貴公子だらけの学園生活~前世の記憶のあるピンク髪男爵令嬢ですが、攻略対象っぽいイケメンがなんかおかしい~
私はこの春から王立学園に通うこととなった。
孤児だった私だが、実は魔力を有する貴族の中でも有数の部類にいる方々に匹敵する魔力量があると判明し、王家から密命を受けた男爵家に令嬢として引き取られている。
学園に通うのもその流れである。
ちなみにピンク髪だ。
ピンクブロンドっつーかもう、ピンク。
地域差はあるが他の人もそれなりに賑々しい色をしており、目に優しくない。
──『これ、乙女ゲームに転生した系のナニカなのでは?』
この髪がきっかけで私は前世の記憶を思い出した。
その記憶は、日常エピソードというよりもサブカル知識が主であり、自分がそれなりのオタクだったのであろうことしか不明。
折角なんだからなんかもっと有益な情報を寄越さんかい!……と思わなくもないが、私の出自から今に至る迄の経緯がかなりのテンプレだと思い出すに至ったので、まあヨシとしよう。
そんなワケで、当初は「コレは『乙女ゲーム転生で私はヒロイン』では?」と思った次第。
やがてそれは『乙女ゲームに転生した系のナニカ』になった。
何故なら、これ系テンプレ使用の物語などクソ程あるから。ついでに私は乙女ゲームを実際にやったことはない。
転生したってだけで、それがどこのなにかというのもやっぱり不明。乙女ゲームか、はたまた小説か漫画か、コンテンツすらわからない。
だが、それなりの美少女で庇護欲そそる小動物系のこの見た目と、学園入学までの半生を鑑みるに、ヒロイン転生した可能性濃厚。
残念なことに私の知る限り大概、ピンク髪令嬢は『ヒロインという名の悪役』だった。
そう、世の中の流行りは『悪役令嬢=正ヒロイン』。そして悪役令嬢の髪色は様々だが、ヒロインの鉄板であるピンクが悪役令嬢のパターンは少ない。
ピンク髪ヒロインキャラは逆に危険な件。
なにしろ悪役令嬢キャラと違い、権力も金も学も伝手もなく、抗いようがない。
なんか知らんうちに男爵令嬢になり学園に通うことになっているのが、その証左と言える。
悪役と認定されたら、死ぬ確率は悪役令嬢よりまず間違いなく高い。
私は攻略対象っぽいイケメンには極力近寄らないと決め、学園の門をくぐった。
早速耳に届く、「きゃ~♡」という女子生徒の黄色い声。
すわ、攻略対象か!と身構える私は女子生徒達の集団に紛れ、モブと化しながら情報収集を行う。
攻略などする気はなくとも情報は大事だ。
「氷の貴公子様よ~♡」
「怜悧なお姿が堪らないわ~♡」
「眼鏡がお似合いだわ~♡」
彼女らの視線の先にはスラリとした高身長イケメン。皆様の感想通り、サラサラの青い長髪をハーフアップにした怜悧な印象の眼鏡である。
しかし『氷の貴公子』とか……ベタだな!
──ドドォン!! ガラガラッ
「!?」
「きゃー!」
謎の轟音と共に、今度は黄色くない普通の(?)悲鳴。
女子生徒モブから野次馬へと素早く役柄を移した私は、その他野次馬に紛れ悲鳴の方へと走る。
前方で氷の貴公子も走っている。
走り方がなんとなくシュッとしてて忍び的なのがまた、氷の貴公子っぽい。
逃げ惑う人が言うに、中庭にあるパルテノン神殿っぽい建物の柱のひとつが崩れたらしい。
こいつァ朝から大事件だぜ!
「こっちです!!」
「皆は無事なのか?!」
「幸い殆どの者が逃げおおせたのですが、ひとり下敷きに……!」
「なんだと……!」
信頼が厚いらしい氷の貴公子と、彼を呼んだ生徒A(仮)の会話を拾いつつ、着いた現場。
倒壊による粉塵が薄く辺りを包む中、前のよりはやや小さな『ドン』という激しい音と、そちらから上がる砂煙。
「ふう……」
そこから出てきたのは、負傷した男子生徒を抱きかかえた燃えるような赤髪の筋肉イケメン。
さては……攻略対象だな?!
