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こっから全部蛇足

『今回の事は十全な準備と十全な補助を頂いての事です。そもそも関係各位の尽力の結果であり私はその仕上げを任せて頂いたに過ぎません』


『如何でしょう皆さん!これが英雄というものなのでしょうか!さて続いては皆さんお待ちかねの御子そ——」


 ブ、と小さい音。


 リンドウの背後で克明になり出したホログラムが消えた音だ。その操作をしたリンドウは辟易とした顔で溜息を吐く。


「ソファ」


 リンドウが一言。デザインを気にせず白い円筒としか言えないクッションが床から生えてきて落とした腰に沿って背もたれが伸びる。


「あ“〜流石に勘弁してくれぇーーーー!」


 リンドウの心情を端的に言えば度が過ぎるだった。端的に言えばタロス部隊の戦果に軍部は大規模拡充を図ったので有る。宇宙軍においては何処もかしこもウチにもタロス部隊をと殴り合いさえ起きる始末。その為にタロス部隊の大増員の為に喧伝を行い当然の事としてリンドウ達はプロパガンダに利用された。


 特に見た目も良く母星奪還と言う聞こえの良さから大いに活用出来るとの判断から上層部より打診されたリンドウは軍部に世話になった自覚もあって安請け合いしちゃったのだ。それからはあっちこっち行ってはインタビューを受け家族や友人達や部下や上官に冷やかされているまでは良かったが何だかよく分からない輩が近付いてくる始末。代表的なので言えば見たことも聞いたことも無い親族だのが家族にまで話しかけてくるのだから堪らない。


 当然そう言う輩は軍が秒で対応してくれたが正直言えばノイローゼになりそうだった。加えてハナゾノの嫁取りに参加したタロス部隊の者達は全員が昇進している。先ず二十二人の大尉達が少佐となって新たに実験部隊を参考にしたタロス部隊を育成していた。その主力艦25群隊のMAt1500連隊の育成を功績として中佐に昇級する予定だ。


 同時にオオクゴ・ツワブキ少将が率いる225隻戦隊が設立されエドガー・ゲクラン准将がタロス部隊の育成に当たっている。


 少将の率いる225隻戦隊に60機で13500機。率いる兵力が13500人となると惑星軍で言うと少将の兵力、それだと艦長と同じ地位になってしまうのだ。一先ず准将の率いる五群隊7500機を率い、空挺艦隊からブッこ抜いた大佐四人を置いた。


 で、その教育の中核が中尉にされたリンドウ達で有る。実践経験があり先駆者故に当然と言えば当然、だからリンドウは今メディアに顔出しをしながら、部隊教育を行なっているのだ。新任少尉も多い中で高々一年先輩が引っ張らねばならない状況、潰れかけの部活かよと言うツッコミも出そうな無茶クソぶり。


 それだけ効果が認められたと言う事だが。


 そらーまぁだから。


「死ぬぅ……」


 こうなる。


 とは言えデロっとしながらホログラムをポチポチ弄るリンドウ。マジで死にそうなツラで中尉として少尉へのマニュアルを作る。まぁ先駆者の特権に付随する義務っちゃ義務だ。


 尚、空挺艦隊は須く解体の後にタロス部隊へと変貌中。


「面倒クセェ。ゴールドバーグ曹長とか特例で大尉とかになってくれれば良いのに。……マジで三、四階級くらい特進してくんねぇかな」


 さてリンドウを忙しくさせている上層部も相応に忙しかった。一時方位に七人いる上級大将に最も近いと言われるホレーショ・アイアンズ大将は特にそうだろう。何せタロス部隊設立の提言者にして立役者だ。


 ネオクラシック様式の司令室。そこで生身と変わらない様な右手の義手でカップを掴み右の義眼で琥珀が溶けた様な色合いを楽しみながら紅茶の香りを味わい優雅にティーカップを口に付けて傾ける。


 随分と優しい顔つきをした男で階級に不相応な程に若い。それだけの功績を打ち立てたので有るが軍人らしからぬ優しい雰囲気で威圧感を無駄に撒き散らす様なことも無かった。


 芳しい香りと強烈な甘さが温かく。


「うんうん紳士たる者、どんなに忙しくても此の一杯だけは飲まなければね」


「閣下、それ三杯目ですけど」


 淡々とした声に合わせて壁がクリーム色の壁紙と腰あたりから黒檀の壁に変わった。


 声を発したのは非常にツルツルとした青い肌の細身な腕のない宇宙人、肩はツルッとしていて腕は無いが肘から指先までの腕が八つ程浮いている。種族的にアースウォーカー(地球人)に非常に似通っているが激烈に鼻筋が通っていてゴリゴリに糸目だ。それこそ上腕さえ有ればインド神話とか出てきそうな見た目をしている。尚、凄い舌が長くて彼等の言語は巻き舌でレロレロ言ってる様にしか聞こえない。


