第11話 説得と諦念
久しぶりの掲載となりますが活動報告にありますようにまた毎日更新しますのでどうかよろしくお願いいたします。
「……で、この方が盗賊達を相手にしている間に村を襲ったゴブリンを掃討、クエスト完了ということですか?」
「だからさっきからそう言っているだろう! いい加減信じてくれ!」
まあこうなるか。
さっきからリーゼさんが説明、ギルドの責任者が確認、しびれを切らしたノエルさんが喚き散らかすというサイクルを繰り返しているがこの時間、俺の人生の中でトップクラスに不毛な時間だ。
責任者もひとしきりノエルさんが文句を言い終えるのを待って再び反論する。
「ゴブリンと連携する盗賊、その盗賊を一人で抑え込み壊滅させた村人、不自然と考えるほうが自然なのでは? お二人とも、指摘されると分かっていたからこの方にご足労願ったのですよね?」
ぐうの音も出ない。
防衛戦のごたごたは結構ややこしい、それもこれも俺の身元を隠そうとしているからなのだから俺から何か言うことはできない。
いっそのこと俺が異世界人だとカミングアウトしたほうがまだ納得してもらえるかもしれない。
まあ、それはそれで無理なわけで、ここは2人に頑張ってもらおう。
アラタはだんまり、ノエルは役立たずなので実質的にこの場で話し合いをしているのはリーゼと責任者である支部長だけなのだがリーゼは何かに諦めたように切り札を切った。
「支部長、これから話すことはどうか他言無用にお願いしたいのですが」
「それはクラーク家としての要請ですか? それともあなた個人のものですか?」
クラークケ? 何のことだ?
「クラーク伯爵家からの要請です、必要ならば書状も用意します」
クラーク家か、2人とも名前しか名乗っていないけど苗字くらい誰にでもあるよな。
伯爵家ってすげー、今もあるの……ここ日本じゃなかったな。
自分を取り残してどんどん進んでいく状況に軽い思考放棄状態にあるアラタを放置しながら話は進んでいく。
「分かりました。では状況説明をお願いします」
「はい、今回Cランクの私たちがEランククエストを受けたのは件の盗賊をクレスト家が追っていたからなのです。そしてここにいるアラタさ……アラタが内偵としてレイテ村に潜入調査を行っていたのです」
「そうな――」
辛うじて現世に残っていた聴覚で捉えた情報にそのまま反応しかけたアラタの口を塞ぎながらリーゼは話を続ける。
後はいつ書類を提出できるのか、なんて話をひとしきりしていたが内偵云々の話で正気に戻ったアラタはノエルのことを眺めていた。
どこまで本当の事なんだろうなと思っていたけど多分あれだ、全部嘘だ。
さっきからノエルさんがウンウン頷いているけどこの人何にもわかっていない、一目でわかるぞ、そのしぐさは俺が大学の講義の時によくやるそれだ。
「なるほど、事情については把握しました。では今後アラタさん? もあなたたちのパーティーに編入と言うことでよろしいですか?」
「いえ、俺はこれで――」
「はい、そういうことになります。アラタは冒険者ではないので登録の方お願いしますね」
「もがもが! もごごもがぁー!」
「全く、興奮しすぎですよ? ほら、早く登録を済ませてきてください」
なにこれ、やだこれ、こいつ、マジで力が半端ないほど強えぇ!
