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4/11

あ“〜バナナぁ

 旗艦モビーディックにて軍服を纏い凛と座すオオクゴ・ツワブキ准将と覇気激らせたエドガー・ゲクラン大佐が対面していた。


「仕上がりは上々ですね大佐」


「ええ、才能のある兵士を集めた甲斐がありました。想定より大分早く仕上がりそうだ。少なくとも想定通りの動きは出来る様になっています」


「安定をと言う至極当然な御懸念は如何でしたか大佐。まぁ私も当初は新設部隊に新任士官を入れるのは反対の立場でしたが」


「まぁ変革は革命などと呼ばれる程に急くと碌な事が無いとは思いますが新任士官の配属に関しては寧ろ彼らを侮っていたと悔いております。結果的に炉を狙うが良しという当然といえばその通りな発見を鑑みて経って柔軟な対応が出来て良い事でした」


「それは大佐の現場指導の賜物でしょう。率先して動きながら締めるべき時は締め、平時は誰もが意見を言える空気を作る寛容さは教育者に肝要な事ですから」


「准将にそう言われると些か面映い」


「何の。私は SCT(感覚接続技術)適性が無いので大佐の願い通りに群隊を動かす事しか出来ませんよ」


「ハッハッハそれこそ何を仰る。その群隊機動無くしてMAtの活躍は有りません。やはり上部や下部に出やすい位置取りは重要でしょう」


「それで言えば形状的に言ってケートス級以降は座頭鯨型で背が低い。対してモビーディック級は抹香鯨。敵と砲身部を合わせて交差するだけで良いのですから設計思想は正しかったですね」


「ふぅむ。それにしてもASAL(対艦装備液)アンチ(anti)シップ(ship)アーマメント(armament)リキッド(liquid)か。遂に戦艦の装甲を貫く手段が生まれるとはな」


「全くです」


「……やはり戦艦乗りとしては思うところがありますか?」


「否定はしません。職掌故に砲身艦には思い入れがありますから。しかし敵に先を越されてからでは遅い。何より戦の短期化により私の様に息子の誕生に立ち会えない兵も減るでしょう」


「あぁ、成る程。十数年も張り付くのに比べれば可能性は増えるでしょうな。私としては後、そうですな三ヶ月程の習熟訓練の後に初陣と行きたいところです」


「では一年と少々ですか。随分と早く新部隊が出来上がった。素晴らしい事だ」


「そうだ。そろそろ兵の気晴らしをさせてやりたいのですが」


「そういえば慣らしとはいえ対陣状態か。うんうん、私も相伴に預かりたいし丁度前回から一月だ」


「ですな。ついでに無粋とはいえ私も兵を揉むとしましょうか」


 MAt部隊の初陣が決まった同時刻。リンドウのMAt第七小隊は宇宙空間でスペースボールをやっていた。宇宙空間で大型MAを使った何でもありのバスケっぽいスポーツである。競技人口は費用的問題で比較的に少ないがその迫力から人気のスポーツだ。


 推進器を轟々と鳴らして群青の鉄巨人が宇宙で回転する。時折四肢を伸ばして直角とも錯覚する様な変態起動をかましアサルトライフルの弾丸が描く鞭を避けて進んでいく。目指す先にはダーツの的の模様がペイントされた穴ぼこの戦艦装甲だ。


 赤い機体が前を塞いだ。銃口が向くに合わせて下降して過ぎ去る。装甲板が目の前に。


 鉄巨人が一瞬、身を固定させ推進力に任せて装甲板へ向かって、いや落ちていく。複数の赤い機体が追ってくるが遅い。落下速度を維持して肩から槍を取り両手で握りしめ的のド真ん中に突き刺した。


 そして槍を握った空気椅子の様なポーズから一気に足を伸ばして離れ推進器を噴かす。槍の周りから染みの様に赤く光る溶液が装甲を伝って広がり腐食させていく。


 そして装甲板が炸裂した。


「ウォッシャオルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!明日はアイスクリーム食べ放題じゃコラァアアアアアアアア!!!」


 嗜好品チケット。速い話がエネルギー補給を目的とした配給を除いて兵の士気向上を考えて日に三度支給される物だ。宇宙戦艦は万一の状況を考え大量の食糧を積んでいる。その中には当然だが嗜好品と言うものも含まれていた。


