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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第3章 大公選編
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第110話 行き止まりへ向かって

 両者の初撃は共に外れた。

 躱しながら斬る、風切り音と共に剣と刀は空振り、続くアクションに入る。

 刀の使い手は振り下ろした位置から斜めに斬り上げ、剣の使い手は一歩前に踏み出し距離を詰めた。

 加速しきる前の腕の振り、左手でアラタの手と攻撃を押さえると、開いた右手には切れ味鋭い両刃の剣。

 敵の左肩から斜めに斬り下げる、そうするべく弧を描いた剣はまるで血に飢えた獣のようにアラタへと襲い掛かる。


 だが距離が近すぎる。

 前に踏み出したのはイーデンだが、両者にとってこの距離は少々戦い辛く、右腕を蹴り上げられた彼の攻撃は不発に終わった。

 すかさずアラタの左ジャブが顔を捉え、そこから拳を開き、目を潰すためにその場所を探る。

 引っかかるような感触を得ると、左手中指を思いっきり、力の限り引っ張り、グチュッと嫌な感触が伝わっていく。

 眼球だったものと血液が滴り落ち、右手を押さえる力が緩むと片手で逆胴を撃ち込む。

 しかしこれもまた空を斬る。

 通過した軌道上にイーデンの姿はなく、しゃがんだ状態で右目を押さえている。

 痛覚軽減があるとは言え、眼球を失った衝撃とダメージは計り知れないということか。

 それでも彼には【自動治癒】がある。

 先ほどまでの戦闘からして、致命傷クラスの負傷でも回復可能な代物、一撃入れたアラタは畳みかけるべくサッカーボールを蹴るように右足を振りぬいた。

 ミシリと骨の軋む感触、実際にどうだったかは分からないが、アラタの感じた感触は衝撃として敵に伝わり、彼の手から剣を手放させる。

 仰向けに吹き飛びながら、イーデンは舌を巻いていた。


 ここまで……少し過小評価していたのか。

 なるほど、猟犬が単独この戦況を任せるだけはある、中々に面白い。

 だが、それでも…………


「B2! 決めるぞ!」


 サシで戦っていたが、元は多対一、何もおかしなことではない。

 勝機が見えた、ここで決める、アラタの決意は力となって刀に魔力を宿す。


 ————勝つのは私だ。


 ————殺す。


 全身全霊で殺りにいった一太刀、イーデンは宙を舞っていたのだ、躱しようがない。

 着地点は砂塵に覆われ、2人の姿を覆い隠してしまう。

 アラタの合図を受けたが、最後の一撃を見舞うその瞬間には間に合わなかったルカ、彼女は仲間の元に行くか判断に迷い、そして、


「……そうか! 魔術を」


 ルカは掌に魔力を集め、水弾を作り出す。

 もしアラタが勝っていれば、水弾は通常の威力で生成されるはずだ。

 集約された力はやがて形を成し、敵を穿つための水塊へと姿を変える。


「くそっ、ダメか」


 彼女の答え合わせの結果、敵はスキルを起動したままだということが分かった。

 魔術は不発、コントロールミスをした感触はない。

 【魔術効果減衰】、このスキルが厄介であることはハナから知っていたが、フレディが限界を迎えた今ここまで追い込まれるとは考えていなかった。

 そしてそれはアラタも同じだ。

 まさか今の攻撃が防がれるとは、しかも剣は既に手放しているはず、しかし刀を介して彼に伝わる感触、それはまごうことなき金属の塊。


「手品かよ」


「いいや? エクストラスキル、【第4袋】だよ」


「ダサッ。あっ、やべっ」


 日本ではさほどではなかったが、異世界にやって来てから口が滑り失言の多いアラタ・チバ。

 プレッシャーに晒される日々から解放された反動からか、本音を口にしてしまうことも増えた。

 エクストラスキル、極めて稀有な能力。

 しかも多くの場合、自分で名付ける機会はなく、初めからその能力の銘は決まっている。

 アラタの所持する効果不明のスキル【不溢の器(カイロ・クレイ)】も同様に、恐らく【第4袋】という名前もイーデンが考えたわけではないのだろう。

 アラタにはブチッと血管、もしくは堪忍袋の緒が切れた音が確かに聞こえた。

 エクストラスキルの効果はその名を嘲笑した不届き者に容赦なく襲い掛かることになる。


「踊れ」


 いつの間にかイーデンの手には剣が握られていた。

 しかしよくよく見てみると、その剣は先ほどまでアラタと斬り結んでいた際に使用していたものとは少し異なる。

 刃渡りなどの寸法はほとんど同じだが、装飾が違えば刃の造りも違う。

 ではいったい彼はどこからその剣を出したのか。

 元から所持していた?

 ではどこに?

