......ロボット書くのこんな半端なトコで満足してもうた
群青の部隊が格納庫の中に並んでいた。リンドウは乗機コックピットで大きくた溜息を漏らす。戦後の状況確認の為に一先ずメアリー・ゴールドバーグ曹長、昇進して准尉とヴォルフガング・アイヒホルン軍曹、昇進して曹長と通信をつなげていた。
「画像、見て下さいよ。至近距離つっても戦艦の盾がベッコベコですよコレ」
『1㍉厚装甲にしちゃあ心強い。十分だよ』
元曹長閣下が苦笑いを浮かべて言う。
「まぁそれを言われるとグウの音も出ませんけど。あのレールガンは覚えありますか?」
『帝国の狙撃用レールガンさ。ただし随分とデカい代物になってるけど。ありゃ宇宙空間で使った方が威力は出るだろうね』
「他の小隊も無事だと良いけど……」
『どうだろうね。まぁ上の命令でみんな盾を持ったから被害は少ないよ。それより私が敵ならあのレールガンをもうちょい大型化すると思うんだけど?』
『それより俺なら盾を真似ますぜ。そうなるとASALの近接戦が必要になる』
今まで黙ってたヴォルフガング曹長の言葉にリンドウと元曹長閣下が溜息を漏らした。
「ですよねぇー。ドゼー大佐に重要項として伝えておきます。て言うか初めてのMA同士の戦いで重要じゃ無い情報の方が少ないですよ全く。どうやって纏めるかな……」
ホログラムをポチりながらリンドウがガチめに愚痴る。曲がりなりにも尉官なのでやる事多いのだ。
指揮官として作戦の把握、兵士の活躍評価なんてのは当然。指揮下部隊の兵装の補充修復の申請、飲食云々の申請は何より重要だし、何よりまだ士官学校卒業したばっか。
単純にまだ仕事に慣れきってない。しかもリンドウの場合だと少尉の補佐や、宣伝って仕事もあってマジ最低限の仕事しか出来てないのだ。
「ん?」
操作していたホログラムに通知がくる。
「あーあー此方オオクゴ中尉。戦闘終了、もう一踏ん張り味方の救出と掃除すんぞー」
第7小隊ママルイーターは船外に出て敵味方のMAtの回収、砲身艦を漏洩する為に連結作業を始めた。その後は敵捕虜の移送や鹵獲品を収集し、小破した味方艦艇の修復を手伝い再編成の後に次の戦地へまで休息となる。
リンドウはドゼー大佐に報告書の提出を行い敵の狙撃電磁砲の利用を提言、大艦巨砲主義や戦車の大型化を例に上層部へ対応を考えて欲しいと願い出た。
そしてボケーと牛丼を食っていると全体通信が。
『此方、戦隊司令官オオクゴ・ツワブキ少将より各員へ通達、本戦隊はこれより帝国駐屯惑星トラフへ向かう。ダイアスポア・ラスター中将より敵包囲に送れるだけ送ってくれと伝達があった』
「中尉、これどういう事です?」
一回り下の年代の二等兵が聞いてきた。ロックブッロクだから空洞音みてーな、しかし何処か高揚した声と共に。
「うーん……。ラスター中将の戦域は近いけど敵包囲の為に急ぐってのがよく分からないなぁ。砲身艦の戦いなんだから敵が戦わずに逃走したなんて訳でも無いだろうし。准尉はどう思います?」
ハンバーガー食ってたゴールドバーグ准尉は兵士達を見ながら、スプラ◯トをズゴゴゴと啜ってから。
「案外、そうかも知れないね。あそこは戦線の動きが速いから。それより中尉は士官食堂でメシを食いなよ。模範を示しな模範を」
「幹部食堂のアイスクリームマシーン故障しちゃったんですもん。ここで食わないとチケットの期限が切れちゃうんですよ」
「そりゃ……仕方ないね、うん。でもあんまり士官食堂から出るんじゃないよ。坊やが如何こうじゃなくて兵が気を使うから」
「イエスマム」
正に駄弁りながら飯を食い一休みして戦線に接近したとの知らせを受けて乗機に乗り込んだ。
『中尉、それ持って行くんですか?』
さっきの二等兵が聞いてくる。程よい戦意が口を軽くしている様だった。
「んぁ?うん、わりかし便利だったからガトリング。残弾は五百発も無いけど」
壁に立てかけられた50㌢口径ロングガトリングガンの弾帯は200㍍ほどでクソ邪魔とは言え装填数400発だ。比べて基本兵装のC&G25㌢アサルトライフルはガトリングガンよりは取り回しが良いものの弾倉30発で替えるのが絶妙に怠かった。あとガトリングガンは有効射程10㌖くらいでアサルトライフルは有効射程5㌖で弾幕張れるからメッチャ良い。
