故に1+1はバナナ
ビノ星域ナカノニワ星団ハナゾノ星。
コクタン中将の主力艦1125艦隊にツワブキ准将率いる主力艦25群隊が加えられた。
「マジ結果残してくれよマジで。ワシそろそろ死ぬし!!ビックウェーブに乗りたいし孫に会いたいんじゃ!!つーか交代要員連れて来いや中央コノヤロォォォォォ!!!」
と中将から有難い御言葉を頂き早速戦列に加わる。砲艦の並びは基本的に正四方の隊列を組む形だ。座頭鯨のが正方形の壁を作り連なる形の陣で立体陣形を組んでいたのも今は昔の話。
そういう意味でテルシオと言うスペインで生まれた方陣が火力の増加により戦列歩兵と言う横陣に至った状況と酷似していた。
戦闘が起こるのは1パーセク以内。大抵の場合は凡そ三光年を対陣距離として、正四方陣形を、多くの場合は帯状に並べて敵の鯨が作る壁と向き合う。
コクタン中将の率いる艦隊は最大数の1125隻。麾下に四人の少将が配属されている。
准将の率いる9から25隻の群隊と言うのは戦列歩兵に準じれば散兵と言うのが近い扱いだ。まぁ塹壕戦つってる通り蛸壺や散兵壕ってのも正しいが要は少数で敵を小突く役。
即ち准将は対陣時は戦列に加わり交戦時はその自由裁量を用いて戦場を駆け巡り戦列を補佐する艦隊であった。
新造戦艦モビーデックは巨大である。射程に関する砲身は往来の基本艦キングケートス級砲身艦と同等だが全体を見れば一回り大きい作りだ。その巨大さは推進器と防御機構の為でキングケートス級に比べて射撃能力は半分以下であるが高防御力と高機動性を有していた。また縦長の作りは砲身艦同士の交差を容易にする為で、高火力と継戦能力という設計思想の往来の艦とは違う物となる。
新設部隊モビーデック25隻群隊はキングケートス級の形どる宇宙の壁が最端の一つ。ゴットフリート・ケンプファー少将が率いる主力艦225隻戦隊の側面に陣取った。
『ツワブキの小僧ッ!!待ち兼ねたぜ!!』
ガッハッハと豪快に笑うケンプファー少将。
猛将ケンプファーと言えば帝国内でも指折りの突撃狂いホレーショ・アイアンズ大将の麾下で真っ先に名の上がる豪の者だ。目がいくのはFOPSの副反応によって単にオレンジと言うには雷の様に輝き炎の様に揺蕩う髭と髪である。そこに加えて攻勢の苛烈ぶりから彼の攻撃はミョルニルの一撃と称される代物で恰幅の良い大男であった。
趣味は料理で得意料理はアイントプフ。右手の敢えてメカメカしい機械化義手で己の顎髭を撫でて。
『まぁタロスだったか?俺も期待してるクチだが待ちに待った攻勢だ!チンタラしてたら置いてくぞ』
そう発破をかけるケンプファー少将にツワブキは頷き。
「私も雷霆の稲光になって見せましょう」
『奥ゆかしい事だガッハッハ!!』
連合国の鯨壁が前進を始めた。攻撃側は一光年内まで進み射程まで進んで砲撃を始める。
たったそれだけ。
当に塹壕戦がそのまま大規模になっただけの話だ。
「群隊、ヒートフォトン充填開始と同時に全速前進!訓練通り攻撃しながら敵中に潜り込む!!」
「ヒートフォトン充填開始、全速前進!!」
「フィールド展開!充填開始!」
「フィールド展開、了解!!」
「じゅぅーてん、かいしぃー!」
「一光年入ります!!」
「バリア展開!!」
抹香鯨の周りに楕円形のガラスとでも言うべき膜、バリアが出来きそこに敵のヒートレイが降り注ぐ。幾度かの光線を受け少しづつバリアが小さくなっていくが、しかし抹香鯨は止まらず口先から砲撃ヒートレイを放ちながら進む。
「流石の防御力だ。ゲクラン大佐、折角ですので各タロス小隊へ通信を繋ぎましょうか」
「それは有難い」
モビーデック七番艦の格納庫で鉄の巨人達が寝転んでいた。時折、船全体が大きく揺れる中で無重力下故に振動を感じる事もなく兵達が己の愛機MAtペルセウスに入って行く。
全員が迷彩の戦闘服を着ており黒いブーツとツナギにジャケットだ。
MAtペルセウスは十二横隊が五列で並んでおり左右の端に分隊指揮官と副官がおり兵を挟む形である。リンドウは右端の指揮官機に乗り込み艦橋と通信を繋げていた。そこに群隊旗艦から通信が入る。
「第7小隊、旗艦より通信である」
一応それだけ伝えて通信を開けばエドガー・ゲクラン大佐がモニターに写る。
『タロス部隊、待ちに待った初陣だ。何も恐れるな、ただ訓練通りにやれ!!我等はペルセウス、我等こそペルセウス!!ケートスを狩り尽くす者!!』
獣の如き笑みを浮かべて。
『さぁ狩り尽くせ』
リンドウは、いや各小隊が武者震と共に笑みを浮かべた。少しの時を経て七番艦艦橋から連絡が入る。
『艦長ティック=ホーン・DNR中佐からタロス小隊各位へ、敵艦左舷下、これより射出範囲に入る』
艦長の言葉を管制のオペレーターが伝えるのに合わせてMAtペルセウスが左を向き格納庫の門が開いて宇宙空間が視界に広がる。敵との交差のために酷く速度を落とした
各隊員がリンドウも椅子に座り操縦桿を握って。
『カウント10』
『9』
『8』
『7』
『6』
『5』
『4』
『3』
『2』
『1、射出範囲内。健闘を祈る』
ゴッと押し出され椅子に身体が押しつけられ抹香鯨の側面から機関銃で射出されたかの様に十二機が一直線に射出された。