 ヘクトハンズと呼ばれる宇宙人でアイアンズ大将の副官、公用語翻訳で名をエルモソ=オチョ・フレッチャ中将。


 彼はリングを操作して。


「では上級大将の方々から受けとりました要望書を送っておきます」


 アイアンズ大将がズズーと茶を啜った。


 それも死んだ様な目で。茶を啜ると言うアイアンズ大将が絶対やらない行い。死んだ目を見慣れたエルモソ=オチョ中将がコレはヤバいと感じる代物。


 溜息を一つ漏らして。


「閣下、イチバンガッセン中将より秘密回線を用いの御連絡が御座いますが」


 アイアンズ大将が目を見開いた。紅茶を飲み干し迫真に迫った顔で。


「中将が?一体何事だ。敵に動きか」


「は。明日、猫ちゃんとコッソリ海に行くけど来るか、と。今送った資料に目を通していただけば一日くらいの時間は稼いで見せましょう」


「……ちょっと気張るとしようかな」


 銀河内の十時方位から四時方位。アースウォーカー(地球人)が到達した凡その範囲で有る。だいたい銀河の六割近くであり連合国、共和国、帝国、連邦という四つの国に分かれている。


 ◎共和国・◉連邦国

 O連合国・●帝国

 ◯銀河未開領域

 ◇アースウォーカー母星

 ーーーーーーーーー9ーーーーーーーーー

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 ーーーー◯◯◯◯◯◆◯◯◯◎◎ーーーー

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 ーー◯◯◯◯◯◯◯◆◯◯◉◉◉◎◎ーー

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 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆始

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 ーーーーーOOOO◆OOOOーーーーー

 ーーーーーーーOO◆OOーーーーーーー

 ーーーーーーーーー3ーーーーーーーーー


 帝国宰相府に軍人としては細身の老人が訪れていた。色白な肌ので髭は綺麗に剃っており筋の通った鼻とハッキリした大きな目が印象に残る。


 革張りのソファに座る細身で白髪の老人は御歳283。アースウォーカーの寿命としては限度間近になりつつあり老化減退技術を用いて尚、生きた年月に相応な老人らしい外見だがそれでも若々しいと言う表現の合う元気ジイさんだった。服装は極めて豪奢であるが大量の勲章を胸に付けており胸部などは三段連なってラメラーアーマーの如くだ。


 それも当然で軍歴は250年間近。最近の活躍で言えばビノ星域ナカノニワ星団での大迂回作戦になるだろう。他星団から補給なしに敵後方を突く大胆かつ歳考えろって作戦を成し遂げた名将である。それこそ帝国は彼の為に勲章を作る事もう三回に及ぶ。


 そんな大元帥はアレクサンドル・アファナシエフ大元帥。帝国に三人いる大元帥の一人で不死のアファナシエフ、不敗のアファナシエフと様々な異名を持つ超人。彼は豪奢で広い一室で睨む様に眼前に浮かぶ戦場という空間を切り取って宙に浮かべた様なホログラムを確認していた。


「まぁ矢鱈と宇宙を飛んでおる大型モーターアーマーが鍵じゃろうなぁ。しかし益々もって分からん話じゃ。モーターアーマーの武装など砲身艦以前のミサイル艦よりも低火力なはずじゃろうに」


 考えを整理する為に羅列して浮かび上がったウォッカの瓶に口に付けて一気に煽り瓶を放り投げる。瓶が床に沈んでいく一方でホログラムを拡大して気になった部分を注視した。


「閣下、お待たせしました」


 そうしていると一言と共に壮年の男が入ってきた。帝国宰相リシャール=ジルベール・デュプレシで有る。壮年の外見で涼しげな瞳の落ち着いた雰囲気なヒョロヒョロ男だ。


 銀河の内で大半を占める中庸な連合国に比べれば、排他的と評すべき帝国切ってのハト派である。大元帥は次のウォッカ瓶を握って振りながら。


「おう気にするな。随分と美味い酒を、随分と飲ませて貰ったからのォ。コレで五本目じゃ」


「5リットルですか。好きなだけお飲み下さいと申し上げたい所ですが御身体に触りますよ」


 苦笑いを浮かべていた宰相は疲労混じりの溜息を一つ。


「それで何か気になる事は御座いましたか閣下、やはり敵の新造艦については良く解りませんでした。側面にミサイルでも積んでいるのかと思いましたがそんな事も無いようで。そもそも、あの形状でキングケートス級より利点があるとは考えられません。こうなると大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)が鍵になったと言う話もいよいよ現実味を帯びてきてもう閣下に頼るしかないのです」


