 急に転校したり、学校に来なくなったりして司と距離がどんどん開いていく。

 クラス内はすっかり萎縮してしまい、司と同じで目が節穴の担任は理由も分からず困惑し、お祓いをしようなどと見当違いのことを言い出す始末だ。


 思い当たる節はあったのだ。自分はとんだ間抜けだ。


 雪子は外面(そとづら)が良く、教師陣の覚えもめでたい。猫被りを見破るのは困難を極めるだろう。嫋やかな見た目で、気付くと喉を食い破られている。あるいは後ろから延髄をひと噛みだ。クラスの哀れな子羊達は何が起きているか分からず、蹲って為す術も無く震えているだけだっただろう――司と同じように。


 しかし何故なのか。卑劣な手段をばらされた司の胸には、被害を受けた女子生徒らに気付かず申し訳ないと思いこそすれ、不思議と雪子を厭う気持ちは湧いてこなかった。むしろ、長年の謎が解けたかのように頭がすっきりしている。


「ゲームの勝者は私なんだから、ちゃんと賞品を貰って帰るわよ。まぁ、コユキは捕まりそうにないから諦めるけど」


 頬を赤く染めた雪子は、自身の勝利を高らかに宣言する。自分はトロフィーワイフ的な、つまりクラス内におけるステータスシンボルだったのか。


 ――っていうか、賞品を貰って帰るって、一体、どこへ?


 誇らしげな雪子の姿を見て、司の脳の配線が変な場所に入ってしまった。

 ――そういえば確か白雪姫って、結婚式の時に。

 棺の運び手が躓いた拍子に、死んだはずの白雪姫の喉からリンゴが取れて息を吹き返したのだ。そして王子との結婚式に何も知らない継母を招待した白雪姫は、やってきた継母に真っ赤に焼けた鉄の上靴を履かせ、倒れて死ぬまで躍らせたという――。なるほど、雪子こそ白雪姫の名に相応しい。司は改めてそう思った。


「私、あなたのことがずっと好きだったのよ」


 気付いてなかったわけじゃないでしょうとでも言うように、首に巻かれた白いサテン地のリボンをギリギリと情け容赦なく締め上げてくる。

 喉がへしゃげて、息を続けることができない。折れそうに細い腕なのに、かなり力があるんだなと妙に危機感のないことを思った司は、はたと気づく。


 ――そうだ、重要なことを忘れてた。

 これだけは言わなければと、司は薄れそうになる意識をどうにか奮い立たせ、


「ちっ、ちょっとまっ……」

  

 

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