発覚
人物紹介
浅原啓太……出海堂大理学部一年。凡人。
北条久美子…出海堂大理学部一年。見た目は科学者っぽいが、背の低さからクールというよりは、子どもっぽい印象を受ける。
笹島直人……出海堂大文学部一年。ガタイがよくコワモテだが、実は大人しい。
後藤浩美……出海堂大文学部一年。目に見えること以外は信じていない。
上岡哲也……出海堂大法学部二年。ひき逃げの被害者。
松浦香織……久美子の親友。県外の瀬舞医大に通っている。
犬養泰造……理学部教授。
狐目の男……チンピラ。
4月29日 午後6時36分 下宿
☆☆☆side浅原啓太☆☆☆
よく考えてみりゃ、なにも無理してあんな女に聞くこたぁなかったじゃないか。
随分錯乱してたらしい。
大体、実害といえば、街ゆくチンピラを一匹伸しちまっただけじゃないか。
ごみ掃除のボランティアに参加したと思えばいい。
あの時はホントに殴ってやろうかと考えてたわけだし、思わず手が出てしまっただけだ、きっと。
やめたやめた。
全部忘れて、寝よう。
考えるだけ体力のムダだ。
さ、電気消そう。
……あれ? また点いた。
スイッチは……「入」。
おかしい。
今度は無造作にではなく、スイッチの方を見ながら、電気を消す。
その時だった。
俺の左手が、勝手に動いたと思うと、スイッチを再び「入」に戻してしまった。
何がなんだか分からない。
もう一度、右手でスイッチを切る。
また、左手が、点ける。
ヤケになってまた切る。
また点ける。
それを何回か繰り返した後だった。
どくんっ
左手は、今度はスイッチの方に向かわなかった。
胸に、激痛が走る!
「ぐぁっ!」
慌てて見てみると、斜めに赤い筋が四本走っている。
あまりの痛みに、思わず胸に右手を当てる。
左手は続いて、信じられない力で首を締め上げる。
左手は、まったくいうことをきかない。
右手で左腕をつかみ、引き剝がそうとする。
だが、がっちりと首をつかんだ指が離れない。
朦朧とする意識の中、俺は悟った。
すべて、この手の仕業だったのだと。
電気が点いたり消えたりしたこと。
チンピラを殴ったこと。
そして……。
背中の、引っ掻き傷。
いけない、このままではいけない。
左手にはますます力がこもってくる。
意を決し、いったん右手を離す。
「ぐ……がぁっ!」
みしみしと、首の骨が軋む音が聞こえる。
もって、十秒。
「ううっ」
すべての力を指先に込め、親指を引き剥がす。
できた隙間に無理矢理右手を捻じ込み、なんとか取り外すことができた。
「がっ……げほっ、ごほ」
すぐに左手を床に押し付ける。
なおも右手を引っ掻き、あがく左手。
しかし、数秒後、急に左手の緊張が解ける。
ぐったりとして、動かない左手。
だが、それでも固く握り締めたまま、しばらくは離さない。
どうやら、もう大丈夫らしい。
「ハァッ……ハァッ、ハァッハァッ」
汗が、傷口に染みる。
「うぁ! ぅうう……」
意識がはっきりしてくるにつれ、忘れていた痛みの感覚が、耐え難い痛みとともに戻ってくる。
……これから俺は、どうすればいい?
急に動き出す左手。
原因は不明。
いつまでも付きまとうそれから、俺に、安全な逃げ場は、無い。
この日、一睡もできなかった。