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エイリアンハンドシンドローム  作者: たつたろう
疑念と異変
4/20

異変

 4月29日 午前8時45分 図書館



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 どういうことだ、これは。


 確かに地方紙に小さく載っている。

 写真もない、小さな記事だ。

 しかし、読み返してみても、納得できない。


 出海堂大学でひき逃げ事件、被害者は出海堂大生の上岡哲也、無謀運転による信号無視で通行人が巻き込まれた。

 ガラスが加工されていて車内は見えなかった。


 ……ここまでは問題ない。

 問題は次だ。


『運転手は逃走時、被害者の腕を跳ね飛ばした』


 ……確かに昨日、俺は疲れていた。

 だが、あの異様な闇に閉ざされる前から、被害者には両腕ともあった筈だ。見間違いではない。

 一体何が起こっているんだ?


 ……いや、見間違いと考えた方が自然だろう。

 やはりただの疲れすぎなのだ。


 せっかく登学したうえ、もう講義は始まっているが、受ける気がなくなってしまった。

 今日は下宿に帰ってのんびり過ごそう。






 4月29日 午前9時13分 道端



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 いくらのんびりするったって、昼食抜きにするわけにはいかない。

 下宿とは反対側だが、住宅街にあるスーパーは安いから、そっちで食材を買っていくことにした。


 ……もちろん、あの事故現場を避けて通りたいということもあるが。


「あら、あんたもしかして自宅生だったの? それにしては見ない顔だけど」

「うわっ」


 嫌なことを思い出していた時に急に話し掛けられたもんだから、まともにうろたえてしまった。


「な、なによ、驚いたじゃない」


 そう言ってきたのは、大学生らしき女だった。

 驚いたというわりには、あまり表情が変わっていない。

 なんか上の空な感じで、どこをみているのかよくわからない。


 確かに見覚えがあるが、誰かは思い出せない。

 取り合えず無難に返事をすることにした。


「いや、こっちのスーパーが安いから、買って帰ろうと思ってるんだけど」

「へぇ、下宿生は大変だねぇ。ってあんた、講義は出ないでいいの? 一限目専門でしょう?」


 ここまで言われてようやく思い出した。

 こいつは同じ学科のやつだ。

 そう、あのオカルト女。

 そういやあどことなくオカルトな雰囲気を漂わせていると思った。


「出るつもりだったんだが、気分が悪くてね。ってオイ、オマエも講義だろうが」

「まぁね。でもこんな朝早くに起きて、なにを学べっていうのかしら。学生の安眠を妨げるものには死あるのみってもんよ」


 どうやら寝坊をしたらしい。

 しかし、マイペースというかなんというか、ちっとも焦っている様子が無い。


「まっ、私も遅刻だから代返は無理だけど、せいぜいがんばりな」

「あ、ああ……」


 オカルト女は去っていった。

 始終どこ向いてるのか分からなかったが、それを除けばごくごく普通だったので、少し意外だった。


 大学にきてはや一ヶ月になるがサークルを覗いてみることもなく、難しいんだか簡単なんだかすらよく判らん講義を受けて、こんな辺鄙なところにまで来て俺は一体なにをしているんだろうと思うこともあったが、これから楽しくなっていきそうな予感がした。