アラタはなんとかして逃れようと抵抗するが全く歯が立たない。
彼とて高校時代は剛腕で鳴らした全国屈指の投手、パワーにはそれなりに自信があったのだがなす術もなく部屋から引きずり出され1階に下ろされてしまった。
行きにノエルと手をつなぎ、帰りはリーゼと密着しながら下りてきた男にギルド内の大部分を占める男性冒険者諸君は敵意むき出しと言うより殺意むき出しだ。
尋常ではない肩身の狭さを感じながらアラタはニコニコ笑うリーゼに抵抗することすら許されず冒険者登録をしてしまった。
Fランク、それがアラタの冒険者ランクでありそれは完全な初心者であることを表す。
通例ならば実力を見極めそれに応じた等級からの出発が普通なのだがそれには準備が必要で明日行うこととなりとりあえずFランクのまま登録と言う運びになったのだ。
Fランク冒険者としての身分証を渡されこのちっぽけなカードが俺の身分を保証する唯一の物か、と自らの存在の儚さに自己憐憫の感情が渦巻いていた。
「F……アラタ」
「ひっ、な、なんですか」
「アラタだな」
「クラス測定は明日らしい」
「楽しみだぜ、もししょうもないクラスなら……」
最悪だ、もう身バレした。
「アラタ! 行きましょう!」
「あの……俺」
「アラタ早く! まずは宿で食事だ!」
なんとなく事情は把握した。
どうせあれだろ、今まで女性二人組のパーティー、チームとして誰の誘いも受けずやってきてそれなりに男冒険者たちに人気のある二人の側に急に現れたぽっと出の男。
ヘイトを買いまくるのは目に見えている。
アラタは大体の事情を理解しつつパーティー編入、冒険者登録完了という事実を受け入れられないまま槍のように突き刺さる視線を背にギルドを後にした。
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「おい、ちゃんと説明してくれるんだろうな? ただ説明するだけじゃない、ちゃんと俺が納得する説明だぞ?」
「はい、もちろんですよ。これから同じパーティーとしてよろしくお願いしますねアラタ!」
「違うでしょうが! いろいろ省き過ぎでしょうが! その前! もっと前! ちゃんと説明してくれよ!」
宿に到着し部屋を用意してもらう、もちろんアラタは金など持っていないのでリーゼの手持ちで。
その上で併設されている食堂で席に着くなりアラタは納得する説明を求める。
「冗談です。ええとですね、クエストのくだりはまあ嘘なのですがそれもこれもアラタ、すべては貴方の為で貴方は私たちに借りがあると思うのですが?」
「さっきから思ってたけどリーゼさんって結構ぐいぐい来るよね、押し強いよね、ていうか力も強いよね」
「ダメですか? それよりも借りの話、アラタはどうするんですか?」
くそっ、適当に話を逸らそうとしても頑なに貸し借りの話から話題を変えようとしない。
実際かなり痛いところなんだよ、そもそもこの二人がいなければ俺はこの世界に来て早々に死んでいたんだ。
それを助けてくれた上にここまでしてくれて、まあ余計なこともたくさんしてくれたわけだけど。
「で、ででもレイテ村では俺だって頑張ったじゃないか。これで貸し借りの話はなしだろ」
「確かに。でもぉ、私たちはアラタの秘密を……どうします?」
最悪だ。
間違いなく最悪の悪女に捕まってしまった自信がある。
この人、善意とか義務とかより明らかに打算と言うか損得勘定の方が勝っている。
異世界人の俺を意地でも手元に置いておくという強い意志がビンビン伝わってくる。
交渉にすらならない、そもそも持っているカードの強さも枚数も違い過ぎる。
アラタが次の手を考えながらうめき声をあげ、それを勝ち誇ったように見るリーゼ。
そんな時、今まで黙っていたノエルが口を開いた。
「リーゼ、やっぱりリーゼにそんな態度は似合わない。ちゃんと話そう?」
「ノエルがそう言うのでしたら……私はそれに従いますが。あなたが言い出したんです、説得をお願いできますね?」