「ん、んー。そうじゃのぉ……強いて言えばコレかの」


 そう言って先程の停止拡大したホログラムを見せた。撤退する帝国群隊が持ち帰った映像で大型モーターアーマーが写っている。重要な情報を見せるために絞られた光景ながら宰相は既視感と共に。


トールハンマー(ミョルニルの一撃)にやられた者達の側面を守っていた散兵の映像ですな」


「うむ、一番気になったのはこの大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)の武装じゃ。肩を見てみい」


「槍?なぜ槍が」


「その通りよ。開拓船団の乗せる大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)ならば稀に有る話じゃ。だいたい態々用意せずに木でも引っこ抜いて代用するがの」


「火槍の様な物でしょうか。初期のロケット花火の様な火砲です」


「ミサイルで装甲は破壊出来ん。それに大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)でなくても良かろうよ。人が入っているのが肝要なのかの?」


「確かに既存兵器であれば戦闘ドローンで十分、無人兵器の改造を手間と考えたのでしょうか」


「分からん。儂ゃ戦う事しか出来ん」


「人が必要な攻撃手段を得たと仮定しなければ大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)を使う意味が無い。いや汎用性と費用を考慮すればおかしく無いが、しかし人命と厭戦感情を鑑みれば……想定を重ねても無意味か」


 リシャール=ジルベール・デュプレシは思考を戻して。


「整備用大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)を武装、いや彼等はあくまで整備士だ。一先ず戦艦に大型の戦闘ドローンを置けば対応は出来るでしょうか」


「うむ、アレは惑星上で使う機械化歩兵装甲(モーターアーマー)にさえ破壊される。確かに多少の防御力はあるが、その実は攻撃の出来る補給機じゃからな。当然やらんよりはマシじゃが、うーむ」


 少し考えてから大元帥は。


「この戦いの後は大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)がパタリと存在を消し既存の睨み合いじゃ。此の部隊を増やしておると儂は考えておるが……」


 顔を顰めて。


「彼等を戦なんぞに使いたくないが槍を奪う為に帝国開拓船団を前線に回すか?」


「……それならばいっそ賭けになりますが大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)部隊を作り上げてしまいましょうか。一先ず開拓船団と言う名目で対機械化歩兵装甲(モーターアーマー)を作り、役に立たねば名目通りに使えばいい。効果があるか敵の武器を奪取し解析できれば敵と同じ運用が出来るでしょう」


「そりゃ軍部には有り難くて仕方ない大胆な良策じゃ。帝国開拓船団にも悪い話ではなかろう。ついでに理念が如何と五月蝿い馬鹿供に譲歩してやったとでも言っておけ」


「よし、そうしましょう。大型機械化歩兵装甲(モーターアーマー)ならば用途はいくらでもありますから。ああ、そう大型の物同士の戦闘で重要な事は有りますか?」


「まぁタッパがあるからの。機械化歩兵装甲(モーターアーマー)を纏った兵一人でさえ、やろうと思えば全長6㍍の口径12㌢砲を運用できる。大型ともなれば十倍以上の重量と反動を受け止められような。惑星上でさえな」


「宇宙戦艦でも無ければミサイルの1、2発で倒せます。機械化歩兵装甲(モーターアーマー)に対する火力としては過剰では?」


「いや、狙撃と弾幕の話よ。後は近接様に散弾。基礎武装としてアサルトライフルは居るじゃろ。しかしこんなもん戦って現場の意見を聞いてみんと分からんよ。対空性能は必要じゃが昔の歩兵の情報を集め、それを大規模化して対応するのが無難かの」


「あぁ成る程、肝要なのは対空能力ですか。過去の歩兵を参考にすると言うのも参考になりました。一先ずその形で軍勢を作らせておきます」


「おう、どうせ後手の策じゃ好きにやれ。軍と、儂の事クビにしといて一月でヌクヌク隠居生活ブチ壊しよったバカは儂の方で何とかしとくわ」


「……お願いします」


 こうして帝国でも戦闘用大型MAの製作が決定された。まぁ馬、火薬、飛行機が広がったのと同じノリだろう。

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