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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第5章 第十五次帝国戦役編
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第380話 順番に行こう(レイクタウン攻囲戦5)

「隊長、少しいいですか?」


「良くないけどいいよ」


「やっぱり、街の人間を残しておくべきだったのでは?」


「なんで?」


「城壁の外で敵と戦うには人数が足りませんから」


「カロンって見かけによらず倫理観低いな」


「隊長も似たようなもんでしょ」


「否定はしないけど、俺はそんなことしない」


「隊長の場合、足手纏いが増えるとかそんな理由でしょ」


「正解~」


 10月7日、今日も今日とてアラタたちは城壁の外で敵を待ち構えていた。

 自分たちがいない間に何か妙な細工でもされたらかなわないので、夜中のうちも最低限の人数は外側で見張りをさせていた。

 彼らは不眠で警戒していたので日中の戦闘に参加する予定はない。

 とりあえず、彼ら抜きの85名が301中隊の戦闘人数だ。

 アラタとカロンが不毛な会話を交わしている間にも、敵は段々と接近してきている。

 大通りを固めていた昨日とは打って変わり、彼らが本日担当する箇所は広範囲かつ細い路地に限定されている。

 マンパワーが活きる局面よりも、個の力が重要視される場面の方が中隊の性質を発揮できるとの判断だ。

 決してアラタが嫌われているから難しい箇所を任されたとか、主力戦から外されたとかでは断じてない。

 もしそうだとしても、彼らにフィットした任務であることは確かだ。


「隊長」


 大きめの民家の2階で待機していたアラタたちの所に、テッドがやって来た。

 始めは黒鎧を使いこなせていなかった彼も、黒装束が似合うようになってきている。


「おー」


「敵が街に到達しました」


「あと何分くらいでここまでくる?」


「5分です」


「おけ」


「指示は無いですか?」


「予定通り行こう」


「了解です」


 テッドはそれだけ確認すると、また階段を下りて行った。

 ギシギシと軋む床材が少し心配になる。

 テッドは軽いから問題ないが、アラタやアーキム、ヴィンセントあたりが思い切り踏みしめたら床を踏み抜きそうだ。


「また捕虜がいるんだろうなぁ」


「エルモさんもそう思いますか?」


「カロンもか?」


「そりゃあ、あれで終わりなわけ」


 2人の意見が一致したところで、バートンが会話に参戦する。


「奪還した捕虜はどうなったんだ?」


「死んだってさ。ねえ隊長?」


 エルモがアラタに話を振ると、彼は眺めていた刀を鞘に納めて机の上に置いた。


「2人とも3時間保たなかった。まあ出血も激しかったし、何より脳のダメージが大きすぎたってさ」


「拷問的なやつですか?」


 カロンはキィ、ダリル同様、それ系の話に造詣が深く、興味が強い。


「検死役の話だとそうでもないらしい。なあバートン」


「そうだ。まあ傷つけられたのは確かだから間違っては無いんだが……話では拷問の類は受けていないらしい」


「んだそりゃ。わけ分かんねえ」


 エルモがさじを投げたところで、ほぼこの話は終わり。

 他の面々もそれ以上何かを類推することはしなかったから。

 現時点での情報が足りず、不確実なものなので、それ以上議論を深める意義は無いと判断したのだろう。

 そんな彼らの所に再びテッドが駆け込んできたところから、今日の戦場は胎動し始める。


「アラタさん!」


「急ぎ?」


「屋根の上に来てください! 敵が!」


「おい、ついでにお前らも来い」


 アラタは駄弁っていたカロン、エルモ、バートンを引き連れてテッドと共に屋根の上に上がった。

 天井をぶち抜いて穴をあけておいたので、外に出るのはさほど難しくない。

 ロープで編んだ梯子を登ればすぐに屋上だ。


「おい、ちゃんと起動しとけ」


「はい、すみません」


 アラタに黒鎧がオフになっていることを指摘されたカロンが屋上に上がると、そこに広がっていた光景に一同は唇を噛んだ。


「隊長……これ…………」


「想定されてたけどよ、流石に早すぎるな」


 カロンは言葉を失い、アラタは敵軍の動きが早すぎると愚痴を溢す。

 エルモは仏頂面で彼方を睨みつけ、バートンは小さく舌打ちをした。


「チッ、あいつらしっかり前を固めているぞ」


「みたいだな」


 アラタが同意したように、帝国軍は徹底していた。

 彼らが何をしていたかというと、住宅工事。

 それも解体工事で、城壁の外側に広がっていた建物を端から壊して回っている。

 日本の建築基準をクリアできる建物は一つもないから、構造的に脆い分解体に懸かる時間は比較的短い。

 それでも仮にも人の住まい、もう少しこう躊躇というか、何というか。

 アラタたちが見たところ、1千からの兵士たちが土木工事に勤しむ傍ら、その前をさらに多くの帝国兵で固めている。


「結構しんどいっすね」


 テッドも状況のまずさは理解できるようで、アラタに語り掛けた。


「あーもう、あいつらマジ死なねーかな」


「それは我々の仕事です」


「そういやそうだった」


「どうします?」


 テッドは別にアラタにただ敵の動きを教えに来ただけではない。

 彼は既に司令部へ向けて伝令を送り、それから現場の判断を仰ぐために中隊長のアラタの所へやって来た。