「きゃ~♡ 焔の貴公子様よッ!」
「男子生徒をお助けに……!」
「私も抱きかかえて助けて頂きたいわ!」
「否!! 男子だからこそ尊し!!」
なんかひとり腐ってやがる……!
しかし『焔の貴公子』とは……ベタな様でいて初めて聞いたわ!
「無事か?!」
「ああ……しかし彼が足を」
「私にお任せてください……!」
そしてやってきた緑髪の、穏やかそうなイケメン。
彼は緑色に輝く力を放ち、負傷男子の足を治す。
「癒しの貴公子様だわ……!」
「これで安心ね!」
「ああ……皆様のイチャイチャに私の心も癒されていく……」
やはり貴公子。きっと攻略(以下略)
おいそこの腐女子、自重せい。
緑は『癒しの貴公子』らしい。
ベタと言えばベタではあるものの、なんとなく適当さが醸し出されているような気がするのは何故だ。緑だからか。
つーか皆『貴公子』って付けなきゃ気が済まんのか。
まあ攻略対象がわかりやすくていいっちゃいいんだけどさ。
そしてカラーバランスに若干のレンジャーみを感じ、ピンクである私のヒロイン疑惑が高まったが、それはさておき。
次に出てくるのはきっと黄色に違いない。
乙女ゲームは兎も角、レンジャー的に。
黄色は個性派かピンクに代わる女性キャラのイメージがある。
『カレー大好き食いしん坊』は個性派黄色のイメージに於いてベタなネタであると言えよう。
こうなるともう情報収集とか関係なく、単純にどんな貴公子か気になるところだ。
「きゃ~♡」
キター!!
後方からの黄色い悲鳴に、即座にそちらを振り返った私の視線が捉えたのは、それっぽい長い金髪をひとつに纏めたイケメン。 イケメンらしくキラキラしたエフェクトを纏っている。
『貴公子』縛りだとすると黄色は、一体なんの貴公子なのか!?
さあ女性徒達! 説明カモン!!
「黄金の貴公子様よ~♡」
黄金の貴公子……だと?!
『黄色≒黄金』。
まあ緑とか色関係ない『癒し』だしそこの繋がりはいいにしても、『黄金』とは如何に。
黄色に失礼かもしれないが、格が違う。
折り紙でも金と銀はレア扱いだし。
これは……テンプレ破りで黄色がセンターの流れなのか?!
「……ん?」
しかし、よく見ると周りもキラキラしてきた。そしてチラチラ視界に入る……黒子。
「やあ、これは大変だ。 修繕は僕に任せてくれたまえ」
ファッサー!と前髪を手で流しそう言った黄金の貴公子。
彼がパチンと指を鳴らすと、わらわらと現れし大工達──!!
それはまごうかたなき財力ムーブ……
『黄金』って、まんまじゃないか。
ちなみにエフェクトに使用していたのは砂金だった。黒子が撒いた砂金を回収にかかっている。
黒子大変だな?
そんなこんなでのっけから事件は起こりつつも、傍観を決め込んだ私。
この後ちゃんと入学式は開始され、恙無く終わった。
ちなみに四人は生徒会メンバーだった。
私は『絶対生徒会には近寄らない』と決めた。
しかし私は運営(※勿論学園の)から目を付けられていたらしく、半ば強制的に生徒会に入れられてしまう。
なんでだ。
ピンクだからか。
……ピンクだからか!?