「もちろんだ。アラタ、私たちがアラタを勧誘している理由は二つ。一つはアラタの秘密と同じ、もう一つはレイテ村での戦果を見込んでのことだ。打算的な意味も少しは、いやかなりあるが代わりに私たちに出来ることは手伝うと約束する。勝手に話を進めてすまないと思っている、でもお願いだ。私たちとパーティーを組んでほしい」
意外だった。
まさかこんなにはっきりと正面から言ってくるとは思わなかった。
むしろリーゼさんみたいな話の進め方をしてくるだろうと思っていて途中までそうなっていたから少し面食らった。
多分俺のいない所で二人で打ち合わせして、実行犯はリーゼさん、ノエルさんはボロが出るだろうから黙っているように言われたのかな。
結局全然我慢できていないじゃないか。
…………でも悪い人じゃないのかもしれない。
エイダンも二人を頼れと言っていた。
信頼できるのか正直まだ疑わしいけど、かなり微妙だけど少しは信じてみてもいいのかもしれない。
一応断ることもできるけど、後で何されるか分からない怖さがあるし何のツテもない俺にとってこの申し出は悪い話じゃない。
アラタはこの街に着く少し前のことを思う出していた。
ギルドで説明をしてハイさよならとはならないだろうという予感は見事に的中した。
なんでこういう予想だけは当たるのだろうか、全く、もし前世があったのならよほど俺はろくでもない人生を送っていたんだろうな。
というかノエルさんのこんな自信と期待に満ちた顔を見せられて断れるほうがどうかしている。
アラタは異常に長い溜息をついた後息を吸い込む。
「負けました。これからチームとしてよろしく」
「ああ! これからよろしく!」
「チームじゃなくてパーティーと言うんですよ。日常的なサポートの方もお願いしますね」
あれ? 日常的なサポートって俺がしてもらう側じゃなくて? 何か日本語が変だな。
「あの、日常的なサポートって一体……」
「明日アラタはクラス測定だから、その後ギルド集合にしよう。じゃあ今日はこれで!」
「あ…………ちょっと……聞いてないか」
アラタの疑問は晴れないままその場から二人は去ってしまい取り残されたアラタも席を立つ。
リーゼの名義で借りて支払いもしてもらっている部屋でアラタはベッドに座り明かりもつけずに考え始めた。
ベッドはそこそこいいものを用意してある部屋みたいでアラタの体重を受けて程よく沈み込んでいる。
やっぱりおかしい。
2人は俺に苗字を名乗らなかった。
まあ苗字を言わないこともあるだろう、それはいい。
でも、支部長の二人に対する言葉遣い、伯爵家、その家のリーゼさんがノエルさんには遠慮と言うか主従みたいな振る舞い、エイダンの様付け、うん、やっぱり変だ。
やんごとなき身分の人間、そんな人とかかわった経験なんて皆無だけど多分そういう人たちなんだろうな。
「どっかで選択ミスしたのかなぁ」
上を向いてそう呟いたアラタの声はそのまま天井に吸い込まれて消えていった。
「……もういないですよね」
「いたら盗聴で捕まえるところだ。乙女の密談を盗み聞きするやつは許さん」
「その点アラタは大丈夫そうですけどね。ノエルはなんであの時乗り気だったんですか?」
「別に? 異世界人、才能がありそう、男性。護衛を増やそうと父上に頼んだのだが誰も手が空いていなかったんだ、運命じゃないか?」
「アラタも随分と迷惑な運命に当たってしまいましたね」
「うっうるさい。とにかくこれでアラタの秘密を守りつつ私たちも利益がある、お互いメリットがあっていい話じゃないか」
「可哀想なアラタ。まあそれはそれとして明日のクラス測定楽しみですね」
「ああ! 私たちの仲間なんだ、勇者とか出るかな?」
「ふふっ、勇者が出たら逆に大変じゃないですか」
「それもそうだ、おやすみリーゼ」
「はい、おやすみなさい」
リーゼは目を瞑り願う。
クラスに関してもそうだがアラタがノエルをサポートできるような完璧人間でありますように、と。
アラタと同年代にして多大な苦労を強いられている女性の願いを神は叶えてあげるのか。
きっと天上から眺めて爆笑しているに違いない。
なんか書いていてアラタが不運すぎるように思えてきました。