『此方モビーディック級七番艦ママルイーター艦長ティック=ホーン・DNR大佐だ。リンドウ中尉、敵を捕捉したのだが敵の退却が早すぎてママルイーターが最初に接敵する事になる。相談したい!』
「えーっと。たしか砲身艦の教本通りだと行進射撃では?」
『そうなのだが近すぎるんだ。タロスの機動力でどうにかなるか聞きたい。予測点が外れた所為で追撃が出来るのは此の艦くらいだろう。足止めするにも高速航行で砲身艦で敵の前に出るのは自殺行為だからな』
「状況からして敵タロスの迎撃の程度によります。しかしギリギリまで近付いて頂ければ最低でも一隻は確実に落として見せますが」
『十二分だ。先陣ママルイーターより旗艦へ伝達!更新射撃の後にタロス部隊を発進させる!』
外を写すモニターに白雲と赤土と青海の岩石惑星トラフが写り、端から敵艦艇がバラバラと逃走していた。先頭集団と後続に分かれており綺麗な三角錐を倒した形だ。
敗走にしても妙に感じる。砲身艦の陣形が崩れる事は稀だが、其れでも普通は敗れた布の縁の一点を摘み上げた様な形になるのだ。
それが凡そ正三角錐の形。
「艦長、敵の逃げ方が妙です。無理してでもあの中央先頭を叩きますか?」
『司令官の可能性は高いが、しかしな……出来るのか?』
「生かす機会が有りませんでしたが敵艦と距離があった際の突入訓練はしています。流石に鯨壁に突っ込むのは難しいですがハナゾノで腰抜けを喰らったのと変わり有りません。それより艦艇のレーダーに私達は如何写るか教えて頂けますか」
複眼に困惑を載せて一瞬の逡巡。しかし即座に察して。
『点状だ。惑星付近なら隕石か何かの様にしか見えない。戦果著しい中尉の判断を尊重しよう。聞いたな諸君、フィールドバリア最大だ!全速全身!!』
艦長の命令に復唱。
『中尉、アンタ無茶言うね!』
メアリー・ゴールドバーグ准尉が笑いながら言う。それは不安そうな兵士を勇気付け楽観的にさせる為。阿吽の呼吸でヴォルフガング曹長がヤレヤレと茶化す様に。
『少隕石ほどの大きさも無いからバレやしないのは知ってるが若いってはすげぇな』
リンドウは二人の補佐を受け笑みを浮かべ。
「ママルイーター小隊!戦果だ、目の前に戦果がぶら下がってる!給料以上に働いて相応にボーナスを頂こう!!」
リンドウ個人の戦意としては必要性を理解しつつも宣伝に利用された事による虚構の自分と現実の自分の乖離を埋めたかった。それに上層部の入れ込みと自分達に対する待遇を考えれば戦果と言う御恩と奉公的な考えの下で奮起していたので有る。
あと台無し感が出るけど若干、戦場の空気にテンション狂ってる。
『盾はどうすんだい坊や』
「タンクだけ持って行きましょう。増槽がわりで」
メアリー・ゴールドバーグ准尉は逸っている程では無いが浮ついた感覚を薄らと感じる。しかし同時に感覚的にだが死なない確信が漠然と有り、自身の経験上それは何より信頼できるものだ。またリンドウの心情も理解出来ており自己肯定感の低さに苦笑いを浮かべながら自信の必要性も感じていた。
『相変わらずの思い切りの良さだね坊や。フフ、なら届けてやろうじゃないさ。戦場の女神にラブソングを』
『おーおー、久々に聞きましたぜヘルホーリークイーン。こりゃ俺も気合い入れるかね』
ヴォルフガング曹長が随分と嬉しそうに言いメアリー・ゴールドバーグ准尉が照れ1割と怒り九割の顔で、
『アンタまで燥ぐんじゃないよヴォルフィ。それともアンタの異名でも羅列してた方が良いかい?』
『あーあーそりゃ降参しますよ軍曹閣下。チケット譲るんで勘弁してくださいや』
『7枚は寄越すんだね。ズィーベンシュターナー曹長』
『本当に勘弁してくだせぇ……』
「七つ星?」
リンドウの呟きにヴォルフガング曹長が天を仰ぐ。何よりキツいのは小隊の中の空挺の頃からの古馴染供がニヤついていることだ。そりゃもうこれ見よがしに。
『空挺艦隊にいた頃、七つの星を転戦した事があってね。そん時にコイツは一々戦い方を変えてたから敵が七つも異名をプレゼントしてくれたのさ。狙撃から罠の設置に坊やみたいなMAでの格闘戦までしてたよ』
