つーか先ず光年の距離がエグいって
マラティア星域軍事学校星団第1惑星の寮区画では銘々の学生達が笑顔を浮かべて士官学校の食堂で屯していた。皆が平時ならば有り得ない程に三三五五に散って学友達と笑みを浮かべている。軍人の卵たる彼等は数年間の訓練と教育を耐え抜き今まさに羽化したところなのだ。
そんな彼等の見た目は多彩を極め髪や目の色は勿論だが肌の色の差異など鼻で笑うってしまう光景だった。それこそ全てとは言わないまでも様々な知的生命体の見本市とかしている。それらが連帯感を持って卒業の喜びの余韻に浸りはしゃいでいた。
服は人型の元が基本となっており、人型の者は詰襟の背広にストラップとサムブラウンベルトを付け、その上からインバネスコートを着ていた。人型と言っても腕が繋がっておらず肘から先が浮いてるとか、足が無数の触手だとか、尻尾や羽根が生えてたりするが。同じ組織の者であると一目でわかる。
彼等が軍人の卵らしからぬ騒ぎようは、辛い生活を送り確かな成長をし、そして戦場へと向かう彼等への細やかな配慮だ。その気遣いに甘えてリンドウも特に仲の良い者達と顔を合わせ談笑していた。
「俺は故郷に帰って惑星軍に入る訳だがお前達は何処に行くんだ?」
風穴の様な音を響かせながら岩が話す。一応は人型だが端的に言えば3㍍程の大きさの黒曜石の塊である。ゴツゴツした逆雫型に近いの岩を中心に、大岩が四肢のように繋がっていて短く太い足と、長くて太い腕に岩と言うか石の指がある。中央の逆雫型の球体部には縦に五つの穴が空いており、その五つの穴の上から二番目の穴は涙型の最も幅の大きな場所で、その穴を一回り大きな丸い石黄が挟んでいた。
二つの石黄目で穴からピューピュー鳴ってるのが声。その発声器官の穴を避ける様なスリットの入った逆雫型の目から下部分を、白で覆うプロテクティブリングで意志を翻訳されている。因みに涙型の突端は目や口とは逆の方向に曲がっており穴が空いていた。
彼等は自分の身と近い質の岩石を体の一部に出来る岩石生命体。ロックブロックと呼ばれる宇宙人でリンドウの友たるこの個体の名前は公用語翻訳でオブシディアン・ピッチブラック。
「そういや連携士官候補生か。ブロックロックは母星がマジの母星だもんな。俺は宇宙軍だ」
リンドウが守秘義務の為に端的に答える。
「オブシディアンは故郷か。となるとなかなか会えなくなるな。俺はリンドウと同じで宇宙軍人だ。中央の遊撃艦隊に配属される予定だぜ」
ルスラン・スレイマンがそう言う。日に焼けた褐色で鼻筋の通った青年だ。甘いマスクという表現がこれ程までに似合う男もそうはいないだろう。
「まぁそもそも軍に入ったらなかなか会えんだろ。言っても俺も中央だから偶には合えるけど。ちなみに兵站管理部門に配属しろってさ」
そう言ったのは人間から腕と首から上をなくして触手がやたら長く可愛さを無くしたメンダコを引っ付けた様な宇宙人が言った。八本の足下まで伸びる触手の間には皮膜があり、更に長い前部の長い触手の下には思いっきり口があり歯もあって喋ってる。顔や手の皮膚色は白っぽくて水っぽい。
マヲヅキ星人のフックエノロノロだ。
「庶務が得意だものね君は。計算は早いし触手はあるし文章は端的で読みやすい。エリートたる僕も良い選択だと思うよ」
ハッキリと何処か愛らしい鳴き声。リンドウの腰あたりから発せられた念話。全員の視線が立ってるデッッッけぇチンチラに向けられる。意思念波の発生源1㍍程の大きさ意外には強いて言えば凄く毛艶のいいモッフモフのチンチラとしか言えない知的生命体。
可愛い。
ノースリーブ軍服の上だけを着たチンチラは注目されて照れ顔をクシクシした。
可愛い。
サイビーストと呼ばれる宇宙人で人類の故郷の小動物に酷似しているが後ろ足で立った状態で生活する。人類が初めて遭遇したサイキック能力を持った宇宙人で人類がサイキック能力を得る事が出来、また音に依らないスムーズな意思伝達を得ることの出来た言わば恩宇宙人。
有難い。
