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エイリアンハンドシンドローム  作者: たつたろう
邂逅
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邂逅

 4月28日 午後6時 交差点



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 今日も一日無事に終わった。

 あとは東西ロード端の交差点を直進し、駅へと続く道なりに進み、途中で『ヘヴンイレブン』というコンビニの前を右に折れれば、下宿に辿り着く。

 ここまでで大体十数分だ。


 東西ロードは大学前の通りだけあって、コンビニもあれば百円ショップもあり、郵便局だってある。

 しかしながら、わが出海堂でっかいどう大学はやたらと広く、構内に書店もあれば食堂もあり、散髪屋やJTBまであるので、まだあまり大学外の店を利用したことはない。


 まあとにかく、ご多分に漏れずネオンやなんやで賑やかな通りを西進し、交差点に向かって歩いていく。

 ちょうど信号がうまいこと変わりそうだし、今日はついてるかもな。


 あれっ、でもおかしいな。

 なんであんなに人だかりがしているのだろう。


 今はそのような時間帯ではない。

 それに、時折かすかに聞こえてくるサイレンのような音。


 どうやら事故らしい。


 どこかで火事が起こったからって家を飛び出して見に行くほど野次馬ではないが、講義も終わったし、別に急いでもいないので、早速人ごみを掻き分けて何が起こっているのか確かめることにした。


 その間、他の野次馬たちは、ありきたりにザワついている。


「おい、事故だってよ」

「しかし、ありゃひでぇな」


 こんなのを聞いても、なんにもなりゃしない。

 やっぱり自分の目で確かめないと……。



 ☆☆☆side笹島直人☆☆☆


 しかしありゃひでぇな……。

 いくら正面衝突したからって、あんなふうになるのはいくらなんでも不自然だ。


 フッとんだ先に血が溜まってるのはわかる。

 じゃあなんで、反対車線にまで血溜まりがあるんだ?


「なあ、なんであんなところに血があるんだ?」


 俺は後藤に聞いた。

 大学に入って出会ったばっかの奴だが、けっこう気が合う。

 最初は俺の頭や体格のよさを見てビビり気味だったけど、俺がおとなしいと知ると、フツーに話しかけてくるようになった。

 事故騒ぎがあったんで来てみるとコイツがいたから、いっしょに野次馬やってるわけだ。


「ああ、それはね……」


 俺よりも多少詳しい後藤に話を聞いていると、いきなり後ろから誰かがぶつかってきやがった。

 血溜まりのことが気になるから、少々イラだちながらふりかえる。


「あん?」


 どうやらぶつかってきたのはコイツらしい。

 大学生らしいのは服装でわかるが、なんともサエないやつだ。

 RPGの世界なら、まず間違いなく道端で『今日はいい天気ですね』なんて言ってそうだ。

 いわゆる『凡人』ってやつだ。


「ああ、いや……」


 と、何か言いかけた。

 が、その視線が事故現場の方を向いたかと思うと、凍りついたように動きを止めた。


「? おい……」

「う……うわあああああぁぁ!」


 ソイツはいきなり大声で叫ぶと、人だかりの中を一気に駆け抜けて行ってしまった。

 何でぇ、そんなことなら見に来なきゃいいのによ。


「なあ、それで? どうしてなんだ?」

「ほら、見てみなよ、被害者のあの男。左腕がないだろ? 実はひき逃げらしくってさ、道路にうずくまる被害者に運悪くあたって……」

「左手がぶっ飛んだってわけか……。ひでぇ話だな」


 さすがに少し青ざめながら、俺は答えた。


「ちょっとまてよ、じゃあその手はどこにあるんだ?」

「さあ。僕も最初からいたわけじゃないから……」

「へえ……」

「そんなことより笹島君、君は見た目が怖いんだから、もっと言葉遣いに気を付けないと、誤解されるよ」

「ああ、わかってるよ」



 ☆☆☆side浅原啓太☆☆☆


 やっと最前列まで辿り着けそうだ。

 背があまり高くないもんだから、まだ現場の様子がよく見えない。

 もうちょっとで視界が開けそうなんだが……。


 と、目の前に体格のいい奴がいる。

 髪も茶髪でチリチリだ。

 こいつにぶつかると面倒そうだから、迂回していこう。


 だが、そうはいかなかった。

 後ろの厚底履いた姉ちゃんがバランスを崩して倒れかかってきてしまった。

 普段なら嬉しい限りだが、今は事情が違う。

 何とか支えようとするが、ふんばろうにもそのスペースが無い。

 あれよあれよという間に、おもいっきりぶつかってしまった。


「あん?」


 気ィ悪そうに振り返る茶髪。

 予想通りガラ悪い。

 謝らなくては、と思うが、視線はついつい事故現場の方を向き、返事も適当になってしまう。


「ああ、いや……」


 現場は惨々たる有様だった。

 被害者は両腕で体を抱え込むようにして、うつぶせに倒れている。

 ただ、おびただしい出血のあとが、それは死体であると告げていた。


 もうぴくりとも動かないそれは、今はただ静かに、ここから運び出されるのを待っているようだった。



 どくんっ



 瞬間。



 闇が訪れた。


 光も音も無い、静かな、闇。

 街のネオンも、騒々しい群衆も、遠くからかすかに聞こえていたサイレンの音も、すべてが突然に抜け落ち、そこにぽっかりと、あの被害者と自分のみが取り残された。


(ああっ)


 自分が漏らした声までも、漆黒の闇にかきけされてしまった。

 ……いや、本当に自分が声を出したのかさえ、もうわからなかった。



 闇の中、それはゆっくりと起き上がり、こちらに顔を向けた。


(ひぃっ)


 その男には、顔が無かった。

 いや、もとは端整であっただろうその顔は、今は醜く歪み、もはや原型を留めてはいなかった。



 ……眼と眼が、合った。


「――――――――――――――――!」


 突如、男は声にならない声をあげ、こちらに両腕を伸ばしてきた。

 その腕はそのまままっすぐ伸びてきて……


「う……うわあああああぁぁ!」


 あとはもう、何が何だかわからなかった。

 ただ、この場から逃げ出したいと思い、全速力で夜の街へと駆けだした。

次回予告


謎のゾンビ軍団に支配された街を救わんと独り立ち上がる浅原の前に、突如として現れる怪しい科学者。

闘え、浅原! 街の平和を守るのだ!(ウソ)




↑この文章も、当時の文芸誌に掲載されていたニセ次回予告です。いっちょまえに連載してました。

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