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エイリアンハンドシンドローム  作者: たつたろう
疑念と異変
3/20

疑念

何気なく毎日を過ごすごく普通の出海堂大生、浅原啓太。


ある日帰り道で事故現場に出くわした彼は、そこで得体の知れない体験をする。

恐怖のあまりその場から逃げ出す啓太。

 4月28日 午後6時20分 街



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 ふと我に返ると、見知らぬ街並みの中に佇んでいた。


 大学が地方都市の中核にあり、その周りは一見碁盤目状に区画されているようにみえるが、実際は微妙に曲がりくねっており、目立つ建物も無い所為かいったん迷うと手に負えない。


 全速力で走りまわっていたせいか、滝のように汗が流れる。

 このままつったっていても仕方が無いので、取り合えず自販機を探して歩き出した。


 それはすぐに見つかった。

 角を曲がるとコンビニがあり、その店の前にあった。

『お~いCお茶』がずらりと並んでいるので、そのうちのひとつを適当に選んでボタンを押す。

 缶を取り出し、一気に飲み干す。


 缶を捨て、あてもなくぶらぶら歩くと公園が見えたので、そこのベンチに腰を下ろして一息ついた。

 大分落ち着きを取り戻したのがわかる。

 ただ、いったんはひいた汗だったが、冷静になるにつれ、今度は冷や汗がにじみ始めた。


 一体あれはなんだったのだろう。

 死んだ人間が動き出すなんて……。

 そもそもあれは、本当にあったことなのだろうか。


 まてよ、あの時、他の奴はどうしてた?

 俺と同じものを見て、同じように逃げ出したのだろうか。

 思い出せない……。


 だが、よく考えてみると、そんなはずはない。では、何故?


 考えれば考えるほど、疑念はふくらむばかりだった。

 だが、もう一度あそこに戻って確かめる気力は無い。


 それに、俺にはもうひとつ、差し迫った問題があった。



 ここはいったいどこなんだ?





 4月29日 午前8時 下宿



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 朝がきた。


 昨日、ようやく見知った通りに出て帰って来た時には、夜の十時くらいになっていた。

 すぐにでもベッドに倒れかかりたい衝動を何とかこらえ、買い置きのカップ麺を作った。

 それを無理矢理腹に収め、楽な格好に着替えようとしたところまでは覚えている。


 ……どうやら着替えの途中で眠り込んでしまったらしい。

 今は上半身は裸、下半身はズボンというなんともいやな格好をしている。


 やっぱ昨日は疲れてたようだな、いつもより起きるのが遅い。

 でもまあ、この程度なら一限目に遅れることはないだろう。

 朝飯はその辺で買うことにして、とっとと出掛けるか。


 俺は取り合えずトイレに行き、用を足した後に顔を洗った。

 髪を整えながら、何気なく鏡に映った上半身を眺めてみる。

 と、背中に引っかき傷のようなものがたくさんあるのに気付いた。

 おそらく夢中で走りまわっていた時にできたものだろう。


 その数を不審に思いはしたが、あまり時間もないので急いで服を着て、荷物を準備し下宿を出た。




 4月29日 午前8時32分 通学路



 ☆☆☆side笹島直人☆☆☆


 俺もあの凡人野郎のことはいえないかも知れない。

 けっこうギリギリに下宿を出たが、最短距離の交差点を通らずにわざわざ迂回して、南北ロードを通ろうとしているからだ。


 さすがに昨日の今日であそこを通る気にはならない。


 どうやら同じことを考えた人間がいるらしく、意外に大学生が多い。

 こっちの道は住宅街へと続いているが、地元から出海堂大に通う者はそれほど多くはなく、普段は専ら小学生の専用路となっているにも関わらずだ。


 と、やや前方に風采のあがらないヤツがいる。

 もしやと思い追いついてみると、やはりそうだった。


「よお、腰抜け、昨日はちゃんと眠れたか?」


 腰抜けはこっちのことを思い出せないらしい。


「昨日オマエがぶつかった相手だ、覚えてねぇか?」


 腰抜けはやっと合点がいったらしい。


「ああ、あんたか。そういうあんたこそ、なんでこんなとこ通ってるんだ? 自宅生じゃないんだろ?」


 ややダルそうに応える腰抜け。

 どうやら本気で眠れなかったようだ。


「オマエと同じであそこを通りたくないんだよ。ま、無理もねぇ。腕がちぎれた、なんていうんじゃな。そうそう、俺は文学部の笹島ってんだ、ヨロシクな」

「……腕がちぎれた? どういうことだ?」


 俺の自己紹介は無視し、不審そうにする腰抜け。

 そういえば、コイツはそんなこと知る間もなかったはずだ。


「新聞にも載ってたぞ。まさか、読むのも怖いっていうんじゃないだろうな?」


 みるみる青ざめていく腰抜け。そうとうまいっている。


「ワリィワリィ。そんじゃそろそろマズイから、先に行くわ。帰って休んだ方がいいかも知れねえぞ」


 あ、アイツの名前聞いてねぇ。

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