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典型的な世界で生きていく  作者: 糸島荘
9/15

1-9 上位

 スマホに搭載されている機能は2つある。1つは魔導書、もう1つが知識書である。知識書は文字を入力するとその物の情報が手に入るのだが、文字を入力しなくとも知りたい物をスマホに映し出せば情報が出る事が、色々触ってみた結果わかった。


 男をスマホで映すと色々な情報が現れる。スマホの大きさは15cmほどなので、映し出される情報は限られてくる。その中でもエマが注目したのは「ステータス」と書かれている部分だ。


「ステータス」というのは映し出した生物の能力を、数値で現したものだ。筋力や魔力量などが全て数値化されている。しかし、今回注目したのは数値ではなく、その下にある「状態異常」と書かれている欄だ。もし病気や怪我をしていればここに表されるはずだ。


 (カースド・アーティファクト?やっぱり見た事がない状態異常ね。でもこれはきっと呪いに類する、それも強力なものね)


「おい、なんだそれは。お前が出来る事は何もないんだ。余計なことをするな!」


「し!静かにして。今、探してるから」


「探してるって、何をだ。おい、聞いてるのか!」


 上位に位置する魔法や魔術は確かに効果が高い。しかし、その分魔力の消費量が高く、繊細な魔力操作が必要となる。魔術の場合は魔力操作の部分がないので、魔力量が足りるなら魔術を発動出来る。


 光属性魔術の中で、目についた魔術は3つほどある。『浄化の光』、『月光』、『光輝の体』。この中で今すぐに使えるのは『浄化の光』と『光輝の光』だ。『月光』は月の出てる夜限定だが、あらゆる傷を治すと書いてある。『浄化の光』は中位魔術だが割となんでも確率で治せるらしい。


(割とってなんだよ、中々に雑な説明だな。しかも確率で治すって嫌な魔法ね)


 最後に残った『光輝の体』は上位魔術で、体が光り輝くとの記述がある。もちろん上位魔術である以上、それ以外の効果があるとは思われる。しかしそれ以上の記述はないので、使ってみない事には効果がわからない。


「……これにするか。私達を殺そうとした上に、私を馬鹿にしたのだから死んでも良いや」


「何を言ってるんだ!っておい、まさかここで魔法を使うつもりか!」


 警備隊が騒いでいるが、魔法陣を押したエマをもう止める事は出来ない。男に向けて翳した右手の先から白色の魔法陣が現れる。魔術は基本的に名を呼ぶ必要はない。だが気合が入るのでエマはいつも名を呼んでいる。


『光輝の体』


「ッ!」


 魔術を受けた男の体は説明の通り、体が発光し始める。突然、男が光だしたので警備隊の2人は騒ぎ始めるが、エルナーは光から顔を逸らしただけで何も言わない。警備隊2人は地下の薄暗い環境で強烈な発光を唐突に受けて、一時的に目が見えなくなっているのだろう


「何の魔法を使ったんですか!悪戯なら今すぐこの魔法を止めて下さい」


「エルナーさんも黙っていないで止めて下さい!くそっ」


 魔術を使ったエマでさえ、目を向けられないほどの発光を始め、両手が塞がれているエマは目を瞑る。悪態をついていた男も魔術が発動した後は何も喋らず、なすがままだ。


 時間にして1分程経った後、何かが破裂した音が鳴り響く。エマにだけ聞こえた音ではないらしく、警備隊の声がまた大きくなる。


『対象の治療が完了。魔術を自動的に終了します』


 それを遮る様に謎の声が辺りに響く。それと共に光が瞬間的に停止する。エマが目を開け周りを見渡すと、警備隊2人は相変わらず目が見えない状態で騒いでいるが、エルナーとルナは光を発した男を観察していた。


「ふむ、僕がつけた傷が完治している。しかもこいつを蝕んでいた悪い何かも無くなってるね」


「はい、私もそう思います。姉さん、どうやったの」


「私にかかれば……こんなも……の……」


(視界がぐらつく。これはアレだ。魔力の使いすぎだ……)