 勿論アラタより上位の大隊長や連隊長の指示の方が優先されるが、何も指示がないのならアラタの判断で動いていいことになっている。

 彼は、アラタに作戦判断と行動命令を促すためにここにやって来たのだ。


「どうするって、そりゃあやめさせるしかないけど……」


「困ったなあ」


「俺の言葉取るんじゃねえよ」


 アラタの言葉を代弁したエルモが肩をすくめている間にも、時間は過ぎていくし家は解体されていく。

 街が更地になるということは、アラタたちがそうしているように市街地戦で使える場所が減るという事でもある。

 そうなれば公国軍の有利は一気に減ってしまう。

 夜になって帝国軍が一時退却したとして、翌日は昨日より少し進んだところからスタートする。

 そんなことになれば、遅からず城壁の外は壊滅する。

 とまあここまで考えればおのずと選択肢は定まって来た。


「敵を押し返そう。ただ相手にするのはフロントを守る方だ。数も足らねえし、今日は大隊以上で動く。大隊長にもそう伝えとけ」


「了解、失礼します」


「おう」


 攻囲戦2日目は、初日とは対照的に、両軍正面から激突することになる。


※※※※※※※※※※※※※※※


「ねぇ」


「なんだい?」


「行かなくていいの?」


「いいよ」


 天高く砂塵を巻き上げながら、レイクタウンの外縁部の戦いが始まっている。

 そこから500mほど東、つまり帝国軍の後続が詰めている指令所に、ディラン・ウォーカーとアリソン・フェンリルはいた。

 2人とも武装は全くしておらず、ディランは長椅子の上に寝っ転がり、アリソンはテーブルの上に頬杖をついていた。

 戦いに参加しなくてもいいのかという問いに対して、ディランの答えは無気力そのもの。


「ねぇ」


「だからなんだい?」


「早くしないと街が陥落しちゃうよ」


「それならそれでいいさ」


 また投げやりな返事。

 気分屋なディランのことなんていつまで経っても理解できないが、まあ何かあるのだろう。

 彼がこうして出撃しないうちは、自分も後方でのんびりできるから文句はない。

 しかし根が真面目なアリソンは、徐々に迫りくるタイムリミットを思い出すと、なんだかここでダラダラしているのが申し訳なくなってくる。

 だから、彼女は再三彼に問う。


「お気に入りが死んじゃうかもよ」


 ピクッと彼の眉が動いた。

 効果アリか? と彼女は畳みかける。


「モルトク達も参加しているから、もしかしたらぶつかってるかもよ」


「関係ないね」


「もしかしたらもう死んでるかも」


「アリさあ、こうもあからさまだと少し冷めるよ」


「あんたがこんなところで油売ってるせいでしょ」


「関係ないんだよなあ」


「何がよ」


 達観した風な雰囲気をなびかせるディランに、アリソンは毎度のことながらイライラさせられる。

 彼としては、カリカリしているアリソンの反応を面白がっているだけなのかもしれない。


「何よ、教えなさいよ」


「(これ以上引き延ばすと本当に起こりそうだから)焦らなくても教えるって。僕的にはね、まだ時間じゃないんだ。好きなものは最後に食べるタイプだからね」


「意味わかんない。あんた明日までしかいられないの分かってる?」


「勿論。でもそれは帰り道を普通の行程で行けばという条件だ。急げば半分で帰ることが出来る」


「私たちは明日で帰るからね」


「ご自由にどうぞ。まあでも、そんなことをしたら僕はいつまでもこの戦場に居座って、アリが呼び戻しに帰ってくる羽目になると思うけどね」


「あんた……ここで白黒つけてもいいんですけど?」


 アリソンの腰に差している杖に手が伸びる。

 普段使いしている大振りな魔術杖ではないが、彼女なら十分ディランと戦える。

 彼もそれは分かっているので、分水嶺を間違えるようなへまは侵さない。


「まあ、長くてもあと4か5日で帰るさ」


「十分長いわよ」


「まあまあ。とにかく、手順通り調理するのは大切なんだよ。何事も順番に行こうってことさ」


「せっかくの食材が焦げないといいわね」


「それはまあ、材料とシェフの頑張り次第かな」


「あんたが頑張りなさいよ」


「ダメだったら見込み違いだったってだけさ。まああり得ないけど」


 珍しいこともあるものだと、アリソンは思う。

 昔からそういうタイミングは時折あったが、最近は特定の誰かに対してそんな顔をしている。

 他人を信用はしても、頼ることは滅多にない彼が、他人の成り行きに身を任せている。

 単にそこまで執着していないようにも見えるが、その割には強い興味を示し続けている。

 それこそ今年に入ったばかりの頃、2月くらいからずっと。


 アリソンは、まだ見ぬ誰かが不憫になった。

 こんな変な男に絡まれて目を付けられるなんて、不幸以外の何物でもない。

 それに、先ほど興味の対象を食材に例えたこの男、調理が非常に荒々しい。

 仮にアラタを肉に例えるなら、まずミートハンマーでひき肉になるくらい叩き潰してから次の工程に移る。

 そして平気な顔をしてこう言うのだ。

 あー、見込み違いだったのかな、と。

 公国軍からすれば、この2人が参戦しないのは嬉しい限り。

 帝国軍からすれば、何やってんだと言いたくなる。

 そんな風に周りを振り回すことが出来るのも強者の特権だと、ディランは午前中の昼寝に入る前に呟いて、笑った。

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