彼等の故郷は一つの惑星に交配出来ない多数の知的生命体が存在して他にも猫や狐に狸と兎、クワッカワラビー、エゾモモンガ、フェネックギツネ、ハリネズミ、カヤネズミっぽいの等がモコモコしてるパッと見はモフモフパラダイスなアニマルプラネットだった。
……まぁちょっとデカいけど。
兎角、リンドウの友このチンチラっぽいのは公用語翻訳でチンチラウォーカー。CW・オプティマス=トレス・ノルビス=カウダという。
「尾っぽちゃん干し葡萄食う?」
そう言ってポケットから干し葡萄の入ったパックを出すリンドウ。
「食べる!」
念力でリンドウの手渡したスティックを念力で受け取りプルーンを口に放り込んで機嫌良く鳴くカウダをリンドウは撫でる。ついでに手を熊手の様にして毛を掬ってやれば耳と尾をパタパタさせた。
「かぁーいいかぁーいい」
「干し葡萄に毛繕いフフフフ……」
「俺も撫でたい」
岩とタコがそんな光景にやれやれと。
「アースウォーカーは本当にサイビーストが好きだな。俺達がコア・プシュケーさん達に魅かれるみたいなモンなんだろうけど呆れるぞ」
「大型獣が小動物を愛し岩がが水晶に焦がれて俺達が魚を可愛がるか。まぁそれで念話なんてモノを生み出したんだから感謝しとけって」
「それはまぁ確かにな。さてエリートのカウダはどこ所属だ?俺達も希望は出せたが十以内と聞くと希望通りって聞くぜ。やっぱり中央参謀本部か」
「僕は最前線勤務、それも激戦地配属を希望したよ。どれほど役に立てるかは分からないけどね。ま、エリートだから」
皆がギョッとした。
「え!?ダメダメダメ!!お前、卒論で激戦区間におけるガス惑星の基地化による宇宙空間の奇襲と補給でお偉いさんに目ェ掛けられてんだろ?中央司令室とかの参謀部とかで良いじゃん!!」
「リンドウ。そんなのは中央の本当に頭の良い人達に任せれば良いんだ。僕はどれ程の事が出来るかは分からなくても、それでも前線で戦う事こそ最も自分の能力を活かせると確信しているよ。自己分析は得意なんだ、何せエリートだからね」
そう言って干し葡萄を口に放り込んでまた随分と幸せそうな顔をするカウダ。だがリンドウは毛繕いを続けながら自身のそれがただの我儘と知り恩人に対する
「エリートだろ。無茶しないでくれや」
「エリートだからさ。僕は星の中の1%の軍人という職を志した者達の中から才能ある者として認められ、士官として育てられたこの星の今期の上位十人なんだ。エリートである事に変わりも無ければそれを否定してはいけない。そして、これは僕の信条だけど少なくとも軍で一定の地位を得る事が確約されたエリートたる僕は出来る限り多くの国民を護らなければいけない責務が有る。少なくとも君の様に母星が戦場になってしまう様な事は微力ながら防ぎたいのさ」
「それこそ後方で真っ当な作戦を考えてくれって。お前みたいに頭の出来のいい奴が前線志願すんのは損失だぜ」
「はっはっはエリートだからね。書類仕事なんて不得意な事から逃げて我を通す事にしよう。個々の適性というやつだよ」
気の済むまで友と語らったリンドウは学友達と長い別れを覚悟した挨拶を終えてポータルコロニーへ行く。行くと言っても寮区内にある転移室に入り次の瞬間には惑星の周りを回る人とモノを大量に運ぶ宇宙船が接続された衛星だ。その証拠に扉の先では重力が非常に人は歩いているが、その奥の欄干の先では大量のコンテナが浮いている。
大抵は星一つで生活が安定しているが、周辺ガス惑星から燃料を得たり、無人岩石型惑星から鉱石を得たりと、採掘場の様な利用をされていた。だがここの場合は主に軍学校に関した主に人を運ぶ為の港だ。
「現地発、コーヴェルアルガ行き」
リングに指を当てて言えホログラムが目の前に。それに沿って卒業おめでとうの横断幕やら銀河連合の旗やらで装飾された港内を進み旅客用コンテナに乗り込む。見間違えようのないデケぇチンチラがいた。
「まさか健闘を祈るって言った後にまた会うとはね」
「すげぇ気不味いなウン」
そんな事を言い合いつつも共に軍学校を卒業した友である互いに気密には触れない様に世間話を始めた。
