名前考えるのがマジ苦手
リンドウの母艦モビーディック級七番艦はママルイーターと言う艦名を付けられた。新任少尉の三人が乗った艦は、プロパガンダに際してシャチを分類した学名から艦名を付けられたのだ。因みに他はホエールイーターとフィッシュイーターである。
そして同時にママルイーターは大佐となったティック=ホーン・ダイナステス=ネプチューン=ローチの主力艦5隊の旗艦となっていた。リンドウは久々に母艦に戻り船長に挨拶の後、MAt部隊の上司になる元空挺部隊の大佐と連絡をとっていた。
相手の名前はベルトラン・ドゼー。拠点設営と防衛の天才で輝く盾と評される男だ。特務曹長という物を参考にリンドウを特務中尉、元空挺艦隊出身の中尉3名に新任少尉20名を麾下におく主力艦25群隊のMAt1500連隊の隊長だ。
ホログラムがリンドウの前に。涼やかとでも評すべき人当たりの良さそうな落ち着いた壮年という言葉が正しいが若く見える男性。スラリとした体系でターコイズブルーの瞳とそれを薄めて銀にも見える長髪を後頭部で束ねていた。
「特務中尉。資料は御覧頂けましたか」
「ええ、仰っていた通り新任少尉が多いですね。教育中なのは知っていますが、これは期間的に大丈夫でしょうか」
「練兵期間は貴方達より長い三年を想定しています。私も惑星上では兎も角宇宙空間での戦闘に関しては素人ですので、一日の長がある貴方には苦労をかけますが」
「そこに関しては寧ろ御教授頂きたいくらいですよ。大佐の意見書を拝読させて頂きましたが砲身艦の装甲を薄くして盾にすという発想は目から鱗でした。確かに宇宙空間であれば堅固超重な戦艦の装甲も薄くし防御を削って軽量化すればMAtで扱える」
「寧ろ私としては外野から余計な口出しをしたかと戦々恐々としていたのですよ」
「いえいえ、なにぶん装甲を貼り付ける工程で宇宙船の推進器を使用するので考えが固くなってたみたいです。装甲には最低でも宇宙船の推進器が必要だと」
「なるほど、御役に立てたようで安心しました。私達の場合だと惑星上での対大型獣との戦いで盾が役に立ち基本兵装になっていますから。それこそ無くなれば探すくらいには重宝していますよ」
「へぇー」
「まぁ稀では有りますがサルベージ中に偶発的な会敵で気が付けば盾諸共貫かれ味方が死んでいるなんてザラですけどハッハッハ」
「えぇ……」
「なにせ大型MA同士で戦う事もあったのですが御存知の通り火力が高すぎますから、戦艦の装甲を盾に出来ないかと常々考えていたんですよ。視界が悪いと狙撃ほど恐ろしい事もありません」
「怖、大型獣のいる星は植物も大きいと聞きますが大型MAが隠密できる程なんですか」
「ええ、それはもう。100や200㍍の木が当然のように生えていますし2、30㍍の大型MAなんて小さなものです。そう言えば帝国の対応は戦闘ドローンか大型MAで代わりなさそうだとの事ですよ。帝国が大規模な開拓船団を作ると大々的に兵を募っているそうで」
「帝国の空挺艦隊でしたね。効果を期待できる部隊を秘匿し情報を絞った上で、大部隊化して痛打を与えるという上の判断には首を傾げたのですが浅はかだったみたいです。筋書き通りだ」
「全くもって私も同感ですよ特務中尉。敵が同じ発見をしていなければMAtか戦闘ドローンで対応すると言うのは結果を見れば頷けますし確かに対応し易いですが、最初に聞いた時はアレだけの効果を見せた部隊を解体して再編すると言う話に正気を疑いましたよ」
「ではドゼー大佐、小隊のデータ確かに受け取りました。お会いできる時を心待ちにしています」
「此方こそオオクゴ特務中尉」
ホログラムが消えるとリンドウは体を伸ばして気を抜く。そして四人の新任少尉の情報を復習した。数時間ほど経ってポーンと来客を知らせる音が。
「失礼いたします!小隊長4名、中尉殿へ挨拶へ参りました!」
立ち上がってリングを操作し扉を開ける。
「本日よりお世話になります!シシク・レオナ少尉であります!」
金髪のアースウォーカーの女性士官。
「同じくお世話になります。ハウライト・ホワイトライト少尉で有ります」
巨大で磨き抜かれたようなロックブロック。
「同じくお世話になります。テロミス=ウォーカー・ナーティオ・ミレス=アーラ少尉で有ります」
PW、エゾモモンガの様なサイビースト。
「同じくお世話になります。コッキ・テンカクドウジ少尉になります」
アースウォーカーに似ているがゴツい外見。黒い肌に銀の様な髪と巨大な身体、額から天へ伸びる一角。鬼としか言いようのない見た目の宇宙人ホーンウォーカー。
凛々しいのに可愛い系美人、白艶ツヤツヤ雄大涙型石、可愛いエゾモモンガ、ムキムキクールイケメン。それぞれのパッと見の印象だが全員が全員、ゴリゴリ見た目が良いのはリンドウのプロパガンダの為だろう。
ともかく彼等の面倒をリンドウが見る事になる。やる事と言えば前回と同じ訓練の反復で十分、強いて言えば対MA戦闘訓練は増やす予定だ。その予定を頭に浮かべながら。
「第七小隊隊長、いやママルイーター小隊の方が通りが良いかな。オオクゴ・リンドウ中尉です。よろしく」
