Fake me
午後八時。路地裏。建物の間。表に通りが見える。暗い。冷たい風が吹き込む。
無糖のアルミボトルのコーヒー。
パキパキと蓋を回す。
個包装のブラックチョコレート。
袋の端をつまんで引っ張る。
苦い。この苦さが私を現実に引き戻してくれる。
ポーチから鏡を取り出し、口の端が汚れていないか確認する。
赤色の瞳。ツインテール。赤いリボン。黒を基調にした服。
ひらひらと揺れるスカートを見たり、爪をいじったりして『その時』を待つ。
——来た。
表通りに一人の男を目で捉えた。周りにはボディーガードもいる。
手にした得物が夜行性の甲虫が如く、黒く輝く。
ピシュピシュッ
やっぱり『ガシャッ』って作動音が五月蠅い。
「う゛っ!」
ドサッ
男が前のめりに倒れ込む。慌てて周りのボディーガードが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
(分かるでしょ。大丈夫じゃないって)
地面に落ちた薬莢を回収して、周って路地裏を抜けた。
表通りで、警察官か誰かが騒がしい。
(そんなに重要な人ならちゃんと警備すれば良いのに)
なんて考えながら路地裏を歩いていると、警察官とバッタリ出会った。
「高校生?こんな所で何をしているんだ!」
咄嗟に目に涙を浮かべ、とびっきりの嘘を吐いた。
「あ、あっちに……銃を、銃を持った人が……」
「何だって!?それは本当かい!?」
「う、うん……」
だる。何でここで警察官と会わないといけないんだろ。
「……あれ?ところで、君——」
警察官が怪訝そうな顔をしながら訊いた。
警察官が言い終わる前に私は口を開いた。
「キリストとカエサル、どっちが好きですか?それとも両方ですか?」
午後十時。自分の部屋。お風呂上り。
ひとりテレビを付けて、ホットミルクを時折ふーふーしながら飲む。
テーブルの上の小皿にはいくつかハイミルクのチョコレートが乗っている。
『きょう午後八時頃、——県——市で衆議員議員の————議員が、何者かに撃たれるという事件がありました。————議員は、病院に搬送された後、亡くなりました』
使用弾薬は9mmのホロ―ポイント。貫通力が低くても人体のダメージは絶大。それが二発分。
(にしても防弾ベストすら着てなかったなんて)
『この事件で、一人の警察官が刺されて死亡しました。犯人は未だ逃走中です』
正確には両手首と足の付け根を刺されて壁に貼られていた、だけど。
テレビを消して、スマホを見た。
画面に自分が反射して見えた。
輝く赤い瞳。上気した頬に下ろした黒髪。三本、いつも決まった位置に付ける黒のヘアピン。ぶかぶかの白のプルオーバーパーカー。
仕事中はいつもポーチに入れている時計に通知が来た。
『良い仕事ぶりだったね。あの人の話題でひっきりなしだよ。今日は遅くなってしまったけど、お疲れ様。君がまた活躍するのを期待しているよ。今日はもう遅いだろうし、ゆっくり休んでくれ。P.S. 明日から一週間は仕事無いよ☆』
私は、親の顔を知らない。拾われ、幼い頃からここにいた。仕事は完璧にこなし、休息をとる。かなり昔からこのループを繰り返すメンバーで、何だかんだで気に入られている。不自由も無く、不満も無い。
でも、本物の自分が分からない。仕事中の自分か、休日の自分か。本当は何が好きで、何が嫌いなのか。
誰かに決められたような、そんな気がして。
偽物の私はハイミルクのチョコレートを口に放り込んだ。
その場のノリと気分で書いた結果、謎の奴が出来ました。
某曲を聴いたときに思い付きましたが、私はクリエイティブな物を作るのが苦手なようです。
と言うかあらすじを書いているときに思ったんですけど、あらすじの感じが一作目の短編に酷似していますね。
その時のテーマが『ココアとコーヒー』なので。
因みに。私は未だにコーヒーを飲めませんし、ホットミルクも苦手です。
ココアと冷たい牛乳ならいけます。