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典型的な世界で生きていく  作者: 糸島荘
7/15

1-7 決着、ヒーローの正体は

 ヒーローを自称する少女は返事を待たず、一歩を踏み出す。それに合わせ、スマホに描かれている魔法陣を左手の人差し指で触る。これだけで魔術は発動する。後はスマホを持っている反対の手で、照準を合わせるだけだ。


 少女の一歩は相変わらずとても大きい。そして何より速い。相手に反応させる隙も与えず、手前に立つ男の腹に重い一撃をお見舞いする。


 当然、手前に立つ男は殴られた衝撃でよろめくが、顎に一撃をもらったリーダー格の男とは違い、呻き声を上げながらも倒れない。ナイフも落としていないのは流石と言えるだろう。


 これは奴がリーダー格の男よりも頑丈なのか、少女の一撃が弱くなったのか、それはわからないがきっと後者だろう。証拠に先程纏っていた電気を今回は纏っていなかった。


「こいつよくも!どうせ俺もやられるならこいつを!」


「そんな事させない!『氷柱槍』!」


 後ろの男は確実にルナの命を奪う為、首筋から一度離し勢いをつける。それをエマは待っていた。というよりそうじゃなければエマから手出しは出来なかった。


 問題はここからだ。エマの左手から氷で出来た槍が生成され始める。狙うはルナに当たらないようにナイフ、もしくはナイフを持つ手に当てなければいけない。的は小さい、だが今のエマは当てられる気しかしていなかった。


(どうしてだろう?リーダー格の男(あいつ)が倒れるまでは動く事すら出来なかったのに、今は出来る気しかしない!)


「発射!」


 形作られた氷の槍をナイフよりも下、何もない空間に目掛けて飛ばす。手前の男は苦しみながらも槍を止めようと動くが、少女の回し蹴りによって今度こそ耐えきれず蹲る。


 照準は狙っていた位置に飛んでいる。だが振り下ろされるナイフが、ルナの首筋を切り裂く方が速いのは明白だ。ならばどうするか。それはもちろん1番信頼出来る私の妹、ルナに任せる。


「ルナ!」


「わかった、姉さん!」


 声を掛けるまでぐったりしていたルナだったが、目を開けると同時に肘打ちを決める。幾らひ弱な少女の力と言えど、急に腹を殴られれば、大の男だろうと多少は怯む。


 男は耐えきれずルナを離し、少ししゃがみ込む。程度で言えば少し屈んだ程度だったが、エマに取ってはそれが良かった。


 ナイフよりも下の位置を狙った氷柱槍は、手の位置が下がった事によりナイフを持っていた手に刺さる。ナイフは地面に落ち、男の手からは鮮血が舞うが、すぐに傷口から凍り始める。


「ぐっ、めちゃくちゃ痛ぇ。もう俺達には勝ち目がない。だが、こいつだけは殺す!」


「させると思う?」


 手前の男を完全に制圧した少女が、次の標的へと向かう。相変わらずの異常な速度で手負いの男に殴りかかる。ナイフを落としてしまった男だが、代わりに刺さった氷の槍を武器として振り下ろす。


 しかし、氷で出来た槍なので耐久性は当然ない。少女は槍を砕きながら男の顔面に強力な一撃を叩き込む。男は勢いよく吹き飛ばされ、数10メートル先のゴミ箱にゴールする。


「天誅!」


 結局のところ多少の手出しはあれど、エマやルナより小さな少女が3人全員倒してしまった。良かったと一息つくと共に、今の行為は危険だったと自己分析する。たまたまルナが察してくれて、たまたまこの少女がとても強かったから今の場面は成功した。魔術が当たっていなければ、いやこの少女が介入しなければルナは殺されていた。それほどの軽率な行為だった。


