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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第3章 大公選編
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第103話 本気で鍛える

「クリス! エスト! シーツ! ……ええい、分隊長は全員集まれ!」


 訓練初日、開始数時間、昼休憩を取っている最中に隊長のノイマンが分隊長に集合をかけた。

 分隊員たちは誰か問題を起こしたのか、連帯責任で罰があるのか、そんな不安に駆られたが、彼らの心配は杞憂に終わる。

 ノイマンが彼らを集合させたのは決してネガティブな原因からくる理由ではない、むしろ逆だった。


「クリス、B5の様子はどうだ?」


「……B5では持て余すほどです。正直表の人間と侮っていました」


「他はどう思う?」


 B5、このコードはB分隊の第5席、アラタのことだが分隊長であるクリスをして持て余すと評価された。

 持て余すと言っても決してマイナスな評価ではなく、彼を分隊の末席に座らせておくのはもったいないという意味での発言である、彼からすればこれ以上ない褒め言葉だ。

 もっとも、待機中の彼は今、平隊員たちに何をしでかしたのか追及され、予め罰を行ってしまおうと腕立て伏せの最中にある。


 何も知らない彼らのおふざけは無視するとして、分隊長たちは冒険者アラタを舐めていた。

 Eランク、新人、Cランク冒険者2人にくっついて等級を上げたヒモ、そんな認識であり、現に彼らは決闘騒動のゴタゴタでアラタを袋にしている。

 他対1という不公平な構図だったが、彼に致命傷を負わせないように各々が立ち回り、実質完封したのだ、当時のアラタに対する評価としては間違っていない。

 しかし、男子三日会わざれば刮目してみよという言葉があるように、日々の鍛錬、ダンジョンでの死闘、それらを乗り越えてきたアラタは以前と比べまるで別人である。

 取り戻した運動センスも、思考力も、観察力も、身体能力も、スキル構成も、魔術の幅も、戦い方の種類も、すべてが大幅に増強され現在の彼は戦闘力であればCランク一歩手前、Dランク上位に位置している。


 ただまあ、これだけなら彼は強くなった、強い隊員を迎えたB分隊は羨ましいな、その程度で話は終わる。

 ノイマンやクリスが彼を評価するのは別の理由があった。

 彼はこの短期間、実質1日と少しで各種サインや合図を暗記し、それを実行できるまでになっている。

 つい昨日、全く機能しない団体行動を一日中行い怒られに怒られたばかりなのだ。

 敵情報の共有も、陣形の伝達も、細かい位置修正も、メンバーのカバーも、昨日とは比べ物にならず、本当に別人なのではと疑うほどだった。


「Cに欲しいです」


「Eもです」


「はーい、Gの分隊長代わって欲しいです!」


「フィン、お前は腕立て伏せ50回、始め」


 調子に乗って分隊長を譲ろうとしたG分隊長フィンが顎を地面につける腕立てをしている間、結局アラタはB分隊に据え置き、遊びを持たせることに決まった。

 どこかにコンバートするより、もとより余っていた人材、自由に動かせるならその方がいいという判断だ。


「訓練再開! 模擬戦、ACDEF対BG! 始めるぞ!」


「ちょ、隊長それは……」


 明らかに不公平な戦力調整、B分隊長のクリスが抵抗感を露にする。

 この手の訓練を行うことは普通にあるし、クリスもそれは百も承知だ。

 しかし、先ほどの会話の後のこの訓練、ノイマンは明らかにアラタの力を測る為にわざとアンバランスな戦力にしており、その時割を食うのは自分だと理解したのだ。


「開始!」


 クリスの抵抗むなしく、互いに40mの距離を置いて模擬戦を開始する。

 武器は普段使用しているものではなく、刃引きを施してある刀剣類もしくは木剣や先を布でくるんだ槍だ。

 壊れないアラタの刀とは違い、彼の手にある木剣は適当に魔力を流しただけで自壊して使い物にならなくなる。


 ……遅滞行動、適当に交戦した後うしろの茂みで潜伏か。


 訓練をしている森は未開拓領域と隣接、というよりそのまま繋がっていて彼らが今いる場所のように木の生えていない開けた場所もあれば、鬱蒼と木々が生い茂るエリアもあった。

 交戦開始した場所は訓練前に整備した拠点付近、そこで倍以上の敵を迎え撃つわけにもいかず、適当に下がりつつ潜伏し、各個撃破、これがBとGの分隊長、クリスとフィンの決定である。