「いや、君魔力量多いし」
「そもそも密命で捕か……ゲフンゲフン、保護されたあたりで察して?」
抵抗したら凄い普通にそう返された。
マトモかよ。
──そんなわけで。
結局関わらざるを得なくなったレンジャーメンバー達。
せめてピンクレンジャーになるのはご勘弁願いたいところ。
いくら美少女に生まれたからと言って、私にお色気担当は無理だ。
いや、当初の想定は『乙女ゲーム転生系のナニカ』であり、奴らは『攻略対象』だった筈。
あまりのカラーバランスと、前世で乙女ゲームを実際にはやったことがないのが災いし、自分の脳がやや混乱していると感じる。
私に振られるのは地味で簡単な書類作業のみ。あとは勉強を教わっており、書類作業もその一環的な実施に過ぎない。密命云々は事実らしい。
まあ、孤児だったしね。
貴公子達とは絡むは絡むが、ほぼほぼ真面目に勉強を教わるだけである。
一般的な勉強と魔法座学を教わるのは氷の貴公子と癒しの貴公子で、魔法実技を教わるのが焔の貴公子。
黄金の貴公子は、概ねお食事おやつの差し入れ係だ。ちなみに生徒会室には奴専用の豪華な椅子がある。流石は財力ムーブ。他にも私財を投入して色々カスタマイズしてそう。
幸い余裕のある孤児院だったのか読み書きだけは教えて貰っていたが、前世の記憶が無かったら計算とかはもうどうにもならないレベル。
前世の記憶が仕事していても全く学園の授業についていけない私に、補講は大変有難く、文句はない。美味しいごはんとおやつも頂けるし。
強いて文句を言うなら焔の貴公子の教え方がなかなか酷いくらい。
擬音と感覚に頼る説明はやめてほしいと切実に思う。
しかし、そんな日々を送っていたら、当然やっかまれる。
案の定、私は女子に囲まれた。
場所は連れ出された学舎裏という、なかなかベタな少女漫画展開だ。
やはりこれは『乙女ゲーム転生系のナニカ』なのでは。
「貴女のような男爵令嬢如きが、貴公子達の中にいるなんて羨まおかしいですわ!」
「マナーも所作もなってないくせに!」
「薔薇の園に女人は要らぬ……!」
意外にも虐めメンバーに加わっている腐女子の存在が気になるが、お怒りはごもっとも。
もとより別段歯向かうつもりもない。
こちらとしても勉強とごはんは有難いがこれ以上のフラグは要らんので、早々に撤退したいのだ。
問題なさそうな部分のみ抽出して説明し、彼女らに勉強を見て貰えば生徒会メンバーから抜け出せるのでは、と考えた私は、調子よく合わせようと試みることにした。
「いやいやいやいや皆様……(※揉み手で下から擦り寄るイメージで)」
しかし──
「お止めなさい……」
「はっ?!」
「何奴ッ?!」
いや、『何奴』って。
どうにも腐女子のキャラが濃い件。
「あっ貴女は……!」
声の先には、豊かで艶やかな黒髪を靡かせた神秘的な美少女。
「黒百合の姫君……!!」
『黒百合の姫君』……だと?!
なんと、『貴公子』だけでなくカラード・アナザーネーム(※ニュアンス的意訳)をお持ちの方が女性にもいらしたとは。
「くっ公爵令嬢様にそう仰られては引くよりありませんわ……!」
はい、補足説明あざーす!
わかりやすい説明を加えてくれた上で『覚えてらっしゃい!』とお決まりの台詞を私に吐き、女性徒達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。
いや、待って……!
もっとお話ししましょうよ!?
「貴女。 助けたわけじゃなくてよ……勘違いなさらないでね……」
黒百合の姫君は、私に向けて一方的にツンデレ的な台詞をクールに残したあと、黒髪を靡かせながらカッコよく踵を返した。
登場時も去る時も、風が味方してるのでは……と言う程に実にイイ感じで髪が靡き、花びらやら葉っぱやらが程良く舞っている。
『悪役令嬢』とも取れるが、その佇まいはむしろ『敵か味方か……謎の六人目! ブラックレンジャー!!』って感じなのが気になるところだ。
そんなある日のこと。
焔の貴公子に教わっていても、イマイチ本来の力を出せるようにならない私に氷の貴公子は言う。
「う~む、君はどうも魔力の解放が苦手なようだ」
「魔力の解放……っすか」
曰く、持ち合わせた魔力量より圧倒的にショボイ力しか出せていないらしい。
基礎の上級魔法『火球』(これまたベタだな)は出せるようになったが、確かに圧倒的ショボさである。
しかし、んなこと言われても。
焔の貴公子の説明は『今だッ! こうギュ~ンとしてバーンッて感じで!!』とかサッパリわからんし。
そう言うと、焔の貴公子の擬音部分を氷の貴公子が言語化して説明してくれる、という流れになった。
「そうだな……『ギュ~ン』というのは」
氷の貴公子がいざ説明に取り掛かろうとした──その時だった。
「大変です!」
焦った感じでやってきた癒しの貴公子。
やっぱり『癒しの貴公子』っていまいちカラーがわかりにくいな。
あ、緑の人ですよ。(※親切設計)
「学園に魔物が入り込みました!!」
ナ、ナンダッテ──!?!?