 そのまま限界を迎えたエマは意識を手放した。意識を手放す瞬間、ルナが叫んでいた気がする。



――――――――――――――――――――――――――




 エマが目を開けるとそこは牢屋ではなく、ベッドの上であった。一応、布で囲われているので周りを確認できないが、周りから幾つかの寝息が聞こえてくるので、警備隊の仮眠室といったところだろう。


 人は常に魔力を生み出し続けているが、起きている間よりも寝ている時の方が、より多く生み出す事が出来る。なので魔力切れを起こした者は、唐突に寝落ちする事が多い。


「やっぱり耐えきれなかったか。いけると思ったんだけどな」


 倒れた時、誰かが支えになってくれたのか、体中どこにも痛みはない。なので軽々と立ち上がり、出口を探す。それほど時間は経っていないはずなので、まだルナはこの建物にいるはずだ。当てはないが、直感がそう告げている。


「これが姉妹の絆というやつね。私には辛辣な気がするけれど」


「そんな事はない。私はいつも姉さんに親切だ」


 出口と思わしき扉を開けようとした所で、扉の向こうからルナの声が聞こえる。窓越しに見える人陰が変な形をしているので、おかしいと思い扉を開ける。そこに立っていたのは、様々な果物を籠にたらふく乗せすぎて、綺麗な金色の髪だけが籠の横から見えている少女だった。


「ルナ?顔が見えないほどの果物、何処から貰ってきたの?」


「お見舞いの品。エルナー先生が持って行けって」


 普段からあの感じの少女ならば、納得ではある。気軽に他人へ施しを与えていそうだ。


「肝心のエルナーさんは一体何処へ?」


「まだ聞きたい事があると警備隊の人に言われて、嫌々連れてかれた」


「ああ、そう」


 彼らについての話は、問題が発生して途中で終わっていた。問題が一旦解決したので、事情聴取を再開したのだろう。


「それで、あの男は無事なの?」


「残念ながら……助かった。本当に残念」

 

「私もそう思うけど、あれでも大切な情報源だから少しは大切にしないと」


 思い遣りの心や同情の心は一切ないが、ここまで命の危険に晒されておいて、勝手に死なれるのは許せない。それに死んだ2人を見て思ったが、目の前で死なれるのは気分が悪い。


(あの顔は夢に出そう。なんであんな苦痛に顔が歪むまで使い続けたんだろう。スマホ(これ)を使っていたらいつか私も)


「……それで私達はどうしろって?」


「まだ話を聞きたい所だけど、今日は遅いから目覚め次第、家に帰っていいって」


「じゃあ、この果物貰って帰ろう。半分持つよ」


「そこは「姉だから全部持つよ」でしょ」


「私達、歳は一緒でしょ!私が一応、姉だけど!」


 クスクスと笑いながらルナは籠を少し下す。ここから取れる分だけ取れという事なのだろう。正直、エマは籠を持っていないので取れる分には限りがある。それでも出来るだけの分を貰い持ち上げる。


「重っ!ルナはよくこれを持っていられたね。私と力はそんな変わらないでしょ?」


「このくらいなら魔法で補助してやれば余裕。微力だから誰にも気づかれない」


 それだけ細かな魔力操作は逆に大変なのではないかと思ったが、エマは魔法が使えないので本当のところはわからない。


「そういやシスターにどこから言おう。絶対、お小言言われるね」


「もう私は覚悟してる。というより魔法で向かった時点でお小言確定」


 そういえばそうだった。目の前で魔法を使って受験に向かったのだから、普通に怒られるだろう。シスターが怒る事は滅多にないが、一線を超えると本気で怒られる。その姿は、そこらにいるモンスターよりも断然に怖いと、冒険者達に評されている。


「家に帰るのが一気に憂鬱だよ」


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