 そんなチケットをMAt同士での戦闘を見据えた操縦訓練のついでに、ゲクラン大佐が上に掛け合って勝者の賞品としたのである。


『ッシャウチの小隊長マジ最強!!』

『だーい7!だーい7!』

『へへこりゃ度数の濃い酒でも飲むかな』

『にしても、よくあんな機動できるぜ……』

『ハッハもう宇宙空間じゃ敵わないね!!』


 ホクホク顔のリンドウの機体に通信が入る。第23小隊長ルベライト・エレクトリカ少尉からだ。通信を承認すれば赤髪赤目の美しい女性型アンドロイドが画面に写る。


 意思持つ宝玉生命体コア・プシュケー。アンドロイドの義体を身体として生活する種族である。人類と出会う前は視覚や味覚が無く義体を手に入れるまでは、テレパシーと浮遊しか出来なかった種族で娯楽を非常に好む。また人類に出会う前からの習慣で極めてお喋り好きが多い。


 まぁそんなノリの種族な訳だが。


『覚えとけリンドウ!!せっかくの味覚パーツのアップデートしたのに!!』


 可憐にして愛嬌のある合成とは思えない声で一気啖呵、目を吊り上げて言う様は娯楽中毒である。いや娯楽好きは良いけどテンションどうしたって勢いだ。


「いや顔こわ。ウッセ、ベーだ。人の善意無視するからだバーカバーカ」


『ぐぬぬぬぬぅ〜〜ッ。私のチケットがぁ』


 エレクトリカ少尉は試合の前に参加賞のチケットを賭けようと提案したのである。それに対しリンドウは種族的にガチバトルを楽しみたいのだと理解しつつも、負けた場合を考えてマジで止めとけと返したのだが色々と言われてマジでボコった。バカとかアホくらいは良いけど割と愛着の出てきた部隊カラーを逃げるんならショッキングピンク一色にしろとか言われたらもうマジよ。


 その仕返しとしてリンドウは敢えて鼻の穴が見えるくらいに上を向いてヘラヘラ笑みを浮かべ孤月のようにした目で見下ろし。


「ゥアイスクリームすぃぬふぉど食ったろ」


『ムガアアアアアアアアアアアアアア!!』


 その結果が現状である。赤髪赤目のアンドロイドがバタバタ暴るっていう。いや戯れ合いっちゃそうだけど全力で煽られたら煽り返す様は微笑ましくもガキみてぇだ。


 コイツら本当に軍人?


「まぁ少尉。もし優勝できたら1枚くらい譲ってやるさ」


『グッ、ヌ、リンドウ貴様!!部下の手前無理だって知ってんだろチクショォオ!!!』


「へっへっへ、ザマァー!バーカバーカ!」


 この後リンドウはカウダにボコられた。かのチンチラは可愛くて強いのだ。当然その日の夕食でドライフルーツ山の様に食ってた。まぁバケツプリン食ってるのとかバケツ餡子食ってるのとかバケツに入った大量のサバ食ってるのとかいたけど。


 ほんで自身の小隊を率いて文句無しの優勝ブチかましたゲクラン大佐に至っては林檎酒(シードル)飲んでた。樽で。


 銀河連合国所属惑星マルレギナ星域と隣接するビノ星域。ここは対帝国方面の最前線である。主導権は連合国にあるがワープゲートの取った取られたを繰り返し、それが停滞して十年もの月日が流れている戦場だ。


 その中でビノ星域ナカノニワ星団はリンドウの故郷ハナゾノ星を含んでいた。


 ナカノニワ星団

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 ーーーーーー◎ーーーーーーーーーーーーー

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 ーー◎ーーーーーー◯ーーーーーーーーーー

 ーーーーー●AーーーBーーーー◎ーーーー

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 ◯星域港湾惑星

 ◎連合国惑星軍駐屯惑星

 ◉帝国惑星軍駐屯惑星

 ●惑星軍交戦惑星軍

 戦場

 A惑星ハナゾノ

 イチバンガッセン・コクタン中将

 B惑星ビノ

 ホレーショ・アイアンズ大将

 C惑星エンリン

 ダイアスポア・ラスター中将

 D惑星ガーデンレールロード

 サム・ワン・ウェイジェン中将


 コクタン艦隊旗艦7㌖キングケートス級砲身艦オオツナミ。


「あ“〜もうワシ200なっちゃうけど?孫とか曾孫に会いたいんじゃけどマジで!!」


 アロハシャツ着た褐色グラサン髭ジジイが戦艦の司令室でブルーハワイ片手にキレてた。場所はいわゆる艦橋なのだが壁は景色の良く見える白塗りの豪邸の様で美しい海さえ見える。宇宙空間を写したモニターと軍服の兵士達に各種操作系が無ければ南国と錯覚出来る光景だ。


「ウッセージジイテメー!!副艦長と交代したばっかだろコンニャロー!!声デケェからマジで!!