妙な展開がやってきたもんだ。
私の知る小説や漫画では、そういうのって大概もっと色々あってからだったような?
「皆の安全は我々が守る……いくぞ!!」
「おう!」
「君は安全なところへ!」
「あっハイ」
やっぱコレ、レンジャーモノじゃないの?
『貴族学園☆セレブンジャー~学園の平和は我々が守る!~』とかじゃないの?
──それは一旦置いとくとして。
生憎私は無力な民なので、『私も戦います!』などと言う気はサラサラないのである。そこに足を引っ張りたくない、などという殊勝な気持ちも特にない。
まあ普通に心配はしてるけど、レンジャーモノは応援と心配をする一視聴者でありたい。メンバーとか勘弁しろ。
良かった、「いくぞ!」の中に私も含まれてなくて。
カラード貴公子の皆様が出陣した中、とりあえず『安全なとこってどこやねん』と校内を彷徨う私。
なにしろ私ときたらお勉強ができないせいで補講ばかり。
自分の教室と生徒会室と黄金の貴公子のお陰で早々にリニューアルを果たした武道場くらいしか行ったことがないのである。
あとは連れ出された学舎裏か。
……学園生活とは一体。
若干遠い目になったが、その遠い目のお陰か少し遠くにウロウロしている腐女子を発見した。
『補足説明だけでなく安全な場所への案内もヨロ!』という気持ちで腐女子についていく。
──だが、この選択が自らの首を締めることになるとは。
この時の私は思っていなかったのである。
(んん……?)
なんかおかしい、奴の行く方向が。
これではまるで──
「──はっ!」
それに気付いた私は、腐女子に向かって走り出した。
「ちょっと!? アンタどこ行くつもり?!」
「決まっておろうが! 貴公子様方の連携プレーをこの目に焼き付けずして、なにが貴腐人か!!」
「くっ、腐ってやがる……ッ!!」
なんと、思った以上に腐女子は腐っていたのである。
アクティブ系貴腐人の恐ろしさたるや。
「危ないって! 逃げようよ!?」
「ふっ……貴様は逃げるがよい。 私には貴腐人としての矜恃がある!!」
いや、ドヤるなドヤるな。
捨てろそんな矜恃は。
「ええい! 言うことを聞かんか!」
事勿れ主義の私とはいえ、流石に目の前で人死にとか嫌だ。
腐ったお花畑に住むこのお方に、最早言語での意思疎通は無理と見た私は実力行使に出た。
「離せェェ……我はまだ本懐を遂げておらぬ……!」
どうでもいいけどなんか厨二だなコイツ。
──グルルルルッ……
「「はっ?!」」
キター!!(※悲鳴)
魔物!!
幸いまだこちらに気付いていないのか、獅子のような魔物は鼻をスンスン鳴らしその場に佇んでいる。
……それとも狩りを愉しんでいるだけか。
こちらが気付いたのに、気付いてないとも思えない。
「貴様は逃げろ……!」
「なんですって?!」
「私は大丈夫だ!」
「えっ!」
もしや予想外にも腐女子は強いのだろうか。
見た目は弱そうだけど、魔法に長けてるとか!
貴腐人だけに腐っても貴族だし!
