第2-01話 成長する異能
ナツキはヒナタの目を覗き見る。
その時、彼女の瞳が妖しく緑に輝いているのに気がついた。
(……変わった『瞳』の色は異能の証)
そう言っていたのは、アカリだ。
ナツキがヒナタを異能と確信を得たことなどつゆ知らず、彼女はナツキを見ながら静かに続けた。
「こんなに近くで面白そうなことをやってたなんて……知らなかったわ」
「……面白そう? 争奪戦が??」
「ええ、だって……異能同士で戦い合うんでしょ? すごく、楽しそうじゃない」
小声で、ナツキにしか聞こえない声で、そっとヒナタが耳元でささやく。
「別に楽しくは……」
「私が楽しいかどうかを決めるのは、私。そうでしょ?」
「…………」
それはその通りだ。
「もっとあなたたちの話を聞かせてちょうだい?」
「……じゃあ、その代わり痴漢はなしだ」
「もちろん。さっき言った通りだわ」
ナツキの交換条件に対して、ヒナタはいとも簡単に頷いた。次の瞬間、頭の中で電子音のファンファーレが響く。本当に痴漢するのを辞めたらしい。
てか、そんなに簡単にやめるなら最初からしなきゃ良いのに……。
手に入れた防具は『インベントリ』に収納されたので、後で性能を確認しておこうと思いつつ……ヒナタを連れて、ホノカの元へと戻った。
「……ホノカ」
「どうしたの? ナツキ」
「いや、夢宮さんが話を聞きたいって」
「ヒナタで良いわ」
ナツキがヒナタをホノカに紹介すると、彼女は淡々とそう言った。
「話? なんの?」
「……争奪戦の」
ナツキがそういうと、ホノカはナツキとヒナタを交互に見比べて……声の調子を数段下げた。
「あんた……超能力者? 心詠み?」
「超能力者よ。心詠みもできるけど……あなた、妨害魔術を使ってるわね?」
「そりゃそうでしょ。黙って心を詠ませる異能がどこにいるの」
「彼は詠ませてくれたわよ」
ヒナタがそう言ってナツキを見ると、ホノカは息を深く吐いた。
「……厄介なのに捕まったわね、ナツキ」
「うん」
ナツキが頷くと、ちょっとヒナタが傷ついた様子を見せた。
「ちょ、ちょっと、なんでそんなストレートに悪口言うのよ。流石に傷つくわ」
「だったらなんでナツキに絡んだのよ。無視すれば良いじゃない」
「八瀬くんは……元々尊敬してたの。同類の虐めを止めさせたんだから……気になるじゃない」
「虐め? 何の話?」
そういえばホノカには、ユズハの話をしていなかったと思ってナツキは簡潔に事の顛末を彼女に伝えた。すると、彼女はぱっと顔を明るくして、
「凄いわナツキ。やっぱりあなたを選んで正解だった……!」
なんてキラキラした顔でナツキを見てくる。
ホノカもドが付くほどの美人なので、そんなに真っ直ぐ褒められると思わずナツキも照れた。
だが、ナツキがやったのは虐めを止めさせただけだ。
彼女たちから尊敬されるようなことだろうか?
「異能は一般人から排斥されるから。誰か1人でも、助けになってくれるのは……とても嬉しいことなのよ」
ホノカがそういって、補足で説明を入れてくれた。
「……それはともかく」
ホノカはすぐに話を戻すと、ヒナタをみた。
「妨害魔術の使えないナツキの心を読み取って、争奪戦を嗅ぎ取ったってわけね。悪いけど私たちは、あなたに願いを渡すつもりはないわ。素性も分からない。目的もよく分からないあなたをチームに引き入れるつもりは……」
「別に私は要らないわ、願いなんて」
「……は?」
ヒナタの言葉で、ホノカが戸惑う。
「だって、叶えたいことは自分の力で叶えるもの。私が欲しいのは結果じゃない。面白そうな過程よ」
「……快楽主義者ね」
「久しぶりに呼ばれたわ。その呼び方」
ヒナタが余りに自信に満ち溢れた様子でそういうものだから、ナツキも彼女に圧倒される。自分に対する自信なら誰にも負けない自信がナツキにはあったが、ヒナタのそれもナツキと同じくらいにはありそうだ。
(てか、快楽主義者ってなんだ……?)
知らないことはスルーするナツキも、興味のあることは調べる。
【鑑定】スキルを使うと、すぐに答えが分かった。
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快楽主義者
・異能の中でもより優れた強者が陥りやすい。ありとあらゆる物事を達成できる異能は、次第に物や人への執着から離れ、過程そのものを楽しむようになる。派生として、戦闘狂などがある。
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(……異能を使えば何でも手に入るから、結果じゃなくて楽しめることを探してるってことか?)
