プロローグ
文芸部に所属していた学生の時分に、エイリアンハンドシンドロームのことを知り、書き上げた小説です。
視点の主体が分かりにくいので、補足したのと、漢字を修正した以外はほぼ当時のままです。
現在にもまして未熟であって大変恐縮ですが、折角なので、少しでも多くの方の目に触れてもらえると嬉しいです。
なお、ストーリーの大きな流れは、高畑京一郎作「ダブル・キャスト」に多大な影響を受けています。
氏の作品はどれも大好きなので、よかったらぜひ読んでみてください。
4月20日 午後2時 キャンパス
☆☆☆side浅原啓太☆☆☆
大学にも慣れてきた。
もう次の教室を探して迷うことはなくなったし、いつ頃食堂に行けばすいているのかも分かるようになった。
次はまた、一般教養棟の方に引き返さなくてはならない。
「イッヒ、ヒッ。ドッハ、ハッ」
何だ、こいつは。
いきなり道端で変な笑い声出しやがってからに。
分厚い聖書のようなものを読みながら、何かブツブツ言ってやがる。
おりょ?
よく見りゃあ、同じ科の奴じゃないか。
確か、『北条久美子』とか言ったかな。
……あ、こっち向いた。
パッと見た感じでは、いかにも『科学者』っぽい。
ストレートの髪を肩先で揃え、ご丁寧にメガネまでかけている。
普段から不機嫌そうな顔をしていたが、今はなんだか疑わし気な顔でこっちを見ている。
いったい何を考えているのだろうか。
あら、今度は何かを思い出したかのようにうつむいて、またブツブツ言い始めた。
……こいつは絶対にオカルト女に相違ない。
☆☆☆side北条久美子☆☆☆
大学にも慣れてきた。
もう次の教室を探して迷うことはなくなったし、お弁当を食べるのにちょうどいい場所も見つけた。
構内には芝生がけっこうあって、遠足気分に浸る場所には事欠かない。
「イッヒ、ヒッ。ドッハ、ハッ」
……うーん、この舌の感じが分かんないのよね。
誰よ、ドイツ語が簡単だって言ったのは。
まあいいわ。
それより、さっきから視線を感じるのよね。
ってあれ、アイツ同じ科の奴じゃ……。
そうそう、確か『浅原』って名字の奴。
番号一番だから覚えちゃったのよね。
パッと見た感じ……うーん、いかにも『凡人』っぽい。
これといって特徴なし。
ちょっとやる気がなさそうね。
大方、なんとなく大学に来た口でしょ。
ま、人のこと言えた義理じゃないけど。
それよりも問題は、何で私を見ているか、ね。
ひょっとして、噂に聞くストーカーってやつじゃないかしら。
……んなわけないか。
そんなことより今は、ドイツ語、ドイツ語っと。