恐怖と動揺と期待の混ざる私に腐女子はフッ……とニヒルに笑い、こう続けた。
「曲りなりにも我は貴腐人……! 死しても尚薔薇への探求を忘れぬ私の崇高な魂は、腐ェニックスとして復活するであろう……!」
あ、これダメなヤツだ。
ただの厨二腐女子の虚勢と現実逃避だ。
「あーもうッ! いいから逃げるよ!!」
僅かにでも期待した私が馬鹿だった。
魔物はこちらが逃げないのがつまらないのか、他に視線を向けたりしつつもゆっくりと距離を縮めてくる。
「惜しむらくは……我が推しカプである氷(ドS腹黒眼鏡攻め)×焔(無垢筋肉誘い受け)のリアルでもそれっぽい素敵連携が見れなかったことか……」
「黙らっしゃい!」
既に死を覚悟した腐女子は、今際の際みたいになっている。
美しい涙を一筋流しながら微笑みを浮かべ、なんか宣い出した腐女子を引き摺るように、私は一番近くの教室の扉を開けた。
しかし
──ドガッ!!
「ヒイッ!?」
やはり魔物は狩りを愉しんでいるようで、直接私と腐女子に当たらないよう突進し、大きな鉤爪で扉を破壊したのだ。
腐女子は既に息絶えている……かのように気絶しやがった。
いいタイミングで気絶しやがって。
また妙に安らかな顔なのが腹立たしい。
恐怖を分かち合うくらいしようぜ?!
「ち……近付くな、寄るな……!」
魔物は獅子型だけに表情はそんなに変わらなくとも、多分人型ならニヤニヤしているであろう、いやらしい距離の詰め方をしてくる。
「ああああこっち来んな来んな来んな来んな来んな来んな!!」
腐女子を抱えながら、恐怖で抜けている腰を引き摺るように後ろに下がる。
死 に た く な い 。
ピンクレンジャーなんて真っ平御免だが、こうなるとなんでもっと強くなろうとしなかったかが悔やまれる。
また『擬音頼りでなく、ちゃんと教えてくれてたら』という他責も同時発生。
そもそもなんだよ転生とか男爵令嬢とかピンク髪とか貴公子とか腐女子とか……という私の半生全てが、やり場のない憤りとして変化し腹の中でグルグルと回る。
やがて腹の中で回っていたそれは全身に回り、竜巻のように渦を大きくしていった。
「……ッファイヤーボール!!!!」
──ドゴォオオォッ!!
襲いかかられる寸前で目を瞑ってしまった私は、まだ生きてることを不思議に思いながら目を開ける。
パラパラ……という小さな音と煙。
「………………アレ?」
魔物は消えていた。
ついでに魔物周辺の天井と床も消えていた。
私が苦し紛れに放った魔法は、轟音と共に凶暴な獅子型の魔物を一瞬にして消し炭にしたらしい。
マジか。
「大丈夫か?!」
「こっ……コレは……!?」
「魔物の魔力の痕跡……まさか!」
今更来たのか貴公子達よ……(白目)
しかし私は『顕現した……我が力が!』とか、ましてや『アレェ~? 私なにかやっちゃいましたァ? (´>∂`)てへぺろ☆』とか言う気などサラサラない。
そんなのピンクレンジャー一択じゃないか。
また、乙女ゲーム的にもよろしくない。
「この人が助けてくれたんです!」
腐女子が気絶しているのをいいことに、全ての手柄を奴におっ被せることにした。
だがこれで腐女子も、憧れの薔薇の園で推しカプを眺め愉しみ脳内で花咲かせ存分に腐らせられるというもの。
まさにwin-win。
めでたしめでたし。
──みたいな感じを思い描いていたのだが、そう簡単にはいかなかった。
吐いた嘘はアッサリと看破され、色々片付いたあとで引き摺られるように連れていかれた生徒会室。
嫌な予感しかしない。
「ふっ……心配していたが、無事力が顕現したようだな」
──と、氷の貴公子。
眼鏡クイやめい。
私は別に眼鏡スキーじゃない。
「ははっ! 上級魔物討伐とは、なかなかやるじゃないか!」
──と、焔の貴公子。
フランクに肩を叩くな。
普通にどちゃクソ痛いわ!
そして『俺が育ててやった感』を醸すな。
アンタの説明一切わかんなかったからな?
「ご無事でなによりです……」
──と、癒しの貴公子。
そんな台詞ひとつで癒され絆されるとか思うなよ?
普通面した輩が何気に一番危険。
「我々生徒会は学園の平和を守るのが任務だ!! そう……陰日向なく!」
キター!!(※絶叫)
絶対言うと思ったんだよ!