「器用過ぎませんか?それ」
『ハッハッハだってさ曹長』
ゴールドバーグ准尉が言えば古株達が囃し立てる。軽い気持ちでジャブかましたらガチのドロップクック食らった気分だった。
『好きに笑えってんだチクショウ』
ヴォルフガング曹長の白旗に肩の力がいい具合に抜けた小隊。空気を読んだ様に管制から通信。
『艦長よりタロス部隊へ!敵艦まで距離1万だ!!』
「射出願います」
『健闘を祈る!』
流星群の様に星へ向かってタロスが駆け迫る敵艦の先頭にマーカーを付けて共有したリンドウは操縦桿を強く握りながら。
「さぁやっと訓練が活かせるぞ!!」
戦場の空気、ノリだのテンションと言うのは重要だ。無くては困るが有り過ぎても困るソレを堅苦しい物言いでは士気と言う。
勝利の余韻、己らの真価を示す状況、半ば酔った狂戦士の様に士気旺盛。
そんなママルイーター、シャチの群れが鯨を狙って呵成を挙げる。
狙いを付けた鯨と、その少し後ろに続群れが充填を開始するが余りにも遅い。それこそ此方から迫らずとも砲身を向けた鯨達は勝手に迫り、リンドウ達は小魚が大魚の側を寄り添う様に上面を飛行して、ゆっくりと浸かる様に楕円形のバリアの中へ入り込んだ。
「准尉、半数で右の鰭へ!!俺は左に行きます!!」
『いつも通りだね。任せな!』
轟々と唸る敵艦の推進器に目掛けて直下し着陸。
「ヘキサグラム共有!!」
操縦桿に追加されたボタンを押せばペルセウスの腕に付いたパイルバンカーが狙い通りに射出された。敵がいない場合にSCTを起動せずとも槍を射出できる機構の面目躍如だ。
「このまま尾鰭に向かうぞ!」
部下の応答が帰り背中から衝撃が広がるのを感じながら後部へ向かう。そこで漸く敵のMAtが現れた。
「SCT起動、全員盾が無いのを忘れるな!敵の攻撃には十分気を付けろ!」
リンドウの視点が変わりガトリングの引き金を引きながら着地する。王冠を被った様で肩幅があり脛と前腕が長いスラリとした機体をバラバラにしながら。
「やっぱり宇宙空間の戦闘には慣れてないみたいだな」
敵の動きは少ない。宇宙空間の戦闘では動きを止める事は死を意味するが直線的な動きで着地しようとしていた。リンドウの握るガトリングガンが弾帯を無くし止まる。
「四百っ発撃って半分か」
着地した敵はしゃがみ撃ちをしている。足場の悪い地上戦闘に置いて身を固定して狙撃するやり方法だ。宇宙空間でやるこっちゃ無い戦闘。
『惑星上の戦い。それも密林戦闘か何かと間違えてんなありゃあ』
ヴォルフガング曹長が困惑気味な声色と表情で言う。そう言う彼はリンドウの横でアサルトライフルを握って蛇行していた。射程内に入ればスローラム射撃で的確かつ流れる様に敵を倒し始める。
しかしズンと衝撃。右隣の機体が右足をバラバラにして崩れ落ちる。リンドウは肝が冷めてゾッとした。
「無事かヌヲクエノマノマ!!」
『生きてはいます!』
リンドウは返答があった事に心底ホッして。
「セーフティを忘れるな!!」
それだけ伝え更に早く走り的確に敵を適宜な発射で倒して行く。彼方が四十機程、此方が五十機程になった。
『待て!!』
「ガキの声?」
それは敵からの通信。砲身艦もそうだが降伏など戦場での交渉に使う銀河共通の物だ。非戦闘員用のママラホエ周波と戦闘員関連のレッドクロス周波と言う二通りの物があり今回は後者だった。これらの通信には戦闘を中止する銀河国際法上の義務がある。
この場合だと帝国が先ず武装を手放し連合は武器を下げる必要があった。その最低限のルール通りに帝国兵の周りに銃器が浮く。となればリンドウ達も攻撃の中止と銃口を逸らすために下に向けた。
敵の中から他とは違う機体が出てくる。王冠の様と表すべき頭部装甲が完全に王冠で背に外套にも見える様な巨大推進器が三機連なっていた。
「此方、連合所属七番艦タロス小隊隊長オオクゴ・リンドウ中尉だ」
『応答感謝する。此方は帝国宇宙機械化装甲中隊教導官シュィン・グァンチ特務曹長だ』