 クリスが土の壁を出現させ、相手の視界を遮る。

 その間にG分隊は後退、茂みに身を隠し援護体勢に入る。

 そこまでくれば敵も土の壁を破壊、向こう側にB分隊5名の姿しかないことに気付き、散開し索敵を行う。

 黒装束に身を包み、隠密行動に適した装備は索敵難易度を大幅に引き上げる、一度隠れられたら見つけるのは骨が折れる。

 AC分隊は待機、DEF分隊がB分隊と交戦を開始した。

 彼らが本気で押せば、この人数差でB分隊は抵抗する術を持たず殲滅される、いつもならそうだった。

 そして今のB分隊は1人増えただけ、ほとんど影響はない、だからこそいつもと同じ攻勢に出たわけである。


 む、4人? 1人足りな……


 E分隊長、アガが違和感を感じた瞬間、背後に風を感じた。

 秋の空気をかき混ぜ、暖かい空気と冷たい空気を織り交ぜて、人為的にゆがめられた大気の流れは不可視の結界を構築していく。


「結界!」


 アガは声をあげ警告したが、とうに結界は組みあがっている。

 そして、


「急襲ーっ! G分隊が来ました!」


「DB! EFG! 当たれ!」


 エストが指示を飛ばし、先ほどに比べ戦力差の縮まった限定的な戦場が戦端を開いた。


「結界の縁から戻るぞ!」


 AC分隊、彼らの目の前に広がる結界は短時間と言えどダンジョンで()を足止めしたものに磨きをかけた代物、ノイマンもその強度は認めており、破壊より迂回を選択した。

 結界は横一直線に伸びており、そこにはいつか縁があることを意味している。

 身体強化をかけた肉体なら端に到着し戦線復帰するのにさほど時間はかからない、合理的だった。

 もとより向こう側も人数的には何ら問題ないのだ、ノイマンらが有利であることに変わりはない。

 しかし、それはあくまでも彼らがいつでも救援に駆けつけることが出来るという状況であるという前提がある。2分隊対3分隊であれば時の運一つで勝ちは入れ替わる。

 だからこそプラス2分隊を投入し迅速に敵を殲滅する、ACDEF分隊側の想定だった。

 その思惑は結界の角に到達したときに崩れ去り、彼らにある種の確信を与えるに至った。


「まさか……この規模の結界を!? バカな、B5の魔力量はそこまで大きくは」


「火球を打ち上げてCに合図しろ! 我々はここから侵入を試みる!」


 A3、ガスが杖の先から火属性魔術、火球を打ち上げ一帯に合図を送る。

 まず一発、異常事態を知らせるための合図、そして一呼吸置き、続けて二発打ち上げる、これは『待機する』という合図が転じてその場で結界の破壊を試みるという意味だ。

 それに呼応して、反対側の結界の角から二発、火球が打ち上げられた。

 命令の復唱、了解を意味している合図を確認すると両分隊は行動を開始する。


 アラタの結界は一枚の紙のように、壁のように構築されていたのではなく、そう見せかけた箱型の結界だった。

 AC分隊から見れば正面の結界は森の中にまで続いており、そこに結界の効力が切れた端があると考えるのは当然である。

 しかし、実際にはBDEF分隊のいるエリアを四角形に取り囲んだフィールドを形成していた。

 熟練の魔術師や、ハイレベルなクラスに目覚めた人間ならそれも理解できる。

 特配課のメンバーに同じ結界を張れと命じたら半分以上は同じものを作ることが出来るだろう。

 想定外なのはその結界をB5,アラタが張ったことだ。

 把握している彼の魔力量、魔術回路の操作精度では壁一枚が限界だろうと思われていた。

 もはや彼に対する事前評価は機能不全に陥っている。

 結界を破壊し、2分隊が戻ってきた時、BG分隊はB4ドルフ、B5アラタが戦闘不能になっただけでF分隊全滅、D3ロンが戦闘不能判定を受けていた。

 敵2個分隊は姿を消し、この時点でこの訓練は一区切りとなる。


「終了!」


 ノイマンの号令により茂みから2分隊がガサガサと草木を擦りながら出てきた。

 木剣が折れている者も中にはいたが、それだけでは死亡判定はされず、健在のままだ。

 今回の訓練、クリスが土の壁を構築した時点でこうなる手はずになっていた。

 逆に言えば、ノイマンらは相手の意図を測り違えたことで致命的な失敗をしたのだ。

 アラタの技量を測り損ねた、それが今回の負けの原因であり、その結果は特配課全体にある事実を共有させるに至る。


 特殊配達課、B5アラタは頼れる仲間であり、彼の加入は非常に強力なものである、と言う事実だ。


 一区切りつき、訓練である以上ペナルティの清算に移る。


「えー、ACDEF分隊、新人にいいようにされるとは我ながら情けない! 腕立て250回!」


「にひゃっ!?」


「なんだC3,イノク、不服か?」


「い、いえ。ただどういう計算なのかと」


 イノクは槍を使うアラタよりも少し若い少年だ。

 魔術は苦手だが、間合いの長い武器で近距離の撃ち合いにその外側から入ることが出来る使い手だ。


「こちらは20人、向こうは9人、アラタは新人だから8人で2.5倍、だから250回だろうが」


「は……アラタはもう一員だから2.2倍では……」


「なるほど、イノクは300回やるそうだ! アラタ、背中に乗ってやれ!」


「はい! 了解であります!」


 死亡判定を食らいはしたものの、殊勲の功績を上げたアラタはノリノリでイノクの背中にまたがり、地面からつま先を離した。

 大柄なアラタの体重を支えるには生身の力では足りず、身体強化を発動せざるを得ない。


「ふぐぅぉぉぉおおお! 13回!」


「あと287回だ! 頑張れイノク!」


「やかましい!」


 こうして訓練は続いていく。

 アラタの力を認めた特配課の面々は、切磋琢磨し、そして所定の日程を完了した。

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