 彼は剣を一本しか持っていなかったはずなのだ、それはアラタだけでなく特配課のメンバーたち全員が確認済だ。


 その答えはアラタの目の前、というより全方向にあった。


「ドラ〇もんかよ」


「ドラ……? 分からないが、異空間に収納した物品を出口に置いた状態で、空間を閉じたらどうなると思う?」


「え…………真っ二つ」


「不正解だ。答えは身をもって知るといい」


 風を切る音が聞こえた。

 その次の瞬間には、俺の足元に剣が突き刺さっていて、この能力のヤバさが分かったんだ。


 走り出す。

 アラタは一目散に走りだした。

 どこに? そんなもの決まっているはずがない。

 ただ、走らねば、飛来する剣を躱さなければ、彼は串刺しになって死んでしまうから。

 真正面からの剣は見えにくい。

 前に落ちるのか、上を通過するのか、どれくらいの速度なのか、どれくらい大きな剣なのか、とにかく全てが分かりづらい。

 後ろ? 横? そんなものは論外だ。

 見えていない攻撃をどうやって躱せばいいと?

 イーデンは【自動防御(オートガード)】で見切ることが可能だが、アラタはそんな能力を持っているわけなく、クラスにも恵まれていない。

 見た物しか見えない。

 そんな当たり前の人体の常識が致命的な差となって彼を追い詰めていく。


「ははは、滑稽だなアラタ君。結局のところ、君の歩む道は行き止まりなのさ」


 次々飛来する剣。

 小ぶりなもの、普通のもの、誰が使うんだというくらい大きなもの。

 それを躱し、いなし、叩き落し、回避し続けるアラタには彼の声に反応する余裕などない。


「ダンジョンでの一件、仕組んだのは私だ。君は死んだと報告を受けていたが、生きて帰ってきた時は落胆したものだよ」


 ……うるせえな。

 そんなこと知らねえよ。

 行き止まり、そんなこと分かってる。

 俺は昔からそうだ、どんなに頑張ってもその先にあるのは例えようのない絶望だけ。


「このまま生きていけば君もいつか、私と同じ道を歩むことになる」


 だからうっせえな。

 勝手に重ねて、勝手にシンパシー感じてんじゃねえよ。


 無限に続くかに思われた一方的な攻撃、その終わりは突然訪れた。

 剣のストックが尽きたわけではなく、アラタが倒れたわけでもない。

 空間が歪み、その歪みから湧き出ていた武器の数々、その動きが突然、錆びついた自転車のチェーンのように、その動きを止めたのだ。

 高速で射出されることなく、ただ亜空間から剣がぬるりと出てきて、地面に落ちる。

 そのどれもアラタの方を目指して飛ぶことは無く、何が起こっているのか分からずともこのチャンスを逃すまいと前に踏み出す。


「行けB5! これで決めろ!」


 ほんの少し、ほんの僅かな時間、アラタは自分の側面にいるB2、ルカを見た。

 その両手は空を掴み、決して逃すまいと力の限り握りしめているように映る。

 鼻血が垂れているが、それを拭う余裕など微塵もなく、彼女の眼は充血していた。

 どうやったのかは知らないが、何らかの方法で彼女はイーデンの【第4袋】を妨害しているようだった。

 長くは持たない。

 フレディがそうしたように、今回も敵のカードを一枚無効化している状態だが、このチャンスは短く、そして2度と訪れないことを知っていた。


 ここで決める。


 一直線に駆け抜け、彼の通った後には土埃が舞い上がる。

 全身全霊、己の全力を懸けて紡ぎだす渾身の一撃。

 下半身は地面を駆けつつ、上半身は時計回りに90°程捻り、左手は顔の前で構える。

 刀は大地と水平に、鋒は無論敵を捉えていた。

 間合いに入る。

 近接戦闘に強みがある歴戦の剣士に対して、剣で勝負を挑んだ。

 右足が相手の間合いに入った瞬間、足元を薙ぐ攻撃がアラタの目の端に映った。


 ……ここだ。


 身体強化をかけた全力疾走、勢いそのままのアラタは慣性の働くまま空中に足を浮かし、両足を入れ替える。

 先ほどより強く、強く、大地を踏みしめた左足。

 小学生で野球を始めてから、何回何十回、何百回何千回、数えきれないほどの数踏みしめてきた踏み出しの足。

 それと同時に右足を引き、後ろ側に固定する。

 少々イレギュラーな形だが、最終的にはもっとも慣れ親しみ、力を込められるフォームに落ち着いた。

 股関節から力を解放し、骨盤の旋回運動と連動させて左手を握りしめながら引く。

 それを受けて下半身とのねじれが発生、少し遅れる上半身、そこには下半身に蓄積されたありったけのエネルギーが注ぎ込まれるのだ。

 今回イレギュラーというのは、右腕の(しな)りを使うことが出来ないという点である。

 肩より少し低い位置に構えられた刀は左手が後ろに下がるのに対応するかのように、全身のありったけの力を乗せて繰り出された。

 怖いくらいに、それでいてこれ以上ないくらいに美しく突き出された究極の一撃。

 当然魔力も乗せられていて、刀の性質も相まってガード不可の刺突をアラタは生み出すこととなった。


「っらぁ!!!」


 裂帛(れっぱく)の気合を、ありったけの殺意を、溢れんばかりの敵意を、それでいて、自分の限界をここまで引き上げてくれた好敵手に感謝を。

 それら様々な思いを込めて、まさしく万感の思いを込めて刀は剣脊で防ごうと試みたイーデンの大剣ごと彼の身体を貫いた。

作者的にこの戦闘シーンは結構好きです。


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