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第3-03話 叔母と異能

「親戚ってナツキとどういう関係なの?」

「母親の妹だよ。今は2人の娘のお母さんなんだ」

「中学生までそこに住んでたんでしょ? 妹が2人もいたら大変じゃなかった?」

「大変って言っても……小学校入ったばっかりだからさ。我がままが凄いくらいで別に大変じゃなかったよ」


 放課後、ナツキたちはそう言いながら彼の親戚の家に向かっていた。


いま思ってみれば、自分は母親や父親の出自や状況について何も聞いていない。もしかしたら、両親が突然に失踪してしまったのにも意味があったんじゃないだろうか。ナツキは思わずそんなことを考えた。


「は、八瀬はちのせさん。本当に菓子折りとか買っていかなくても大丈夫なんですか……?」

「大丈夫だよ……。別に大した話があるわけでもないし……」


 心配性のユズハはそう言って怖がっているが、ナツキとしてはスーパーのお菓子を複数持っていっているくらいで十分だと思っている。確かにナツキは目の上のたんこぶとして扱われていたが、それはあくまでもナツキが彼女たちの家計に入っていたから。1人暮らしをしている今では普通の親戚付き合いができている。


(……女の子を2人も連れて行くことのほうが問題になりそうだなぁ)


 ナツキは中学生の3年間をそこで過ごしたわけだが、双子の女の子たちはちょうど小学1年生。まだナツキが面倒見られる子たちだったが……あれから3年。今では小学4年生である。


 小学生とは言え、4年生にもなってしまえば女の子は女の子。

 どんな野次を飛ばされるか分かったものじゃないが……。


(まぁ、良いか)


 何とかなるだろの精神でここまで生きてきたナツキは根っからの楽観主義者。しかも、それで今まで全部どうにかしてきたのでタチが悪いが……とにもかくにも、深く考えるのをやめて親戚宅のチャイムを鳴らした。


 時刻はちょうど18時過ぎ。

 ちょうど仕事が終わって帰ってきているとは思うのだが……。


 なんて思っていると、扉の向こうからドタバタと走ってくる音が聞こえて……バン! と、扉が開かれた。


「ナツキ兄ちゃんだ!!」


 開けるなりびっくりした声を出したのは双子の姉の方であるコハルだ。

 彼女はナツキを見ると、そのままナツキの後ろにいる異能の2人を見て、再びナツキを見た。


 そして、そのままきびすを返して、


「お母さーん! ナツキ兄ちゃんが女の子連れてきたぁ!!」


 そういって戻っていった。


 家に招かれているわけでもないので、そのまま放置されてしまったナツキたちが困り果てていると、今度はコハルにそっくりな女の子がおずおずとやってきた。


「ど、どうぞ……あがって下さい……」


 姉の方とは対照的に控えめな彼女はハルカ。色々と活発的な姉に押されるようにして、よく泣かされていた子だ。彼女に招かれるまま家にあがると、ナツキは思わず懐かしさを覚えた。


