パーセクって初めて聞いたわ
暇潰しにでも見てってください。今日中に5話までは上げます。
銀河連合国所属惑星コーヴェルアルガ連合国軍住居大陸宇宙軍区。そこは大小の藻が覆う緑の大地の中から、宇宙軍軍人とその家族が居住する黒い長方形のマンションのような建物が永遠と並んでいた。
その空を支える塔様な高層家屋の中で将官が住まう一つに住居を与えられたオオクゴ・ツワブキ准将が和風モダンな部屋でソファに向かって歩いていた。外見年齢は三十代程であり長身でスタイルが良く細身に感じるが屈強な体躯で黄色い頭髪を刈り上げている。鋭い雰囲気を持ち整った顔つきをしていて背筋を伸ばして歩く姿は軍人の証左の様に思える物だ。その印象に違わず正に叩き上げの軍人で戦功により大尉にまで昇進し軍教育機関を経て今の地位にいる男である。
尚、趣味は昼寝で現在の軍服を脱いだ格好は非常にラフであり、大きすぎるTシャツと短パンにスリッパを履いていた。
その下に此の時代の下着に相当する首から下を覆う様な身体のラインが出るほどのタイツかヒートテックの様な物を着用しており、これは防護機能や生命維持に始まり通信機能や翻訳機能に能力補助など多機能な気持ちとしてはスマホに近い物だ。プロテクティブリングと言って手首のリングを操作すれば色々と機能を利用出来る代物である。
ソファにデロンと座ればそのリングを操作してホログラム通信を始めた。数回の呼び出し音の後ツワブキの前に青年の半透明な立体映像が浮かぶ。整った顔で異常に目付きが鋭く鋭利を通り越して凶相だが顔を手首のリングから正面に向ければ人好きのする表情に。
「えーい、どした親父」
ゲーミングチェアの様な椅子に座った姿勢で手を振りながらそう言う。その間にツワブキの息子の立体映像が濃くなっていき目前にいる様な光景になった。
ツワブキの息子は鮮烈なまでに鮮やかで艶やかな髪色をしている。それは人間の毛髪らしからぬ物でアウイナイトの様な美しい鮮やかな群青だった。毛量が多く腰に届く長髪を一昔前に流行ったドワーフベアードと言う髪型にしており、腰まではストレートなロングヘアーで、その先から注連縄の様に編み込んだ髪束が七つ連なっている。そして頭頂部のアホ毛を真っ黒に染めたメッシュにしていた。
体躯は黒いタンクトップから伸びる腕が豹の様にしなやかで、ダブダブな青迷彩のカーゴパンツはスタイルの良さを示すように長い。
久々の息子を前に本人的には好相を崩し満面の笑みで、実際には口角を上げてニヒルに笑い手を挙げる。
「少し相談事だ。リンドウ、もうじき士官学校を卒業だったな」
「ああ、このままなら成績上位だぜ。割りかし親父の面目も保ったろ?」
「十二分過ぎるほどにな。寧ろあんな事があって良く軍に入ろうと思ってくれたものだ」
「それこそあんな事が有ったからこそだろ。つーかロボットアニメのお約束みてぇな事になるとは思ってなかったぜ」
「私も大型獣狩猟用のモーターアーマーで戦闘ドローンを撃破するとは思わなかった。いや不可能な事では無いのだけども」
「まぁSCTの操作は適性もあったし得意だったから。そもそも直ぐに軍の人が来てくれたしなぁ」
「SCTなぁ……私吐くんだよなアレ。大型に一回乗ってみたんだが感覚適合が上手くいかなくて死ぬかと思った。そこまで酷いのはなかなか居ないと地獄の聖女に散々笑われたぞ」
「うわぁ懐かしいなゴールドバーグ軍曹。10年くらい会ってないけど今も未開惑星で護衛任務しながらオッさんと漫才コンビやってんの?」
「実は空挺艦隊が近くに来ていてな。フフ、軍曹閣下、いや今は曹長閣下もヴォルフガング軍曹も相変わらずだった」
「おお!昇進したんだ。てか、え、マルレギナ星域に空挺艦隊って未開拓惑星とか見つかったん?」
「いや別件だ。というか相談に関する事でもあるんだが」
一般のものとは違う軍用リングに手を添え極秘回線に変える。
「?」
「守秘義務が発生する話だ。アイアンズ閣下肝入りの3Gプロジェクトというのが有ってな。その成果を持って新部隊の設立が決定し実践配備する為に適性のある兵をかき集めている」
「へぇー。そこに俺をって話?」
「その通りだ。進路に付いては考えて無いと言っていたから、選択の一つにどうかと思ってな」
「惑星軍?宇宙軍?」
「宇宙軍所属のガーディアンだ。情報漏洩は厳禁だからな。これ以上は返事による」
「じゃあ親父はどう見てる?」
「先ず惑星軍は危ない。惑星軍兵士のマシナリーとかすぐに死ぬからな。彼等は重要な存在だし尊敬はするが息子にはあんまりなってほしく無い。それにお前も士官学校で大変さの一端は知ってるだろう。私の場合はそれに加えてあの時を含めた数度の惑星上での戦闘経験があるが出来れば二度としたく無いぞ」