そういうことをさぁぁ!!(※倒置法)
「君の能力がなかなか開花しないから、こちらもヤキモキしたものだが……そろそろ生徒会の真の役割と学園の」
「あーあーあーあー!!」
私は耳を塞ぎ大声で叫んだ。
そういう裏事情っぽいのを聞かせてくるんじゃない!
聞こえません!
私にはなにも聞こえませんよ!!
──フッ
叫んで抵抗していると、急に部屋が暗転した。
『仕方のない子ね……』
闇の中に響く少しハスキーなウィスパーヴォイス。
突如黒板を中心に明るさがやや戻る。
それは魔術で黒板に映し出された通信映像のせいだった。
『私は裏の生徒会長……』
「裏の生徒会長?!」
映像の向こうに佇む女性は、ボンキュッボンでありながらスラリとしていて、その美しい体型を見せつけるかのようなマーメイドラインのシンプルな黒いドレスを身に纏っている。
セクシーだが上品で、顔には仮面。
いやこの人公爵令嬢だよね?
顔隠してたらわからんと思うてか。
丸わかりだわ。
「いやあのアナタ……」
「シッ!」
しかしその台詞を言わんとする私の口は途中で塞がれた。
「彼女は裏の生徒会長……いいね?」
なんでか隠しときたいらしい。
なんなの、シャイなの?
『黒百合の姫君』だって大分アレよ?(辛辣)
『貴女の力は生徒会執行部5人目として相応しい……勿論、裏生徒会のメンバーとしても』
生徒会って表裏あるモノだったかなァ?!
「ふふっ……」
一人専用の豪華な椅子に座っていた黄金の貴公子が口元に手を当てて笑う。
そしておもむろに立ち上がると、やっぱりファッサー!と髪をその手で払いつつ、私に歩み寄った。
「大丈夫だよ、仔猫ちゃん……ちゃんと君には断る権利があるからね」
「えっ」
ならば断る。
謹んでご辞退申し上げる所存。
「──でもコレ」
スッと私の前に差し出された紙。
私はその紙を見て驚愕した。
それは膨大な額の借用書であった。
そう、ぶっ壊した教室の修繕費用である。
ついでに高位貴族を謀ったこと(※腐女子がやったことにした件)への慰謝料が計上され請求されていたのだ。
「僕が出している寄付金は基本的に、生徒会役員の為のお金だからねぇ……」
やっぱり財力ムーブ!!
金とは恐ろしい。
首が回らないとはよく言ったもので、断れば回らないどころか無いも同然。
私の断る権利もまた、無いも同然。
そして私は晴れて(死)、正式に生徒会役員となった。
それから不本意にも、ちょいちょい討伐やらなにやらに参戦するようになった私。そのお陰で周囲の生徒達からも認められるようになった。
つーか魔物出過ぎじゃない?
学園のセキュリティを先ずはどうにかしようぜ。
この先どうなるかはよくわからないが、とりあえず二つ名はまだ貰っていない。
特に要らないけど、多分ピンクっぽくないからだと思う。
あと、恋愛も特に生まれていない。
それも特に要らないけど、『乙女ゲーム転生系』ってこんなんだったっけ、と思わざるを得ぬ。
イケメンの無駄遣いである。
いや、無駄にイケメンなだけか。(辛辣)
ちなみに黒百合の姫君は王太子殿下(※歳上の為、卒業済)の婚約者だそう。
……卒業後が恐ろしい。
一体なにをやらされるんだ。
「俺達の戦いは、まだ始まったばかりだ!」
ある日の戦いで焔の貴公子がそう宣う。
それは打ち切り台詞だが、人生は続くのである。
こうなるとただのフラグでしかない。
やめろ。
変なフラグを立てるな。
☆おわり☆
ご高覧ありがとうございました!
異世界恋愛にするつもりが、全く恋愛がうまれませんでした。
主人公は、なんだかんだヒロインムーブをそれなりにかましつつも、なにも気付かないまま卒業。
最終的には何故か黒子とかと結婚して欲しい。
ちなみに黄金の貴公子のキャラクターイメージは花〇君です。