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典型的な世界で生きていく  作者: 糸島荘
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1-8 事情聴取


 ここは街の南側にある警備隊の詰所の1つ。そこで被害者であるエマとルナは事情聴取を受けていた。被害者である彼女達は優しく慰さめて貰えるはずなのだが、今の彼女達は真逆の状況に置かれていた。

 

「それで君達はどうしてあんな所に居たのかな?」


「えっと、道に迷っちゃってて……」


「君、本当の事を言いなさい?」


 2人組で駆けつけた警備隊が頭鎧を取っており、顔が露わになっていた。両方、男性かと思っていたが片方は女性で、彼女に優しく詰められていた。言葉遣いは確かに優しいが、笑顔の奥に怒りが見えるのは気のせいだろうか。


「な、なんのことやら」


「私は君達が空を飛んでいたのを見たのよ!」


「あー……あれ貴方だったんですね」


 忘れていたが、確かに警備隊の1人には見つかっていた。鎧越しだったのと、大勢の声が混ざり合っていたので気が付かなかった。それどころではなかったので、すっかりと記憶から抜け落ちていた。


 街中での魔法使用は厳重注意、とはいえ命を狙われたので怒るに怒れないという状況なのだろう。飛んでいたのは全然関係ない時だったのだが。


「今回は許しますけど、次はないですからね!」


「はい、すいません……」


 彼女はエマから視線を外し、エマの隣に座っているルナに視線を向ける。


「君もね」


「すいません。気をつけます」


 ルナは相変わらずの無表情、無感情だ。ナイフで脅されていた時はあんなに泣きそうな顔だったというのに。


「それでエルナーさん」


「は、はい!」


「そんなに怯えないで下さい。もう私は怒っていませんから」


 ヒーローを自称した少女、名前はエルナーというらしい。エルナーは別室で別の隊長に怒られていたらしく、元々小柄な少女だったのが、更に縮こまっている。独断専行だとか、やり過ぎだとかの声が別室から聞こえてきていた。


()()ってまだルーちゃん怒ってるんじゃん!」


「それは知りません。弁明の方はご自分でお願いします。それよりも彼等に心当たりはありましたか」


「うーん……手応えは全くなかったからなぁ。魔導具いっぱい持ってたくらいしか印象ないなぁ」


 手応えが無かったと聞いて、正直唖然とする。全員一撃で仕留めていたとは言え、あれだけの相手を手応えがないと評するとはエルナーはどれだけ強いのか。


 それに印象といえば、リーダー格が見せた回転斬りやナイフ捌きなんかは入らないのだろうか。魔導具を大量に持っていたのも本当はもっと驚くべき事態だ。魔導具はそう易々と手に入らない。素材である魔石が高いというのもあるが、加工も難しいと聞く。そんなものを大量に手に入れることが出来る集団がいるのなら、場合によっては国防に関わる事態だ。そういえば彼等は魔導具を狙っているとか言っていた気がする。


「魔導具を狙うギャング的なものはないのでしょうか」


「あるにはあります。ですがそれで名を挙げている組織は聞いた事がありません」


「なんでですか?魔導具を集めれば組織力が手軽に上がるんじゃ」


 素人考えではあるが、魔導具はあるだけあると良いはずだ。ならばそれを狙うギャングが多くあっても良いはずだ。その1つが彼等なのではないのだろうか。


「総叩きに合うからです。昔、ギャングスターなる組織が魔導具を何処からともなく集め、売り捌いて名を挙げていたのですが、警備隊だけでなく、他の組織からもメンバーが狙われ壊滅しました」


「つまり暗黙の了解があるという事なんですね」


「そういうことです。なので彼らは珍しい部類に入ります。彼等が目覚めれば詳しい話を聞けるのですが」


 エルナーが倒した3人だが、相変わらずまだ気絶しているらしい。ここに来てから30分、移動時間を含めると50分以上経過している。リーダー格の男は重症だったので仕方ないと思うが、軽くいなされていた男はまだ軽症だったのではなかったか。