「おい、てめぇ。ボーっとつったってんじゃねぇぞ!」


 くだらないことを考えすぎていたらしい。

 ガラの悪い輩に怒鳴られてしまった。


 やたらと目つきの鋭い、キツネのような印象のある男。

 しかし、その顔からは愛らしさは微塵も感じられない。

 頬はこけ、目元には隈もある。

 いかにも因縁つけてきそうなキャラである。


 だが、ぶつかってきたのはあっちの方だ。

 俺が怒鳴られる筋合いはない。

 それに、今は何故だか無性に機嫌が悪い。







「ブツかってきたのはテメェのほうだろうが、このカスが!」

「んだとてめぇ! もう一遍言ってみろ!」


 月並みなせりふを吐き、激昂して殴りかかるチンピラ。

 その直線的なストレートを軽いフットワークでかわし、お返しとばかりに強烈なフックをお見舞いする。


「ぐはぁっ!」


 よろけてバランスを崩すチンピラ。さらに追い打ちに右回りの勢いをのせた廻し蹴りで止めをさす。


「へぶぉば!」


 完全にKOだ。

 これで2,3分は立ち上がれまい。


「口ほどにもない」







 ……なんて展開になるはずもなく、


「ああ、すまん」


 とだけいって早々に立ち去った。

 いや、正確には立ち去ろうとした。



 どくんっ



 最初は何が起こったのか分からなかった。


 チンピラとすれ違おうとしたまさにその時、急に左手が脈打ったように感じたと思ったら、次の瞬間には、先程の妄想のようにチンピラがフッ飛び、続いて左手にジーンとした痺れが広がった。


「てめぇっ、ナニしやがるっ!」


 フッ飛んだチンピラがよろめきながらこちらを睨みつけてくる。


(それはこっちが聞きてぇよっ!)


 どうやら自分が見事に裏拳をキメてしまったらしいことだけは、頬を押さえるその仕草から判明したが、今この瞬間において、それはなんの解決ももたらさない。


 一瞬廻し蹴りをお見舞いしてやろうかと考えたが、チンピラが怒りの形相でズボンのポケットの辺りを探る手つきを見せたので、大人しく180度反転し、全速力で逃げ出した。







 4月29日 午後1時22分 下宿



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 あの辺りは入り組んでいるから、撒くのはそんなに難しいことではなかった。

 だが、さすがに来た道を戻ってスーパーに行く気はないし、とにかく落ち着きたいと思い、下宿まで戻って来た。

 そうしたらドッと疲れがでてきて、そのまま倒れ込み、眠り込んでしまったらしい。

 カーテンがあるにはあるが、薄いし白いから、午後の日差しに目が覚めたようだ。


 大の字になって見上げた天井には、数年前の地震で生じたと思われる大きなひび割れが、修繕されぬままに残されている。


 ……。


 何なんだ、なんなんだ、ナンナンダッ!

 一体なにがどうなってるんだ。

 いきなり死体は動き出すし、勝手に裏拳キメちゃうし。

 昨日も今日も走りっぱなしだし、まともにメシ食ってないし、あ~腹減った。

 そうだ、メシを食おう。

 ちっとは落ち着いてからじゃないと、頭を整理できない。

 ……うわー、買い物してないんだった!

 もうどないしょー。


「きょええええぇぇぇぇぇ~~~!」


 …………。


 ……と独り下宿で声をあげてみてもやっぱりどうしようもないし空しくなるだけだったので、大人しく買い物に行くことにした。


 取り合えず部屋の照明を点け、一度着替えることにした。

 タンスなんてものはないので、服は辺りにぶちまけてある。

 その中から適当なやつを選んだ。


「あれっ?」


 おかしい。

 俺は確かに電気を点けたはずだ。だが薄暗い。

 見上げてみると、案の定蛍光灯は点いていない。



(寿命かな…)


 首をひねりつつ部屋の隅に引き返してみる。

 すると、スイッチは『切る』の方になっていた。

 寿命ではない。


「点けたはずだけどなぁ」


 ぶつぶつ言いながらも点けてみる。

 しばらく待ってみると、ちゃんと点いた。


 なんだったんだ?

 地震でいかれてたとか。


 ……まあいいか。ここんとこ変なこと続きだし、深く考えないようにしよう。

 とっとと近場の『ヘヴンイレブン』に行って、弁当でも買って来よう。







 4月29日 午後2時47分



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 ようやく人心地ついた。

 まだ『我が家』という実感はないが、ここでのんびり飯を食っていると、ずいぶんと落ち着く。


 ……それにしても、昨日から妙なことが続いている。

 学生生活もこれから、というときに、出鼻をくじかれてしまった気分だ。


 ついさっきの、照明が点いたり点かなかったり、というのもそうだ。

 もしかしたらこの土地には昔墓地があって、そこをぶっ潰して建てたこの下宿は呪われている、とか。

 ……馬鹿馬鹿しい。

 そうとう疲れているらしい。こんなオカルトめいたことまで考えてしまうなんて……。


 ……オカルト?


 そうだ、俺の学科には、この手の現象に詳しいやつがいた。

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