モニターに写ったのはハッキリ言って子供だった。赤色の髪を団子にしており是非とも語尾にアルつけて欲しい外見だ。なにせキャラが立つから。
……ともかく勝気を体現するかの様な大きな吊り目がどこか切迫していた。リンドウとしては何でこんなガキが?と言う印象しかない。外見年齢を端的に言えば青年期というよりは少年期だ。
そりゃ一応、敬意は払うけども家に帰ってママのでもしゃぶってやがれ下さい。マジで寝覚め悪過ぎるからって感じ。
「それで何用かなシュィン特務曹長」
表には出さないがマジで降伏してくんねぇかなって思いながらの問いに頷いて。
『一騎討ちを申し込む』
リンドウは鋭過ぎる目を大きく開いてパチパチさせた。小指を勢いよく耳に突っ込んでグリグリしてから。
「失礼を承知で特務曹長。悪いがもう一度要望を言ってくれないか?」
『愚かな願いなのは重々承知で一騎討ちを願う。私が勝てたのなら私だけを捕らえ、此の船を見逃してくれないか。貴方が勝てば好きにしてくれ、何も言わない』
リンドウは顔ワシってなった。何だろうか、少年期から青年期にかけて往々にしてある正義感、それと憧れに高揚感を感じたのだ。
つーかテンション上がってるのは目の前の少女だけで、相手はタロスに乗ってんのに慌ててるのが分かるし、こっちは困惑でもう闘いどころじゃない。
いや、全然この艦は潰すけども。時間稼ぎってなら目の前の少女は天才だと思う。訳わかんねぇ過ぎて相手のペースだもん。
「……特務曹長、関羽好き?」
『ああ!ああ!グァン公は大好きだ。叔父上とそっくりで侠気があって清廉で強い!私もヂャオツァンの様に叔父上に御力添えをしたかったのだが、叔父上が体調を崩された隙を付いた従兄弟殿の所為で練兵途中の者達と悲惨な初陣を飾る事になってしまった。まったく見栄の為にこんな事を。せめてチャオクゥオの様に敵中へ突っ込んで死ねば良いものを……そうだリンドウ中尉は武侠列伝はご存知のこ(以下略』
なんか武侠についてクソ早口で語りだしたので省略する。クソイケメンの武侠をモデルにしたアニメまで語り出したし。
速い話が能力があって後方で指導を担っていた彼女がこの船の艦長によって見栄のために戦場に引っ張り出され、何もしてないのに敗北した挙句にリンドウの部隊が来た事で訓練過程も終わってないのに無駄な戦いを強いられたと言う話だった。
リンドウは、何というか。熱に浮かされているとは言え健気な目の前の少女の申し出を断るのも悪い気がしてきた。いや、軍人として絶対に断るべきなんだけども。
なんか、こう、人として。
『どうだろうか中尉、窮鳥懐に入れば猟師も殺さないと言う。猟師の立場たる貴方は幼い窮鳥を殺すのか』
ママルイーター小隊からも受けてあげれば?的な空気が流れる。飛行機が出た当初は敵機と挨拶をしあったと言うがどうも自分が中世以前の人間になった心地だ。
リンドウは眉間をグニっとして。
「分かりました。そちらから部下を7㌖下がらせて下さい。その後此方も部下を同じ距離下がらせます。曹長が武器を取ったら一騎討ち開始です」
『感謝する』
コックピットで椅子に座りコーラを飲みながら自己嫌悪、いや困惑と言うか自分は何してるんだと自問自答していると部下達が離れていく。
帝国のタロス、外套纏った王様が電磁砲を握った。
「いやこの距離で!?」
慌ててリンドウは操縦桿を握り推進器を真横に向けて全開。ペルセウスがスライド移動したが肩の武装固定パーツを持っていかれた。
「あっぶねェ!!?容赦無ッ!!」
シュィン・グァンチ特務曹長はステップを踏む様に装甲上を移動しながら電磁砲を撃ってくる。完全にスナイパーの動きで地上で有れば絶対に勝てないとリンドウに確信を持たせた。
リンドウは必死だ。SCTを起動する暇さえ無い。いや寧ろ推進器を用いた機動でなければ死んでいただろう。
「クッソ!きっちぃなァッ!」
ゴと何度も機体を掠める電磁砲の弾丸。操縦桿とレバーを操作して直角に機動、敵に向かって直進。
真っ直ぐ向く電磁砲の銃口。射出と同時に推進器を唸らせ弧を描いた。脚部を電磁砲が持っていく。
「SCT機動!!」
着地、振り返って発射、腕が砕け散った。
「じゃあ此の船と船長、機体は頂きます」