「帝国はともかく教国の二派がまた内戦だってよ。それも有難い事に千越えの艦隊規模だって。まぁウチも反体制派のアホがいるから笑えねぇけど」
「惑星一つ取ることも出来ない反体制派か、何処も変わらないよねぇ。そういう意味じゃあ。籠ると視点が狭くなるのかな」
「今時流行んねぇのにしぶといよな。占領できたとしてたかが星一つで一体何が出来るんだか。算数がわりゃ判別出来る話だろ、初等教育カプセルで習う話だぜ?」
「また極端な。でも正鵠を射るって言うんだろうね」
幾つもの大型転移門を抜けて。
「アレ?」
「ん?」
「……リンドウまだ降りないの?」
「そういやお前こそ激戦区は?それこそ戦争エグいって有名な中一区とかに行くんなら乗る船は別だよな……」
「激戦区に配属はして貰えるんだけど。まぁ君と任地が近くても悪い事じゃないし」
「それはそう。干し桃あんぞ?」
「ほっ!」
銀河連合国所属惑星マルレギナ星域港湾惑星ガーディアンポート。宇宙軍兵の港と言う通り一時期銀河の未開地域探索の前線だった星である。今では星域一つを駐屯地と訓練施設にした宇宙空間の中心だ。
「本日付で新設連隊に配属になりましたCW・オプティマス=トレス・ノルビス=カウダ少尉であります!」
「同じくオオクゴ・リンドウ少尉であります!」
「ルベライト・エレクトリカ少尉であります!」
若い新任士官のチンチラ、野郎、アンドロイド義体に入った水晶球。彼等の前に彫像の如く立つ男が若人達の自己紹介が終わると笑みを浮かべた。
「新設連隊編成官のエドガー・ゲクラン大佐だ」
身の丈と屈強な体躯に違わぬ雄々しい声。顔はフランケンシュタインの様で御世辞にも整ったとは言えないが人懐っこい笑みを浮かべており嫌悪は無い。逞しさと実直さが滲み出る雰囲気を持つオヤジでフランケンシュタインパーと尊称される元空挺艦隊に所属していた猛者だ。
「貴官達にはモーターアーマータロス。略してMAtに乗り敵砲身艦に移乗攻撃を行うタロス部隊に所属して貰う。戦闘訓練は当然として空挺技術や砲身艦の整備を踏まえ宇宙空間での戦艦の作成まで行って貰うつもりだ。これはタロス部隊の拡充を見据えた処置である。各員健闘を祈る!」
声を揃えて新任士官達が敬礼した。大佐は満足そうに頷くと退出。早速、全員が部隊分けされ訓練を実施する事になった。
リンドウは小隊長として60人を指揮する。
第1分隊が少尉、曹長、兵十名。
第2分隊が軍曹、伍長、兵十名。
第3分隊が軍曹、伍長、兵十名。
第4分隊が軍曹、伍長、兵十名。
第5分隊が軍曹、伍長、兵十名。
だいたいこんなノリで。リンドウは曹長を待つ間にホログラムを眺めて要項を確認した。
コーラを流し込んで先ず見たのは自分達の乗る機体だった。モーターアーマータロスペルセウススリー。略してMAtペルセウス3。その指でホログラムをスマホの様にスライドすれば装甲の下が写される。
頭部には脳のようにも見えるポーンアンテナと二つのカメラに環境測定機と排気口。胸部に操縦室とセンショリーコネクションテクノロジーの本体。背部に推進器と腹部にタンクが付いている絵。
要は主要部は人と同じで胴と頭に集中している。
次のページは武装だった。同時に敵の対応の可能性が幾つか載せてある。短期的にはミサイルの増設やAIドローン、中期的には同じ様なMAの用意と言った例だ。
「現代戦は宇宙戦艦以外の装甲ゴミだからなぁ……。それでこの槍があのイカれた装甲を貫くって対艦装備液アンチシップアーマメントリキッドを塗った武器か」
武装の確認を終えると訓練過程を見る。
「空挺訓練と飛行機操縦、地上でMAtペルセウスの慣らし運転。そっから宇宙での操作変更とSCT操縦訓練な。ここは時間食いそうだな。戦闘は兵士なら何とかなるとして、あとは宇宙空間での戦艦組み立てか」
「熱心だね坊や!!!!!」
炸裂する濁声。扉は自動で気を抜いていたのでビックゥッと。
「声デカ……変わりませんね軍曹」