スロットレバーを押せば推進器が唸り一気に加速。操縦桿を押し出し前に倒せば機体がグンと頭を下げて敵艦の頭背が見える。操縦桿を元に戻して直進。
「SCT起動!」
椅子が引っ込み無重力に任せてその場に立てば視界が変わる。空挺降下の要領で敵艦の背中に着地。鉄巨人が鯨の上に立つ。
リンドウの隊長機に続いて巨人達が黒い鯨の背に足をつけた。そこは丁度ヒートレイ射出の根幹たる炉の上。
「ゴールドバーグ曹長、第一分隊半数と第四第五分隊を率いて此処を頼みます!」
『任せときな。皆んな聞いたね!確りやるんだよ!!』
『イエスッマム!』
『了解!!』
ゴールドバーグ曹長の率いる三十機のペルセウスが肩から槍を一つ取って六機ずつに別れて動くのを一瞥もせず。
「第一分隊半数、第2第3分隊は俺と一緒に後部推進器に!」
『あいよ隊長』
『ラジャーっス』
「SCT解除」
出てきた椅子に腰掛けスロットレバーを引いて推進器を唸らせる。その音が一定になれば帝国のキングケートスはTを横に倒した推進器が後部の左右に付いておりその塔の様な上部スラスターがどんどん大きくなった。
帝国キングケートス級砲身艦上部
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー◆ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー◆◆ーーーーーーーーーーー◆
ーー◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ーーーーー◆◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◯◯◯◯◆◆
ー〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓◉◆◆◆ー
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◯◯◯◯◆◆
ーー◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ーーーーー◆◆
ーーーーーー◆◆ーーーーーーーーーーー◆
ーーーーーーー◆ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〓砲身◆推進器◇タンク◉炉◯居住区
「第二分隊は3時方向、第三分隊は9時の推進器を!俺たちは根本を断つ!!」
『3時、オーケー』
『9時行きますっス!』
第二第三分隊が左右に分かれて行く。
「SCT起動!ヘキサグラム共有!!」
リンドウの声に合わせ視界が高くなり目の前に等辺六芒星のホログラムが写る。六つの角に一機ずつ立って槍を握った。
「良いか!!敵推進器は今も稼働中だ!!息を合わせて一撃、即離脱だぞ!!」
部下達から「了解」と返答。
「カウント開始3、2、1、射出!!」
穂先光る槍が鯨の尾鰭に捩じ込まれた。
「離脱する!!SCT起動!!」
素早く椅子に乗りフルスロットル。鯨の背中から母艦のバリアフィールド内に逃れれば敵艦から小さな炸裂が起きていた。そして小隊各員がリンドウの周りに集まって固唾を飲んで敵の砲身艦を眺める。
鳴動した。二つの推進器が熱球を生じて爆発して根本が一歩遅れて誘爆。
「ッシャアアアアアアアアオラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
リンドウのガッツポーズと咆哮に小隊達が歓声を続ける。
『アッハッハッハッハ!!メアリー・ゴールドバーグから母艦ブリッジへ伝達。第七小隊敵キングケートスを大破、航行能力の九割を破壊、此方の損害ゼロだよ!!』
艦橋が湧く。そしてそれは何も七番艦だけの話では無かった。意気揚々と母艦へ帰ろうとした小隊に艦長ティック=ホーン・DNR中佐から通信が入る。
『タロス小隊、敵に数隻の腰抜けが居た!継戦は可能か!!?』
「小隊、槍はあるか!!」
『第一分隊、あるよ!』
『第二分隊問題ねぇです!』
『第三分隊、大丈夫っス』
『第四分隊、余裕だ』
『第五分隊いけます!!』
「艦長、タロス小隊行けます!!」
『分かった!敵は停止しようとしている!そのままも向かってくれ!!』
目を凝らせば撃破した敵艦に向かって二匹目の鯨。前部の鰭をひっくり返して止まろうとしていた。
「了解、小隊!一戦に鯨二匹の栄誉だ!!気張って行くぞ!!」
二匹目の鯨を討ち取り格納庫へ戻った小隊に母艦からの通信が入る。
『こちら旗艦艦長オオクゴ・ツワブキ准将。敵群隊28隻を壊滅させたタロス小隊各員の戦果深甚の至、さてペルセウスの各員は更なる戦果を期待する!!』
一戦にて群隊規模の撃破。フィールドバリアと言う装甲が生まれてからは今回の様な第会戦で漸く見られる被害だった。大損害を受けた敵はミョルニルの一撃を受け切れず壊滅。
塹壕戦や戦列など往来の戦と同じく一箇所穴が開くと崩壊は早いものでヒートレイの十字砲火を受ける艦からバリアが削れて行く。
そうなれば抗う者は無くハナゾノ星を包囲し惑星軍の援軍を送って完全に連合国が手中に収めた。
後にペルセウスがケートスを倒しアンドロメダを娶った事に準えハナゾノ戦線の嫁取り攻勢と呼ばれるタロス舞台の初陣の結末である。