リンドウはそう言って敵の胴体を支えた。
その頃ナカノニワ星団内最後の帝国駐屯惑星パティオに帝国残存艦艇が集っていた。ナカノニワ星団帝国総戦力は主力艦5249隻と大型MA46238機。損害50%を超過して軍組織的には全滅と表現すべき状況に落ちっていた。また総司令ウラジーミル・ポチョムキン大将の行方不明。
大敗北を喫したのだ。
陰惨な空気の中で全軍にフェルディナン・フォルバン大将は通信を繋げた。彼はカイゼル髭が特徴の壮年男性で鼻の穴と鼻翼がとてもデカい。堀が深いとでも言えば良いのか眉毛と目の段差があり若干眠そうな青い目をしている。
彼は抑揚に余裕を持って斜に構えて座り悠々とカイゼル髭を撫でてから。
「諸君、御苦労じゃった。ラカマチーフ・ポチョムキン大将は残念ながら行方不明じゃ。だが気にする事は無いサラーフ・ハキーム大将とバートランド・ダウン中将が助っ人と共に此方へ向かっておる。また艦艇の修復と合わせて諸君の要望に応え即席で盾を製造中じゃ」
髭を一撫で。
「儂等は負けた。大将は行方知れず、戦線は文字通り半壊、余計な物はあったが前線基地としてテラフォーミングした星も奪われた」
正面を向く。
「じゃが堪えれば勝てると此のフェルディナン・フォルバンが保証しよう!!!」
最後にとっておきの策を持っているかのような不適と評すべき笑みを浮かべて通信を切った。
切った途端にその笑みはデロンと消える。大きく長い溜息を漏らしてから拭うように顔を擦って、ワインをジョッキなどと言うべきものにブチ込んでゴキュゴキュと飲み干す。
ダンと叩きつけるようにジョッキを置いて。
「あ“ーッモォ〜何なんじゃ敵のアレ!?カギは大元帥閣下の見立て通りで間違い無いがあんなちっこいので戦艦の装甲を破壊できるってチートじゃろチート!!MAの分隊で砲身艦一隻を落とすなんぞふざっけんなマジでぇ!!」
ポイアスにつけられたカメラで録画した映像は見た。腕を伸ばして槍の様な物を推進器か炉の部分に打ち付けている。最大で六本か最低で三本は必要な様だが面倒此の上ない。
人類が槍を生み出し弓を生み出し馬を使い出した様に連合もまた何がしかの武器を作り出したのだ。
大将フェルディナン・フォルバンは良い事だと思う。今は兵器として使われているが兵器になる物は大抵が生活に転用できるのだ。弾道の計算機がゲームになり悍ましい核が電力を生む様に。
そんな事を考えて。
「まぁ帝国が被害者じゃ無けりゃネッ!」
カチキレながら言った。さっきダンと置いたジョッキ的なのにはワインが並々と入っている。それを引っ掴んで一気に呷ってゴキュった。
「ッゔぅあーーーーー」
またダンってする。ジョッキ的なのの下からワインがモコモコ湧き出す。それを不満そうに見てから。
「逃げとる場合じゃ無いのォ」
「いやンな顔真っ赤で言われましても」
黙ってた副官が思わずツッコミを入れた。同時にパティオ星系の状況を表示する。顔を顰めて。
「コレ今まで通りの対応じゃと正直ヤベーよな?」
「ヤバいです。一先ず星系の小惑星群をピックアップしておきました。それとパティオ惑星軍司令官から通信です」
「そうじゃな。打ち合わせも必要じゃ」
司令部が防衛作戦を練っている頃、兵卒達は部隊の再編成に躍起になっていた。
「ジン、大丈夫か?」
ラインハルト・ハルトマン軍曹に命令不服従でボロクソに怒られたオニオ・ジンにアダルベルト・オッド二等兵がジュースを手渡しながら問うた。
「すげぇ罵詈雑言で正論叩き付けられた。訓練兵時代を思い出すレベルで」
「あぁーキッツいな、それは」
「ジギっちゃんは?」
「大型MAが無事な連中と盾を使った戦闘の訓練中だ。一応見てきたが紀元前の戦いだぜありゃあ」
「何、一騎討ちでも始まった?」
「いやそこまではねぇけど。でも考えてみりゃあ偶発的には起きてもおかしく無いのか。戦争の規模としちゃ中世じみた事になってるもんな」
「そうなったらあの角有りには借りを返さなきゃな」
「おお、やる気じゃん。そん時は俺も手伝わせてくれよ。皆んなの敵討ちだ」
そう言ってオッド二等兵が拳を握った。