 ノースリーブ軍服の上だけを着た猫がブチキレた。猫のサイビーストで三毛猫っぽい。


「あ!ダァーメなんだーダメなんだー。ワシ上官なのにそんな口きいちゃって」


「ウッセーよ!さっきまで御機嫌にサーフィンしてたんだろーがジジー!!」


「VRMMO飽きたー。惑星のビックウェーブに乗りたいんじゃって」


「ウルセェー!!俺だって新鮮なモン食いたいわ!!釣り直後の魚食いたいわ!!」


 他の船員がまただよって空気でジジイとネコのやり取りを聞き流している。てか他の船員も割とラフな格好でモニターや計器類から目は離さないが菓子を摘んだりしてた。そんな艦橋で水球の中で海藻食ってた人魚(男)っぽいのがモニターを睨み水球を消失させ宙に浮いた様な状態で。


「パーセク内、敵艦反応有り!」


 司令室中央に浮かぶ自艦を中心に1パーセク凡そ三光年の範囲を映すホログラム。その端から正方形に並んだ座頭鯨の群れが続々と現れる。


「全艦に通達ッ、攻撃の可能性が高い!フィールド展開、軸合わせ陣形このまま!!」


 反射的と評すべき速さで号令をかけるコクタン中将。リングを操作して服装を軍服に変えながら大型モニターを睨む。通信士が即座に応え伝達し壁が艦橋らしく外部を映し出すと観測士が。


「敵前進、一光年内入ります!!」


 一光年、凡そ九兆と五千億㌖。砲身艦の前進だけを念頭に置いた最高時速であり交戦確定範囲内。コクタン中将はすかさず。


「ヒートフォトン充填開始!全艦最大強度バリア展開!!敵射撃の後に全速前進!!」


「充填開始、了解!」


「全艦に告ぐ。ヒートフォトン充填開始、全艦最大強度バリア展開、敵が現れ射撃の後に全速砲撃前進」


「推進器良ぉーしッ!!」


 確認の声。中将は続けて。


「標準合わせ!!」


「標準合わせ!!」


 攻撃側が不利と言うのは砲身艦の戦いでは常識だ。その上で攻めてきた敵に強行突破の可能性を視野に入れ考える。


「敵光速移動停止、距離一億四千万!!」


「フィールドバリア最大!!」


「フィールドバリア最大!!」


 距離減衰があるが7㌖級砲身艦の主攻撃であるヒートレイは最大射程で7億㌖。有効射程は1億と四千万㌖。


 同時に窓の様に外をモニターが幾千の輝きを写す。そしてフィールドバリアをほぼ削る事なく受け流される。コクタン中将は片眉を上げてから。


「全速全身!!」


「全速前しーーーーーんッ!!」


「ヒートフォトン充填一杯、可能維持期間10分!」


 敵に近づいて行く。座頭鯨のシルエットが砲身艦だと明確に判断できる距離になって。


「ヒートレイ発射!!!」


 コクタン中将の号令に合わせて連合国の座頭鯨の群れが帝国の座頭鯨の群れに光線を浴びせた。数度撃ち合い交差さえせず遁走する敵に追撃をかける事も出来ず増して追いかける事もなく連合国側が少し前進。今の星さえ滅ぼせよう一斉射で帝国砲身艦八隻が中破し三隻が大破した。


 尚、連合国は主力艦1125艦隊で帝国も凡そ同数の戦場だ。


 陣を張り直した環境では観測士がやる気の無い顔で。


「測定の結果三隻大破、加えて少なくとも五隻は中破させましたね。次の勲章も間近ですよ。あーあ」


「勲章ぉ〜?正直ジャラジャラして鬱陶しいし良いよそんなん」


「じゃあ勲章は断っときましょうか?」


「勲章は良いから10年くらい休暇くれっつっといてくれんか」


「了解」


 通信士の淡々とした返事を聞いてコクタン中将はブルーハワイを飲み干し。


「はぁ〜戦争終わんねぇかな!マジで!!」


「ウッセージジー......でも同感だ」

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