苦笑いを浮かべて椅子を回し振り返れば灰色迷彩の飛行服を着た白い歯を見せる鉄黒のアフロな黒人オバサン。コレでもかと白い歯に対して肌は薄ら赤みがかった黒茶で大きく開いた大きな口が特徴的だ。山の様な形に鉄黒色アフロと瞳は超能力開花手術FOPSの効果の有無を確認出来ない色合いだった。
リンドウは何処かニヒルに悪戯を成功させた表情のオバチャンの握手に応え。
「いや聞きましたよ曹長になったって。おめでとうございますってのもおかしいか、漸く昇進する気になったんですね」
「アッハッハッハッハ!!アンタは随分と変わったね。果敢さに加えて冷静さも増してる良い顔だ。あの時みたいに頼りにさせて貰うよ少尉殿」
そう言ってバスと握った手と逆のて二の腕を叩かれた。
「こっちこそ地獄の聖女ヘルホーリークイーンに教導頂けるとは光栄です」
「フッフッフ!アンタもついでに確りと扱いてやるさ」
「ガチ怖ぇー・・・」
「ハッハッハ、さぁ仕事をしちまおう。まぁアドリブで大丈夫だろうけどね」
さて新任少尉と言うのは一般的に統率する部隊内での立場は弱い状態で始まる。それは部活で入った一年生が上級生を抑えて部長をやる様なもので、仕方ないと言えばその通りな事だった。だからこそ兵の中で人望と能力ある補佐訳が付くのだ。
まぁリンドウに関しては随分と恵まれた状況であるが。さて打ち合わせの後に屋外に出て総勢58名の兵士を前にリンドウはゴールドバーグ曹長に横へ控えてもらい海軍式の敬礼をして。
「此の小隊長を任されたオオクゴ・リンドウ少尉です。戦歴は一年程ですが新部隊設立に際して尽力する積もりですので宜しくお願いします」
リンドウと同じくらいの歳の者が四割、六割はリンドウより年上である。ただ一分隊が空気から何から上官に対するべき見本という敬礼と返答を返した。
軍のルールを分かっていながら如何しても自分の子供くらいの者が上司となる事に微妙な心地だった兵や同年代たるが故に認め難かった者が少々の驚きを交えた空気を晒す。
ゴールドバーグ曹長がそんな兵士の顔を記憶してから軍靴を鳴らし一歩前に。
「良いかいニュービー共!!私は曹長メアリー・ゴールドバーグだよ!!これから私達は新しい常識に挑戦する年も階級も関係無いニュービー仲間だ!!」
猛獣の様な笑みで。
「まぁ、でも階級は忘れないこった」
そう言って一歩下がった。そして一息、リンドウが士官用リングを操作してホログラムを表示させ。
「今日は肩慣らし。レクリエーションみたいなもので脱出艇操作と空挺訓練の復習だ。空挺部隊出身は飽きる程にやっただろうがだからこそ息抜きがてら、な」
そこからオーロラと並んだ飛行船にワープした。若い兵士が戸惑いがちに壮年に見える軍人へ話しかける。
「あの兵長、此の乗り物って?」
「いやコレは空挺訓練の飛行船だけど高さおかしくね?」
外を見た兵士の一人が丸い窓の外を指差し。
「おいアレ!オーロラ横に見えんぞ!?」
「高度100キロってオイ。ほぼ宇宙じゃねぇか。こっから生身で飛び降りるのかよ」
彼等は歩兵用のMAも着ずにパラシュートだけを背負った状態だ。リンドウはスタスタと歩いて行きカーゴの扉を開ける。ゴと外の空気が入ってくる中で振り返り。
「じゃあ一回降下したら昼食の後で飛行機の操縦をして貰うんでサッサっと行きましょうか」
そう言ってピョンと飛び降りた。
「いくぞオマエ等」
銀髪の軍曹の一人が淡々と言って兵達が「えーい」と返す。
「えぇ……」
若い兵士はドン引きしていた。
「ほらサッサと行きな!!」
ゴールドバーグ曹長が号令を出す。それも蹴り飛ばさんばかりの勢いで。兵達は慌てて飛び降り五時間以内で地上に降りた。
まぁ新部隊を作るべく集められた精兵故にメシは確り食ったが。その後に娯楽用品である飛行機の操縦、コレに関してはガチの遊びである。
そして少し疲労感を漂わせた兵の中から錆び付いた銀髪のオッサンが手をあげて。
「その、少尉殿。良いですかい?」
「ヴォルフガング軍曹、何でしょう」
「俺達のタロスの配属は如何なるんで?」
「明日受領の予定です。ついでに明日の予定は地上で慣らし運転の後に戦艦の組立を行います。リングにメール送っておきますね」
「あぁコイツはどうも」