一先ずリンドウは敬礼を返して部屋のレイアウトとして飾っている時計をチラリと見る。
「取り敢えず飯でもだべよう。適当にマニュアルを作ってるんでメシ食った後に確認して貰って、もし気になる所を聞いてくれれば一先ず答えるから。あと俺のトコに配属された時点で軍から話が来てると思うけど個人的に宣伝の心構えなんかを伝えとくよ」
連合国でMAt。敢えてここは対艦戦闘用大型機械化歩兵装甲の部隊配属が進む中で帝国でも着々と対応策が取られていた。
先ずは帝国の国是ともいえる未開惑星を探索し開拓する開拓船団の大幅増員。そして彼等へ対大型機械化歩兵装甲兵装の配備並びに対対大型機械化歩兵装甲戦闘の教育が始だ。
帝国宰相リシャール=ジルベール・デュプレシはカイゼル髭を整えていた。淡々とした動きで目は涼やかなのに何か気迫が凄い。このご時世リング操作で大概の事が出来るのに手ずから櫛を持っている。
もう鏡代わりのホログラムに映る宰相さえヒョロヒョロ感ゼロだ。少なくとも他の星に出る事が当たり前となった世界では異様な時間をかけて身嗜み……髭を整えた。そして宰相室の豪奢な部屋のアホ長い背凭れで全く趣味じゃない黄金の椅子へ腰掛けて。
「よし」
そう気合を入れる様に言った。
さて、ここで唐突だが帝国の起こりをサラッと、と言うには長いがまぁ要所だけ上げ連ねて話す。
連合国と言うのがアースウォーカーが銀河に勢力を伸ばして以来の政治体系だった。そこに未知との遭遇を経て異星人との過剰な融和を唱える思想が蔓延したのである。その結果としてある時に起きた超新星爆発による居住惑星の消失に対応した新惑星発見の移民計画が延々と進まない事態に陥ったのだ。
ほんで移民待ってた者達が何時までコロニー生活させるんじゃボケーとブチ切れたのが帝国樹立の原初である。何でンな話したかってーとそんな国なので開拓者とか冒険家と言う者は英雄視される傾向が強い。そう理解してほしいから。
「ジョナサン・ガリバー大団長、レミュエル・スウィフト大団長補佐。よくいらしてくださいました」
宰相室に入ってきた二人の人物へヒーローを見る子供の様な目を向けてヒョロイがカイゼル髭の似合う壮年男性リシャール=ジルベール・デュプレシは立ち上がる。
帝国の英雄。
現状では皇帝さえ凌ぐ人気を保持する国直属の探検隊のトップとその補佐官だ。戦力的に言えば大将に相当し主力艦3375艦隊団を率いる。
だが彼等の乗る船の性質は他と全く違う。大多数が中世の戦列艦に相当する砲身艦ではなく昇降船エレベーターボートと言う惑星突入及び脱出用の船と大型MAを積んだ開拓船フロンティアシップと言う船に乗っていた。ワープゲートも物が無い無重力空間を長い時間をかけて進み各星の探査を行う帝国の技術と人材の粋を集めた集団。
正に彼等こそ帝国の全てを背負い銀河を切り開く鋒そのもの。……ほんでまぁ速い話が帝国の危機を未開惑星から資源などを持ち帰り救ってきた者達である。
「宰相殿、お出迎え感謝いたします」
四肢の内で右腕を除く全てが義肢の大男が古傷だらけの顔に笑顔を浮かべて敬礼する。大きな鼻の熊の様な外見と縮れた緑の毛髪、勇猛を絵に描いたような無骨でパワフルな猛々しい外見に反し、非常に穏やかで理知的な気性相応な瞳のジョナサン・ガリバー大団長である。
レミュエル・スウィフト大団長補佐はスラリとした体型で何処か執事然とした老年男性だった。
「さぁさどうか御座りください」
宰相の椅子と机しか無かった室内が一瞬で応接室に変わる。したから盛り出してきたソファに座り事前把握していた二人の好物のラム酒を手ずから用意した。
「おお辱い」
大団長に続いて一礼する補佐。
「いえいえとんでもない」
たった一言の礼に嬉しそうな、至福にして至上の一瞬を噛み締めてから。喉を鳴らして質問を、そう御伺いを立てる様に。
「大団長、御覧頂けましたでしょうか」
「はい宰相殿。結論から申し上げて協力を確約致します。砲身艦がああも容易く大破するというのは現状は由々しき自体でしょう」
「申し訳ありません。個人的には開拓船団の皆様には戦場になど立って貰いたく無いのですが」
「何を仰る」
そう言って大団長は琥珀色のラム酒と丸い氷の入ったグラスを握った。
「私達には誇りがある。それは帝国の為に不屈の意志を持って未開を切り開き未知に触れている自負だ。そしてその誇りは帝国臣民あってこその物と言うのは当然の事」
一区切りラムを一気に呷りダンと空グラスを置いて。
「確かに戦場に出ると言うのは我等にとって未知であり現実問題も多いでしょう。しかし帝国臣民の為とあらばその未知をも開拓して見せましょう」
そう、大真面目に大の大男がクサい台詞を当然の様に吐く。それで嘲弄も冷笑も無く寧ろ業火の様な熱意と全てを思い通りに出来るのでは無いかという錯覚を周囲に齎した。
ジョナサン・ガリバーとはそう言う男だ。
「感謝します大団長。つきましては新型と宇宙空間でのMA操作、それと対MA戦闘についてです」
大団長は力強く頷き。
「難し事は解りません!!レミュエル頼んだぞ!!」
レミュエル・スウィフト大団長補佐がスッと前に。その翌月に帝国首脳部は対MA部隊の設立に着手した。