「すいません、一撃で仕留められませんでした」


「ん?何のこと?君は魔法を当てたじゃないか」


「でも、ルナを危険に晒して……」


「姉さん、それは違う。姉さんが隙を作ったからこの人が後ろの男(こいつ)を倒せた」


 そうかもしれない。結果が全てだと言う人間もいるが、危ない橋を渡ったのもまた事実だ。


「そうだ、君は君に出来る精一杯をしたんだよ。君が気に病む必要はないよ」


「そう……なんですかね……」


「そうだよ!君は妹を助けたヒーローだよ!」


「ヒーロー……ありがとうございます。少し心が軽くなりました」


 家族を、妹を助けられた事は本当に良かったと思う。ヒーローと呼ばれる資格はないと思うが、それでも今はこの賞賛を素直に受け取る事にしよう。


「姉さんはヒーロー。それを受験でも発揮してほしい」


「……受験!忘れてた。今からでも間に合うの!?」


「んー、多分後処理もあるから間に合わないね!」


 そんな元気に言わないでほしい。間に合わないのなら特別措置などをしてもらえるのだろうか。してもらえないと困るのだが。1平民に対して特別対応してもらえるとは思えないが、後でシスターに相談するしかないか。


「ヒーローはアールレイ魔法学院に知り合いなんかは」


「通報があったんですが大丈夫ですか……ってこれは一体どういう状況ですか!」


 走ってきたのは鉄鎧を着た2人組だ。この格好から察するに警備隊だろう。派手にやっていたので道行く人が呼んでくれたか、ヒーローが予め呼んでくれていたかのどちらかだろう。


 倒れている男は3人、1人は口から血を噴きぶっ倒れていて、1人はお腹を抱えてうずくまり気絶していて、最後の1人はゴミ箱にゴールイン。職務質問待ったなしの状況です。


「この人達をやったのは貴方達ですか!?困りますよ暴力沙汰は」


「ち、違うんです!私達は」


「君達、勝手に勘違いしてもらっては困るな。この娘達は暴漢を倒したヒーローだぞ」


 警備隊2人は目を白黒させている。3人の少女達が怪しい男達を倒したと自称していても、信じる者は少ないだろう。急にヒーローだのと言われても、困惑するのは当然だ。


 しかし、警備隊が驚いたのはそこではなかったらしい。警備隊の視線はエマやルナではなく、オーバーオールを着た少女に向けられていた。


「どうしてエルナー様がここにいらっしゃるのですか!」


「やっぱり凄い人なんですか?」


「知らないのですか?彼女はアールレイ魔法学院の教員でありながら、警備隊第2師団の特別隊長です!」


 警備隊は国全域の治安を守らなければならない以上、1つの組織では混乱が生じる可能性がある。なので地域毎に幾つかの師団に分けて、警備に当たっているという話を教会に来た警備隊の兵士が話していた。特別隊長というのは聞いた事がないが、偉い立場である事は間違いないだろう。


「あ!君達には名乗っていなかったね!」


 彼女は一度背中を向けてから、ポーズを取りながらエマとルナの方に向き直る。肘を曲げ、手を斜めに伸ばしながら若干屈む体勢、これが彼女なりのヒーローポーズなのだろう。


「私はエルナー・スミス、普段は学校の先生だけどそれは仮の姿、裏ではヒーローとしてこの街を守っているという訳だ!」


 ドヤり顔でこちらを見ているが、エマは裏でヒーローという所よりも学校の先生である事に注目していた。


「エルナーさん!お願いがあります!」


「なんでも言ってみなさい!ヒーローに出来ることならなんでもしてあげよう!」


「このままじゃ受験に間に合いません。私達に再受験の機会を与えてください!」


 エマがそう言い頭を下げると同時に、ルナも一緒に頭を下げる。頭を下げているので顔は見えないが、ヒーローポーズを辞めて腕を組んでいるのが見える。


 受験規則では受験者が大勢いる為、再受験は行えない。理由の確認などが難しく、正当性を認める事が難しいとか書いてあった。なので今彼女に認めて貰えることが出来れば可能性がある。


「君達……受験を受ける必要はないよ」


「な……なんでですか?」


「それはね、君達はもう受験に合格したからさ!」


 アールレイ魔法学院に入学する方法の1つ、教員による2枠分の推薦制度。今、彼女達はアールレイ魔法学院へ入学する事が決まったのである。


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