ナツキは【鑑定】スキルの結果から、彼女の状態をズバリと見抜いた。
「だから私に願いは要らないの。ただ、他の異能と遊んでみたいだけだし。どう? 私はそこそこやるわよ?」
大和撫子という文字を切り抜いた女の子だと思っていたのに一皮剥ければ超が付くほど好戦的。
(やっぱりこの人も異能なんだなぁ……)
と、ナツキはしみじみ受け入れた。
「……その話、保留するわ」
「なぜ?」
「快楽主義者は他の異能と戦っている途中に飽きたり、敵に寝返る可能性があるからよ」
「そんなことしないわよ。八瀬くんがいるんだから」
「だから、それが分かんないから保留するの」
そんな話をしていると、電車が駅にたどり着いた。
同じ制服を着た学生たちが一斉に電車から降りていく中、ヒナタは、
「まぁ良いわ。良い返事を楽しみにしているから」
そう言って、そっとナツキたちから離れていった。
すると彼女はわっと女の子の生徒に囲まれる。
ヒナタは男女問わずに人気なのだろう。
「『クエスト』とは言え、ナツキも変なのに絡まれたわね」
「それな……」
あんまり人のことを悪く言わないナツキだが、流石に初対面が強烈すぎると思わず愚痴ることもある。
「ま、とにかく……学校に行きましょ」
いつまでも駅にいるわけにも行かず、ナツキは学校に足を運んだ。
学校へ向かう坂道を登っていると、昨夜のことを思い出して思わず顔が渋くなってしまう。
「そういえばナツキって」
「ん?」
「昨日校舎を斬ってたじゃない」
「ああ、うん。斬ったね」
斬ったというか、勢い余って斬れたというか。
「ナツキの剣術能力ってどうなってるの……?」
ちょっとだけ顔を赤くしながらそう聞いてくるホノカ。
「あ、いや。別に私はナツキの力を疑ってるとかじゃなくて。その……せっかく一緒にいるのに話さないってのももったいないっていうか。……ううん! なし! 今のなし! 聞きたかっただけ!」
ホノカは顔を余計に赤くして、言葉を連ねるとナツキに何かをツッコませるよりも先に、尋ねた。
「……今のナツキって、剣だけでどこまでできるの?」
そう言われてナツキは思い出したが、【剣術】スキルがLv3になったのに、まだ技を確認していない。
ホノカに教えるついでだと思って、ディスプレイを開いた。
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剣術
Lv1:『新月斬り』
Lv2:『鎌鼬』『弧月斬り』『縮地』
Lv3:『雷斬』『望月』『残月』『穿空』『月輪』
EX:『紫電一閃』
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『雷斬』
・一点に剣気を込めた神速の突き。
それは剣が雷を穿つのか、あるいは雷と化すのだろうか。
『望月』
・完成された剣舞。相手の首を刎ねるまで止まることなく剣と舞う。
完璧とは欠けることなし、かくてそれは望月に例えられる。
『残月』
・斬撃を空間に遺す技。空間を断ち切り、生まれた歪みに触れたものをも斬り裂く。
微かに残る斬撃こそ、儚きことをとくと知れ。
『穿空』
・カウンター。相手の攻撃を完全に流し、強力な斬撃を叩き返す。
勝者が敗者に転じる刹那、敗者は空を仰ぐのみ。
『月輪』
・究極の後の先。いかなる状況にも対応できる剣の構え。
完成された剣は至高であり、人はそこに星を見る。
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……なんか技がめっちゃ増えてる。
てか、『紫電一閃』がEX欄に載ってるんだけどなんで??
あれはナツキが生み出した技であって、【剣術】スキルの技じゃないはずなのだが。
「ど、どうしたのナツキ?」
ディスプレイを見たまま固まったナツキに隣から声をかけるホノカ。
「……なんか、凄いことになってた」
「すごいこと?」
「うん。凄いこと」
流石はLv3と言うべきか、どれもこれもぶっ飛んだ性能をしている技たちばかりだ。だが、それでも『紫電一閃』がEXに当てられている辺り、あれはよっぽどの規格外なのだろう。
「……そう。相変わらずナツキの異能は凄いわね」
「そうだな」
ナツキは首を縦に振る。
確かに自分の異能は色んな意味で優れている。
「でも、良かったよ。俺の異能が強くて」
「そりゃそうでしょうけど……。ちょっと異常よ? 戦闘特化でもない異能なのに、あそこまで強いなんて。何のデメリットも無いの?」
心配そうな顔をナツキに向けるホノカ。
「強い魔法や魔術には何かしらの代償があるのが常なんだけど……」
「今の所は無いけど……まぁ、別にあったところでだよ」
「ちょっとナツキ。自分の身体は大切にしないと……」
「俺はホノカを守れたら、それで良いから」
ナツキがそういうと、ホノカはぱっと顔を赤くして、
「そ、そういうことを……人前で言わないの……」
小さい声で、そう言うのだった。
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八瀬 那月
Lv:45
HP :230 MP:500
STR:137 VIT:136
AGI:96 INT:97
LUC:56 HUM:66
【異能】
クエスト
【アクティブスキル】
『鑑定』
『結界操作』
『心眼』
『投擲Lv1』
『身体強化Lv3』
『無属性魔法Lv1』
『四属性魔法Lv1』
【パッシブスキル】
『剣術Lv3』
『持久力強化Lv3』
『精神力強化Lv2』
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