 まだ1人暮らしを初めて数ヶ月。

 だが、その数ヶ月の間に1度としてこの家に戻ってくることは無かった。


 なんとも言えない懐かしさを胸に、ナツキはリビングに向かうと……。


「久しぶり、叔母さん」

「珍しいじゃない、ナツキが女の子を連れてくるなんて」


 夕飯を作っている途中だったのだろう。

 エプロンを付けたまま、小太りの女性に出迎えられた。


 彼女こそがナツキの母親の妹であり、親戚をたらい回しにされていたナツキを最後に引き取ってくれた温情ある人だ。少なくとも、ナツキはそう思っている。


「紹介するよ。こっちはクラスメイトのユズハ」

「い、いいい、いつも八瀬はちのせさんにはお世話になっておりましゅ!」


 勢いよく噛みながら頭を下げるユズハ。

 言葉にしづらい一生懸命感が伝わってきて叔母さんは微笑んだ。


「で、こっちが最近仲良くなったホノカ」

「はじめまして。ホノカです」


 一方で名家出身のホノカは綺麗に一礼。

 同じことをやれと言われても無理なナツキは「こういうところに育ちがでるんだなぁ……」と、そんなことを考えた。


「それで、どうしたの? わざわざウチに来て」

「母さんの話を、聞きたいんだ」


 ナツキがそう言うと、叔母は少し考えるようにして……。


「それって女の子を連れてきてする話なの……?」


 と、正論パンチをぶっ放した。


「う、うまく説明できないけど……この2人は頼りになるんだ。だから、もしかしたら……手がかりが掴めるかもって」

「……警察でも見つけれてないのに、難しいとは思うけど」


 確かにその考えは正しいだろう。少なくとも、ナツキも今まではそう思っていた。だが、ナツキは踏み入れてしまったのだ。


異能の世界に。

だとすれば、今までのように考える訳には行かなくなる。


一般人ノルマの常識は、異能の世界の非常識。

そしてそれは、逆も当てはまる。


ならば、生まれたときから異能の世界に身を置いて……よく知り尽くしている彼女たちなら、きっとナツキでは思いもしない部分から手を届かせてくれるはずだ。


「でも、それが手がかりになるなら……何でも答えるわよ。私だって……姉さんの居場所は、知りたいし」


 叔母の言葉に安心して、ナツキはほっと安堵の息を吐いた。





「小さい頃から、姉さんは変わってたわ」


 ナツキたちはキッチンに移動して、まずは母親の生い立ちを語ってもらうことにした。もしかしたら、幼少期のどこかに何かの手がかりがあるかも知れないからだ。


 ちなみにコハルとハルカはリビングでナツキの持ってきたお菓子を食べている。


「変わってた?」と、ナツキ。


 それに叔母は頷いた。


「オカルトが好きだったのよ。その好きって熱量が……おかしかったの」

「あ、あの……女の子が占いとかにハマるのは、よくある……話だと、思いますけど」


 ナツキは昔、「なんで女の子は占いなんてものが好きなんだろう」と思っていたが……ユズハとホノカが言うには、女性は男性と比べて異能への適性が高いのだそうで、特に幼少期にはかなり一般人ノルマと異能の間で不安定になる時があるらしい。


 そういう時は魔女ウィッチ呪術師シャーマンが使うような「占い」に興味が惹かれるのだとか何とか。


 確かに言われてみれば今まで出会った異能は女性の方が多かった。

 そう考えると女の子がオカルトなものにハマるというのは女の子の方が男と比べて潜在的な異能が多いだということで説明が付く。


「小さい頃からずっとオカルト研究にハマっててね。実家の部屋の中もずっとオカルトグッズでいっぱいだった。そういうのが好きすぎて、大学だと日本の風土研究をしてたわ。すごく楽しそうにしてたけど……男っ気はなさそうだった。そういうのよりも、ずっと研究をしたがるような、そんな人だったから」


 ナツキはちらりとホノカを見る。


「ナツキのお母さんが小さい頃……変なことを言うことはありませんでしたか?」

「変なこと?」

「例えば……幽霊が見えるとか、幻聴が聞こえるとか」

「そういうのは無かったわね」


 叔母は昔を思い出しながらも、確信を得たように言う。


「姉さんのオカルト好きはちょっと私が引くくらいだったから、そういうことを言ってたら絶対に覚えてる。だって私たちが6歳のときには『こっくりさん』を3時間もやらされたのよ? それで何も起きなかったんだから……多分、姉さんに霊感は無かったのね」


 そういって叔母は、けらけらと笑った。


 『こっくりさん』とは降霊術の一種であるが、異能と一般人ノルマの境目が不安定な子供のころに行うと……極稀にそれを成功させる子供が出てくるのだという。その子は間違いなく異能の素質があり、鍛えれば異能として目覚めるのだろうが、多くの子供は成功しない。


 理由は簡単で、彼らはやはり一般人ノルマだからだ。


 ナツキは再びホノカを見ると、彼女は小さく首を横に振った。

 やはり、ナツキの見立てと同じくナツキの母親は異能では無いのだろう。


「それで、姉さんは大学に入って……色んな所に研究として旅行してたわ。基本的には東北とか、九州の山奥によく言ってた。時々遊びに誘おうとしても『その日はフィールドワークだから!』って帰ってきたのをよく覚えてるわ。……あれは、姉さんが大学3年生の時だったかしら。急に男の人を連れて実家に戻ってきたの。それで、その人と結婚することになったって言って、びっくりしたのをよく覚えてるわ」


 ぴくり、とユズハとホノカの意識が動いた。


「それが……俺の父さん?」

「そうよ。姉さんはフィールドワーク中に出会って、運命だって思ったって。家族みんなの反対を押し切って、姉さんはあなたのお父さんと結婚し……大学を卒業するくらいに、あなたが生まれたの」

「……マジか」


 ナツキは初めて聞く自らの生い立ちに、思わずそう唸った。

 若さゆえの過ちという感じがひしひしと伝わってくる。


(よくそんなんで『人に恥じない行動』とか言えたな……)


 と、ナツキは遅れてきた反抗期。


「あなたのお母さんの生い立ちはそんなところね。何か聞きたいことはある?」

「……母さんのことはよく分かったけど、父さんのことで、知ってることはある?」

「んー。特に無いわね。姉さんは嫁入りしちゃったし、それで満足してたみたいだし……」


 そう言いながら、「ああ、そういえば」と言って叔母は思い出したようにいった。


「姉さんが昔、すごく楽しそうに話してくれたんだけど……あなたのお父さんの実家だと、節分の風習が違うんですって」

「節分?」


 急にどうした、と思ったが母親の専攻が日本の風土ということで、もしかしたら父親の素性に関わることかと思い、ナツキは意識を向けたのだが、


「鬼を払うんじゃなくて、招き入れるんだって……すごく楽しそうに語ってくれたわよ」


 そんな、どうでも良い話だった。

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