 エルナーと警備隊の女性が話している間にそんな事を考えていると、部屋の外からけたたましい足音が聞こえてくる。


「大変です!リーダーと思しき男以外、死んでいます!リーダーと思しき男も目覚めましたが、衰弱している状況です」


「なんですって!医療班は何をしているの!」


「応急処置はしているのですが、原因はどうやら内部にあるらしく手に負える状況ではないとの事です」


「今すぐ行きます!エルナーさんも来て下さい」


 真っ先に立ち上がっていた警備隊が、縮こまっているエルナーの手を引き扉から急いで出て行く。ここで待てともついて来いとも言われていないエマとルナは、折角なのでついて行く事にする。


 今いる2階から1階に降り、そこにある石で出来た頑丈な扉を開けると、更に石階段が続いている。降りた先には鉄格子が並んでいるが、奥にある3つの牢屋にしか人影はない。


「こちらです。現在、医療班に神官を呼んで来てもらっていますが、今のままでは長く持たないとの事です」


「おい!しっかりしろ!お前達の身体は一体どうなっているんだ!」


 警備隊に揺すられ、リーダー格の男はうっすらと目を開ける。気を失っていたというより、寝ていたのだろう。こちらを見て、戦っていた時よりも元気が感じられない笑顔を見せる。


「よお、ガキ共。それに警備隊か。元気そうで何よりだ」


「貴方達なんで着いてきてるんですか!ってそんな場合じゃない。起きたなら情報を吐きなさい!」


 警備隊の女性が胸ぐらを掴むが、手と足が固定されているからか、抵抗する元気もないのか男は抵抗しない。


「吐くと思っているのなら飛んだ笑い話だ」


「そうか、ならばお前達を蝕んでいる病については喋る気があるか?」


「そうだな、それくらいなら別に良いだろう。これは()()だよ」


 大して重要な情報ではないと男は考えているのか、ペラペラと自身を冒している病について話し始めた。


「俺達はな、魔導具を常に使っている。魔導具は便利であると同時に危険でもある」


「そんな話は聞いた事がないですね」


「それはな、魔導具を使い過ぎる事がないからだ。精々使うといえば、魔法の補助くらいだろう。その程度なら負荷は少ない」


 専門外というのもあるかもしれないがエルナーと警備隊が顔を見合わせているあたり、誰も知らない情報だという事だ。エルナーに関しては、魔導具の事に興味がない節もある。


「それで、人が死ぬ程の負荷なら使うのを辞めるはずですが、貴方の感じからして何か対策があるのですね」


「そうだ。謂わばこれは()だ。毒ならば、回りきる前に治癒する事が出来れば助かるという訳だ」


「つまり解毒しなかったから2人は死んだと」


「そういう事」と言いながら男は隣の牢屋に転がる死体を見る。しかし、その視線は哀れみというよりも、侮蔑や嘲笑といった感情を含んでいるように感じた。


「貴方と彼等の違いは何ですか。話の流れからして貴方も同様の()が回っているはずですが」


「それは個人差だ。弱い奴ほど毒に飲まれる。そこの嬢ちゃんの様にな」


「何故私を引き合いに出すんだ!」


 この男の前では魔術を使っていない。なので魔導具を持っている事はバレていないはずだ。弱いというのは事実かもしれないが、捕まっているこの男に馬鹿にされる筋合いはない。


(ムカついてきた!解毒しなかったから死んだって事は、解毒する方法があるって事だよね?なら魔術でどうにかしてやろうじゃない!)


 教会には様々な人が訪れていた。自分に悩む人、傷を受けた者、呪いを受けた者など、それらを教会の人間は治さなければならない。シスターはいつも魔法でそれをこなしていた。


 この場合考えられるのは解毒魔術だが、あくまであれはあの男の比喩に過ぎないのだろう。解毒魔法は下位魔法なので少しでも光属性に適性があれば使用可能だ。だがそんな容易い問題ならば、警備隊の医療班が気づいているはずだ。


 警備隊の医療班は光属性魔法を使う事ができるのが、入隊する条件だと聞いた事がある。そんな彼らが、毒程度ならば気がつかないはずない。相当強力な毒という線もあるにはあるが。


 原因がはっきりとわからなければ対処のしようがない。こういう時だからこそ、エマには頼れる物があった。


「私を馬鹿にした事を後悔させてあげるわ!」


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