「いやストレート」
「何より宇宙軍はアレだ。軍の顔みたいな所があるだろう?あ、これは母さんには内緒だぞ絶対に。それに何たって宇宙戦艦の装甲のおかげで死に難いからな。あとは無重力下でのフワフワ移動は何回やっても楽しい。勤務上数十は続けてるが全然飽きん。」
「若干私情入っとる。んで急に子供っぽくなった。まぁ親父がそう言うんならやってみようか」
リンドウが信頼を合わせて言えば彼の前に半透明のガラス板が浮かぶ。それはホログラムで投影された契約画面であり掌をリンドウが押し付ければピと音が鳴り続いて画面を握る動作をして目の前の前に持ってきてピ。
「オオクゴ・リンドウ准尉はオオクゴ・ツワブキ准将の提案を受諾致します」
最後にそう言うと親子のリングから『契約の締結を確認しました』と敢えて非常に機械的な声が響く。
「じゃあ詳細説明だ。計画の正式名称は巨人の機械人形計画ジャイアントギアゴーレムプロジェクト。昨今の艦隊戦が長期化してるのは習っただろう」
「習ったてか、まぁ常識だけど。アレだろ?バリアが出てから塹壕戦みてぇに静的な戦闘になっちまって長期戦になったって……」
「そうだ。私達の故郷も未だ戦場だしな。そこでホレーショ・アイアンズ大将の提言が採用された。単純に言えば重力化空挺部隊を参考にして砲身艦整備用の大型モーターアーマーを武装させ艦隊戦での利用をしてみないかと言うものだ」
「……え、無理じゃね?砲身艦ってクソ重い装甲でミサイルくらい弾き返すじゃん。大型モーターアーマーの狩猟武装って推進器とか装甲が無い分戦闘ドローンよりデカいだけだろ。一番破壊力のあるので60㌢カール無反動砲、貫徹力だと25㌢対物ライフルのコンウェイじゃんか。そりゃドローンから合金皮膚のバケモンまで粉々にするけど宇宙戦艦の装甲には無理があるって」
「そうだな規模が違う。だが新研究である微生物の特性が発見されてな。早い話が複合装甲を溶かす事ができる」
「それドローンとかミサイルで良くね?」
「研究中らしいが仮死状態の時に人が近くに居ないと死滅してしまうらしくってな。サイフィールドが関係しているのでは無いかと言っていたが」
「あぁ念話と念力が使える範囲だっけ?」
「そうだ。まぁそうだとすればFOPS注射を受けていない赤ん坊なんて居ないから何れは敵にも広がってしまうだろうがな」
「要はその微生物を付けた武器を持って砲身艦の横腹をド突くって事?」
「そういう事だ。大型モーターアーマーのSCT操作適正とFOPS適合率の高い人材が必要と言うならリンドウも行けるなと思ってな。話を聞いたら意外と危険は少なそうだし何事も黎明期に関わった立場というのは運が良ければ美味しい思いができる」
「それ、親父も関わってるだろ?」
「当然、チャンスが有るのなら飛び込まなきゃならない。それどころか上手くいく目算も高いのだからな」
「開戦の想定はどんな感じ?」
「因果なものでな。当時援軍に来てお前の推薦状も書いてくれたイチバンガッセン・コクタン中将。あの人がアイアンズ艦隊団の第三艦隊を率いている。そこの麾下に入って世話になる形だな」
「て事は久々の故郷か。岩石の惑星をテラフォーミングして花の咲き誇る緑の星にしたって昔話を聞いたけど戦場になった今はどうなってる事やら」
「気が滅入る。話を戻そう。……私は宇宙軍准将として新設戦隊の編成を担う事になっている。新造砲身艦25隻を預かり一隻最低でも二分隊20機、最大で60機の整備用大型モーターアーマーを戦闘用大型モーターアーマー小隊に変える予定だ」
「あー新設部隊なのに最低で500機って、なんで俺が士官学校に入れたか分かった。入りたいって言ったら直ぐに推薦状届けてくれたもんな」
「フフ茶化すな。確かに軍が期待したのは否定はしないが。お前が軍に入った時は丁度3Gプロジェクトの根幹の実証実験が成功した時だったからな。大型モーターアーマーのSCT操作適正に加え戦闘も可能な人材に融通は当然だ。軍としても都合が良く増員も見込んでいて挙句に謝意と誠意を示せるなら融通の一つや二つ効かせる」
「そこは疑ってないよ。それこそ随分と融通して貰ったのは分かる。何より選択を強要される事は無かったし、こうやって絶対に選択させてくれたから」
「うむ、安心した。ともかく一年から三年の調練期間の後にそれらを率いて私達の故郷ハナゾノ星があるビノ星域ナカノニワ星団に駐屯している艦隊に合流するわけだ。私達の到着と共に攻勢をかけ研究結果を確認することになるだろう」
「補修整備と機動戦闘を訓練か。まぁ知識は教育ポッドで済むけど実施訓練ってそんなんで済む?」
「何せ教師役が良いからな。少なくとも機動訓練は」
「……あー成る程ね」
「フフ。戦場の女神がコーヴェルアルガでお待ちだぞ」